おじさんのフリしたおばさんとプリンスのフリしたプリンセスでこの国を救おう、何から始める?
@Tokotoka
第1話 穴から異世界のおばさん
飯田佳代。52歳。
2人の子持ち、ダンナ持ち。
3月の終わりのある日、毎年行く山菜取りに出かけた。
近所?家の裏山みたいな物だから、気軽にに1人で出かけた。
トレッキングやハイキングの時のような服装はしてた。
だいたいは、子供たちが成長して着れなくなった、お古のような物だけど。
慣れた山を登って行く。
が、年齢のせいか、足がもつれて、斜面を滑り落ちた。
滑り落ちながら、先に穴があるのが見えた。
人が入れぐらい、大きな穴。
あの穴に落ちたら、マズいと思った瞬間、もう落ちていた。
穴に落ちて、しばらくして気づいたら、何故か、暖炉のような場所にいた。
周りは炭や煤だらけ。
なんじゃこれ?
私は、メアリー・ポピンズか?と心の中で、自分で突っ込んだ。
煙突を見上げた。
空は暗い。
朝だったはずだけど。
そんなに長い時間、気絶してたとか?
周りを見ると、古い西洋のお城のような雰囲気。
石造りの壁にところどころ、灯りが灯ってはいるが薄暗い。
よく見ると今いる場所から、離れてベッドのような物があり、少女らしい姿がボンヤリ見えた。
白い寝巻き?ドレスのような物を着て、私を睨み付けている。
もしかして、誰かの家に不法侵入したか?私は?
が、あり得ない。
部屋は匂う。
獣のような、動物の匂い。
おそらく灯りのために、獣脂を燃やしているせい?
今時、獣脂なんか燃やしている国は?
どこかの奥地ぐらい?
でも、何だか部屋は古く見えるけど、未開な雰囲気ではない。
少女は何か怒鳴った。
これは何語?
また何を言っている。
英語に近い?
なら、英語で話してみる?
「ここはどこ?」
何度か繰り返してみた。
「エバーリア」
どこ?それ?
そんな国は聞いたことは無い。
「あなたは誰?」も繰り返してみた。
「ルカ」に近い発音だった。
「アンタは誰?」に近い言葉を、彼女は何度か繰り返した。
何と答える?
どうやらよくある、タイムスリップ?
タイムワープ?した?
訳のわからない世界に、入ったとしか思えない。
日本語の名前を答えたところで、通じそうにも無い。
「佳代」を連呼してみた。
彼女も「カヨ」と呟いた。
名前は通じたけど、これからどうする?
彼女は身振りで、顔を洗うような仕草をしていた。
ふと自分を見た。
手の甲から、身体全体が煤塗れだった。
おそらく顔も、そうなんだろう。
手のひらも汚れているから、触るとより汚れそうだった。
彼女は立ち上がって、手招きする。
炭の上に座っていても仕方ないから、立ち上がり、少しだけ身体の煤を払った。
彼女は、仕切りの向こうに歩いていく。
佳代も付いて行った。
トイレ兼洗面所のような場所で、たらいの小さいのと、水瓶と甕ががあった。
また身振りで、顔を洗うような仕草。
顔を洗えは伝わった。
鏡は無いけど、たらいの水で顔を洗った。
水はすぐに、真っ黒になった。
たらいの水は、どうすれば?
暗さに目が慣れて、穴があるのが見えた。
そこに水を流した、甕から水を汲みを繰り返しすと、水が透明に近くなった。
彼女は服もはらって、脱げとジェスチャーする。
どこからか、ズボンとシャツのような、白い下着か寝巻きのような物を持って来ていた。
仕方なく、服を脱いで着替えた。
服はそのまま置けと。
部屋に戻り、少女はベッドに腰掛けた。
私に隣に来いと、ベッドを指差す。
近くで見ると、ルカはブロンドの髪に、ブルーの濃い瞳。
大昔に読んだ、童話のお姫様そのもの。
ルカは話しだした。
が、私は半分は理解したか?
多分かなり勝手な推測?
理解した内容はこんな感じ。
「お前はどこの国の者か?」
「日本!」と日本語で答えた。
かなり昔の時代みたいだから、「ジャパン」と答えても、どうせわからないだろうから。
「敵では無いか?」
「違う」と答えた。
「ノー」はそのまま通じるようだった。
「私の秘密を知ったから、生かしておけない」ようなことは、理解した。
マジか?
煙突から落ちたら、いきなり殺される?
何故?
「私はあなたの友達」と言ってみた。
友達じゃ無いけど、敵じゃないのを知らせるには手取り早い。
ドアをノックして、佳代と同年代ぐらいの女性が入って来て、2人で話し始めた。
服装からして、侍女か何かお世話係の人?乳母?そんな雰囲気。
母親とかで無いのは、わかった。
侍女の話す言葉のほうが、短いから少しわかりやすかった。
幾つか国の名前を言った。
全く知らない名前。
何回も確かめる。
また、2人でコソコソ話す。
「何故ここへ来た?ルカを殺すためか?」
とか。
「ノー」を連呼した。
穴から出たらここだったは、わかって貰えそうには無い。
なので遠い国から旅をして来て、近くの木に登ったら、屋根に落ちて、煙突を覗いたら落ちた、と言ってみた。
誰が聞いても可笑しな話だから、信じて貰えそうにはなかったけど。
笑うしか無い。
話していて、笑えて来た。
その笑顔が良かったのか、少し警戒感か薄れた気はした。
こんなところで、昔おじいちゃんが着ていたような、白いパッチとシャツみたいな姿で、死にたくは無い。
気になっていたから、聞いてみた。
「あなたの秘密って、何?」
殺されるなら、秘密が何か理由ぐらいは知りたい。
「本当にお前は何も知らないのか?この国のことを」と聞かれた。
かなり癖のある英語もどきだけど、少しずつ理解出来るようにはなった。
フランス語も混じっているような、感じもする。
「私は何も知らない。国の名前さえ知らない」と。
「国王が亡くなったことは?名前は知っているのか?」
もちろん、「ノー」
侍女らしい人に
「裸にしたけど、武器らしい物は持ってなかった。カバンの中はまだ調べては無い」とか話している。
侍女は、私のリュックを調べた。
中には山菜とキノコの図鑑、地元のスーパーのビニール袋が10枚、小さめの袋が20枚、ジップロック1箱、ラップに包んだ海苔無しのおにぎり3個、小さな鉄のスコップ、地図ぐらい。
1つだけあった大事な物は、太陽光で充電出来る、折り畳みのパネルの充電器。
他に大事な物は、ベストのポケットに入れていた。
スマホ、スイスアーミーナイフ、充電ケーブル、携帯用コンパス、時計とか。
ベストの中味は、取り出しておかないとと思った。
アーミーナイフは疑われかねない。
あんなナイフでは、人は殺せやしないけど。
ソーラー充電器は、ダンナから山の中で迷って、スマホの充電が無くなっても大丈夫だから持って行け、と貰った。
ほぼ使わないから、リュックに入れたままだった。
佳代のダンナは、考古学と植物学、民俗調査をする学者で、未開の地に年の半分以上はいる。
だから、サバイバルキットにはうるさい。
だから、ソーラー充電だの、アーミーナイフは全部持たされた物。
コンパスすら、ほぼ使ったことはない。
ルカは真剣な表情になって、
「私の味方になって」と言った。
「イエス!」大事で叫んだ。
殺されないなら、味方でも何でもなる。
侍女?の名前は、エヴァ。
母の代わりに、私を育ててくれて、私の1番の味方だと。
「敵って誰?」と聞いてみた。
周りの皆んな。
信用出来る人は僅か。
エヴァが事情を話始めた。
この国は今、危機にあると。
彼女には兄が2人いた。
が、最近相次いで、謎の死を遂げた。
落馬だったり、崖から転落したり。
母は私を産んた時に、命を落とした。
父は母をとても愛していた。
母にそっくりな私を見ると、思い出して辛くなるからと、私に男子でも使えるルカと言う名前を付けて、男の子として育てた。
男3人の兄弟として。
兄たちとは、年齢が少し離れているので、後継は兄のどちらかと思って、自分は育った。
が、兄2人が亡くなり、突然隣国のウステバンが、攻め入って来た。
その闘いで、国王である父も亡くなった。
残ったのは、偽のプリンスの彼女だけ。
この秘密、ルカが女であることが、知れたら、周りの国はこぞって攻め入って来るであろうこと。
だから、彼女がプリンセスであることは、守り抜くべき秘密であり、知る人はエヴァだけだと言うこと。
それは何とか理解した。
エヴァはこうも話した。
本来ならば早く即位をして、国を建て直すべきところ、ルカは泣くばかりで、国の再建には取り掛かれていないことも。
秘密を知ったなら、アナタには協力して貰うしか無い。
けれど、今の世の中はまだ封建の時代。
女性の言うことなど、耳を貸す者はいないから、ルカの助けになって貰うとしても、男性になって貰うしか無い。
なんじゃそれ?だけど。
わざわざ男のフリをする?
こんな訳のわからない世界で?
「リボンの騎士」の世界に来たのか?って思っていたら、私までおじさんになれとか?
が、生き残るには、どうやらそうするしか無いことも理解した。
ここまで話して、断ったら私の命が危ない。
ま、もう別に死んでも良いけど。
ダンナは最近では、1年の大半はいないし、子供らも大学だの大学院だので、海外に住んでいたり、離れて住んでいる。
私ごときがいなくなっても、困る人は正直いない。
仲良しの由美だけは、寂しがってくれるかも知れないけど。
どうやって来たのかもわからないから、帰り方もサッパリわからない。
言葉も慣れれば、何とかなりそう?
国の危機と聞いたら、今の自分の平凡な毎日よりは、誰かの役に立てるのかも知れない。
佳代は根が楽観的で、困っている人には弱いから、情に流されやすい。
とりあえず、国は危機のようだけど、どう危機なのかは、サッパリとわからない。
眠くは無いけど、疲れた。
色々とあり過ぎて。
「私に何が出来るかは、わからないけど、味方にはなる。どうすれば良いかは、明日以降話しましょう」と言うと、ルカは泣きながら手を握って、感謝してくれた。
エヴァが、隣にベッドを用意してくれて、「遠い国から来た、言葉がよくわからない客人」と言う話で、明日以降はしばらく周りを観察してみることに。
ベッドと言っても、藁のマットらしく、チクチクが気になって、眠く無いのもあり、眠れない。
そりゃ私の体内時計だと、多分まだ昼間のはず。
穴に落ちたのは、多分朝8時前。
ルカの寝息が聞こえて来たから、そっとベッドから出た。
トイレらしき物もあったから、ついでにトイレもしようかと。
佳代の洋服は煤だらけだったけど、ファスナーの中、ポケットの中は無事で、皆んな綺麗なまま、取り出せた。
時計を見る。
1時だった。
さすがのG-SHOCKだから、頑丈。
これも息子のお古、
隠し場所は、このトイレ?の部屋の、棚の隙間に押し込んだりした。
後で出すにしても、今色々見つかるのは、マズい感じはした。
信頼を得てかは、ちゃんと出して見せるほうが良さそう。
長年主婦をやったせいか、煤まみれの洋服が気になる。
部屋には窓があった。
開けてみると、外開きに開いた。
煤だから、まずははらうのが先決。
ほぼナイロンやポリエステルの、表面がツルツルした物が多い。
外がナイロン素材の、息子のお古のパンツは、窓から外で振ると、ほぼ汚れが落ちた。
撥水加工?さすがのゴアテックス様。
なら、ベストも同じだから大丈夫?
襟元あたりは、フリーズのようになっているから、そこは残った。
リュックも、解決。
下着は汚れてはいない。
長袖の上下の保温下着も、パンツやブラも。
上に着てたシャツは、袖だけが1番汚れていた。
かなり叩いてみたりしたけど、繊維の中に入り込んでいる。
仕方なく、袖を重点的に水で洗ってみた。
水道は無いから、甕にあるだけの少ない水しか使えないけど。
かなり良くなったので、窓枠に干して、飛ばないように、床にあった石を置いた。
洗濯は大嫌いだけど、何だか気分は良くなった。
明日から男のフリをするなら、ブラは必要ないな、と考えた。
色々やって来たせいか、生まれつきかはわからないけど、佳代の身体には、あまり凹凸は無い。
あまりと言うより、ほぼない。
胸は筋トレしてる、そこら辺の男性より、小さいか?ぐらい。
更年期になって、少し増量。
痩せ過ぎの範囲から、痩せ気味までは太った。
ので、人生初食事を少し減らしてみたが、ホルモンのせいか、代謝が落ちて体重は減らない。
が、凹凸は相変わらず無いから、ブラをしないと胸で、女性とバレることは無さそう。
髭は生やせないけど、ゆったり目の服装なら、おそらくバレない。
靴もトレッキングシューズもどき。
娘が昔履いてた物。
彼女のサイズは、今や25、5センチだから、24センチは入らない。
身長もあのルカや、エヴァよりかなり高い。
同年代でも高いほうの、170センチ近くある。
声も低目だし。
息子は身長も高いけど、男子の割には声が高い。
高校時代の友達は、私と息子を間違えて話し出したこともある。
他には?
疑われそうなのは?
胸からウエストあたりに、念の為に晒しを巻くか?ぐらい。
この年齢だと、顔もおじさんとおばさんは、似て来る。
男性に間違われたことは無いけど。
髪もちょうど肩の辺りまでに、短くしたところ。
喉仏ぐらいか?
でも、あまり目立たない男性もいる。
おじさんに見えるかどうかを、真剣に検討している自分が、笑えた。
今朝は単なる山菜採りに、出かけただけのはずだったのに。
何故を考えても仕方ない。
おばさんは、現実的なんで。
今、目の前にある事を、とりあえず処理するのは得意。
この国がいったいどうなっているか、見て聞くしか無い。
しばらくは言葉が不自由と言うことで、観察に徹する。
後は信頼を得るために、ルカと話すしか無い。
国の一大事の時に、泣いてばかりいる?
そんなことで、どうする?と感じた。
国王になろうと、なるまいと、泣いて無いで、行動しろよ!とも思う。
まあ、昔のお姫様はそんなもんか?
が、大事な時に女は役に立たないとか、そう考えられるだけで、腹立たしい。
女だからって、何でも泣いて誰かに何とかして貰おうなんて。
今どきのアニメは、スライムに転生して、スライムが国を治める話も人気。
人間でなくても良いんだし。
女だからって何?はある。
佳代が出来ることがあるかは、わからない。
が、多分少し先の未來から来たのだから、何か少しは役立つことはあるだろうと、考えた。
巻き込まれ事故だけど、死ぬまでこの世界から逃れられなかったとしても、ここで死ぬのも、悪くは無いとも。
心残りは、あるにしても。
佳代に心残りがあるとすれば、亡くなったおじいちゃんが作った道場に通う、子供たちだった。
本当は佳代も、自分の仕事を続けたかった。
が、おじいちゃんの道場を守るには、自分がやめるしかなかった。
父親は宮勤めで離れていたし、母も同じ上に、運営は無理。
子供たちは継いでくれそうな気配は、今のところは無い。
それぞれ好きなことを、やっている。
親友の由美は、病がある、
何故こんな、古い城のトイレのような場所で、こんなことを考えるハメになったかは、わからないけど、明日のためには、そろそろ寝ないといけないとも。
昔の時代だから、多分朝は明るくなれば、皆んなが活動を始めるだろう。
明るくなったら起きて、暗くなったら寝る。
考えたたら、超ヘルシーな生活かも?
何なら肉を食べなければ、ヴィーガンの人たちより、健康的かも?
そんな考えが浮かんだら、また笑えた。
何故は考えない。
考えてもわからないし、戻り方を考えて時間を無駄にもしない。
もういつ死んでもおかしくないぐらい、まあまあ生きて来たから。
どうせ、死ぬ時は1人だし。
おばさんを、舐めるなよ。
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