クラスごと異世界転移されたが全員最強【勇者】、俺だけ最弱【ノービス】。追放されて弱いと思っていたが、規格外の戦闘力になりまして~敵対することになった【勇者】たちが弱すぎる件~
大田 明
第1話 召喚された勇者たちとその他の俺
俺こと
そこは見たことの無い城の庭らしく、周囲には大勢の人たちがいる。
城は損壊が酷く、廃城とまでは言わないが良い状態とは言い難い。
鎧を着ている者や、僧侶風の恰好をしている者たちがいるが……皆疲弊している様子だ。
しかしあれだな、これは異世界に来てしまったようだな。
俺は唖然としていたが、だが自分の周りには見知った顔がいることによって若干の冷静さを保っていた。
鳳凰学園3年B組の生徒諸君――俺のクラスメイトたちが一緒にいるではないか。
全員が驚き、中には怯えている者や興奮している者もいる。
比較的冷静なのは、俺を含めて数人程度ってところか。
「勇者の皆様、どうか我らの願いを聞いてはくれませんか?」
そう言うのは金髪の美女。
大きな緑色の瞳に赤い紅を引いた唇。
綺麗とは言えないドレス姿に、ただ事ではない雰囲気を感じる。
だが誇り高い意志を感じ、高貴な人だと一目見て察することができた。
「あなたは?」
クラスのリーダー
爽やかな青髪に黄金色の瞳。
欧米系の母親とのハーフで、眼鏡がよく似合う美形だ。
大林の問いに、女性が深呼吸をして答える。
「私はローザ。ローザ・ヴァレルシュタイン。このヴァレルシュタイン国の王女です。亡き父に代わり、あなた方を召喚いたしました」
「召喚……この世界に呼び出されたってことですか?」
眼鏡の位置を正す大林。
ローザと名乗った美女は静かに頷いた。
「はい。我々は存亡の危機に瀕しています。この世界はマーギアルナと言いまして、そしてこのマーギアルナでは三つの国が絶妙なバランスを保ち、長い平和の時代が続いていました。しかしカルバラギナという国が別世界から魔王を召喚し、その平和は一瞬で崩壊し、ヴァレルシュタインは崩壊の一途を辿っている状態なのです」
「魔王……漫画なんかでは読んだことがありますね」
「魔王って、マジでヤバくない?」
銀髪のギャル、
緑色の瞳に桃色の唇。
胸元のネクタイを緩めた学生服姿。
胸は大きくスカートは短く、どこか冷静な印象の持ち主の美少女だ。
そんな上坂は周囲の生徒たちと同じく、少し困惑した様子。
「そんなヤバいとこにいたくないんだけど。さっさと元のところに戻してくんない?」
「申し訳ありません……それは不可能なのです」
「はぁ!?」
生徒たちの怒声が一斉に響き渡る。
帰ることができない。
その現実は混乱している生徒たちの怒りを沸騰させるには十分だった。
「ふざけるな! 魔王がいるような危ない世界にいたいわけないだろ!」
「帰してよ! こんなところにいたくないわ!」
「俺もだ! 誰がすき好んで、こんな世界に!」
俺を含めたクラスメイト、総勢27名。
その中の大半の者が怒り狂う。
俺はクラスの中では目立たない存在で、皆と怒りたい気持ちはあるものの、同じように騒ぐのはどうにも苦手だ。
ローザは申し訳なさそうに、しかし願いを込めるような視線を俺たちに向ける。
「本当にすみません……ですが私たちはこうするほか無かったのです」
この場にいる、こちらの世界の者たちは一斉に頭を下げる。
謝罪のつもりだろう、しかし頭を下げられたところで誰も納得はいっていない。
「頭下げられても意味ねえんだよ!」
「いいから元の世界に戻せよ!」
罵声を浴びさせるクラスメイトたち。
正義は我にあり、断罪して当然の空気。
ローザは頭を上げ、しかし淀みの無い瞳でこちらを見据える。
「話にはまだ続きがあります。あなた方を元の世界に戻すことは
「現段階……ってことは、戻る方法はあるってことですか?」
「はい。これをご覧になってください」
ローザがそう言って取り出したのは、青色のクリスタルのような物だった。
両手に納まる程度のサイズで、綺麗に光っている。
皆はそれに視線を集めるも、そんな物を見せられても困るとでも言うように首を傾げていた。
「それは何ですか?」
だが大林だけは違った。
一人冷静にローザに訊ねる。
俺も彼女の説明を聞くため、話す内容に集中することに。
「これは【蒼のクリスタル】。これと同じ物が、他二つの国にあります。カルバラギナには【翠のクリスタル】、アカツキには【紅のクリスタル】。これら三つを集めることが出来れば……三つの願いを叶えることができると言われています」
「じゃあ、三つ集めたら帰れるってことだ」
俺がポツリとそう言うと、全員の視線がこちらに集まる。
少し恥ずかしくなってしまい、俺は苦笑いを浮かべた。
ローザは返答するように首肯し、そして会話の続きをする。
「元の世界に戻るという願いを叶え、そして残りの二つであなた方の好きな願いを叶えることも可能でしょう。金持ちになりたい、永遠の若さがほしい、世界を我が物にしたい……どんな願いでも叶えることができます」
空気が変化するのが分かる。
欲望に忠実な人間は多く、そしてクラスメイトたちもそれは同じだったようだ。
好きな願いを叶えることができる。
それは麻薬のように、皆の細胞にまで欲望が隅々まで染み渡り、歓喜の感情が暴発する。
「どんな願いって、マジかよ!」
「え? 美人になれるってこと?」
「ってか金持ちになりたい! 魔王退治して金持ちになれるとか、ゲームみたいで面白そうじゃん!」
ほぼ全員が狂喜乱舞する。
自身の欲望を叶えることができる、それが嬉しいのはよく分かるが……だが
クラスメイトの中でも冷静な者も数人おり、上坂と大林もそのうちの一人だ。
そしてそれ以外に、
土方はクラスのムードメーカー。
赤髪で高身長、イケメンで人気者だ。
三日月は茶髪でポニーテールを作っている美女。
こちらも背は高めで、胸は小さめ。
女子から人気がある剣道少女。
「ねえ皆、ちょっと落ち着いて」
「おーい、三日月が言ってるぞー。皆静かにしろ」
土方と三日月の声に誰も反応しない。
願いのことで頭がいっぱいになっているようだ。
「それで、クリスタルを集めるのはいいですが……強硬手段しか無いのですか?」
眼鏡を光らせてそう聞く大林。
ローザは頷きながら答えた。
「はい。そのためにあなた方を召喚しました。別の国で魔王が召喚されたように、私たちは勇者を召喚したのです」
「勇者?」
「あなた方のことです。異世界より召喚されし者は、特別な力を持つ。世界を救う勇者としての力を備えているのです」
ローザの隣に立つ男性が、何やら大型の板状の物を持っている。
彼女はその男に目配せすると、彼は歩き出し大林の前に立つ。
「?」
大林の元まで進んだ彼は、板状の物を前に突き出し、何やらブツブツと唱えだした。
するとそれは大きな光を放ち――文字のような物が板状の上に浮かび出した。
「彼のジョブは――【勇者】。特殊能力は【物魔強化】」
おおっ! という歓声が上がる。
【勇者】と【物魔強化】、どちらに驚いたのかは分からないが……とにかく優れた物なのだろうというのは想像に容易い。
「やはり【勇者】……ヴァレルシュタインの者に召喚されし者は【勇者】であるという言い伝えは本当だったようですね」
ローザは嬉しそうに、大林の顔を眺めている。
それから板状の物を持っている男は、次々にクラスメイトたちの前で同じことを繰り返す。
それは『鑑定』と呼ばれる行為らしく、この世界ではいたって普通のことらしい。
履歴書を調べるようなものだろうか?
ちょっと違うけど、自分のことが相手にも分かるようだ。
面白いことに全員が【勇者】だったらしく、ローザはあまりの嬉しさに卒倒しそうになっていた。
そしてとうとう最後、俺の順番が回ってくる。
俺も【勇者】なのは当然だろう。
特殊能力の違いはあれど、周囲にいる異世界人たちは期待に満ちた瞳で俺を見据えていた。
板状の物が光、俺のジョブと特殊能力が判定される。
「ジョブ……え? え……」
「どうしたのですか?」
「あ、少し想定外のことがありまして」
「構いません。教えてください」
何かおかしなことでもあったのか、男は困惑しながらローザとそんな会話をする。
ローザが言ったことに男は嘆息し、そしてようやく俺の能力のことを話し始めた。
「ジョブ、【ノービス】。特殊能力は【合成】」
「【ノービス】!?」
ざわつく周囲。
ローザはあまりの驚きに、大きな目を丸くしていた。
「【ノービス】って、嘘だろ……」
「あの最弱ジョブか?」
「召喚されて【ノービス】って、そんなことあるのかよ」
どうやらよろしくない判定だったようで、ガッカリしているような、呆れているような様子。
そんなに良くないの? 【ノービス】って。
そりゃ【勇者】に比べたら名前負けしているイメージだけど……そんなに悪い?
「ま、まぁ落ち込むなよ、勇樹。お前一人ぐらい、俺が守ってやるからさ」
「落ち込んでないって。何が何やらまだ分かってないから」
「そりゃそうだ。でも本当に落ち込んだ時は俺に言えよ」
笑いながらそう言ってくれる土方。
こいつの笑顔には救われる。
本当に根っからのムードメーカーだ。
「えっと……それでは全員の鑑定が済みましたので、奥の方へと進んでください。話の続きは室内でしましょう」
ローザの言葉に従い、全員がゾロゾロと歩き出す。
召喚された時と違い、希望に溢れているような顔だ。
「すみません、あなたはこちらへ」
「え、俺だけ別行動?」
「はい」
先ほど、俺たちを『鑑定』した男が俺の前に立ち、別の場所へと促される。
何で俺だけ別の場所に?
疑問符が頭に浮かぶが、素直に従うことにした。
「……へ?」
俺が連れて来られた場所は――城の外。
いきなり外に放り出され、城門を目の前で閉められる。
「えっと……あれ? 俺、どうすれば……?」
「知るか。【ノービス】なんて役立たず、好きに生きればいい」
「…………」
城門を守る兵士らしき者が、俺に冷たくそう言い放つ。
あ、本当に最悪のジョブなんだな、【ノービス】って。
まさかこんな扱いをされるとは……異世界から勝手に呼んでおいて、こんな仕打ちはあんまりだ。
俺は怒りを相手にぶつけようとするが、しかしこの男に文句を言っても仕方がない。
悪いのはあのお姫様? それとも、【勇者】じゃない俺か?
どちらにしても、異国の地で一人で生きることになってしまった。
それだけは確かなことで、何も持たない俺はその場で茫然と立ち尽くすしか無かったのである。
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