※ 第21話 抱き締めてくれてありがとう


「持ってきたぞ」


「ありがと。……小さくない? これで殺れるの?」



ベルナと協定を結んで5日後。

先日の様に抱かれるフリをして個室に入り、中で手渡されたのは私の手の平に収まる程小さな拳銃。

まるで子供がごっこ遊びに使う玩具みたいだ。



「心臓か頭に押し付けて撃たないと威力が足りないかもな。だが懐に潜り込むのはお前の得意技だろう?」


「得意って言うかそれしか手段が無いだけなんだけどね。

でも、うん。少なくとも絞殺やオーバードーズよりは確実に殺れそうだ。逃走経路の確保は?」


「抜かりない。お前がミスらなければな」


「信じてるからね。じゃあ早速明日決行しようと思ってるんだけど」


「私は構わないが……これまでサラに抱かれた事は? いきなり誘っても怪しまれるかもしれない」


「大丈夫。もう、何度も抱かれたし、それ以外の事もさせられた。奴とのプレイ内容を教えてあげようか?」


「いや、良い。まだ夕食を食ってないんでね」


「賢明だね。じゃ、よろしく」



こういうのはベルナの気持ちがブレる前にさっさと終わらせた方が良い。

この日の為に私はどんな屈辱にだって耐えてきたんだから。



◇◇◇◇◇



翌日、夕陽が落ちかける時間。

それでもビルの中は明かりが灯って昼間の様に明るい。

そんなビルの中でサラは風を切って歩いている。

ヘブンズツリーのボスであるサラに取り入たい奴はそれこそ幾らでも居るけど、私程奴の命令に素直に従う奴は他に居ない。



「サラさまぁ♡ どうかメリタを虐めてくださいませっ♡」


「あら、最近はベルナがお気に入りじゃなかったの?」


「ベルナ様は淡白で……以前サラ様に縛って鞭で叩いて頂いた時の様の快感が忘れられなくってぇ……♡」


「ふふ、あんな野良猫みたいな跳ねっ返りが良くこんな淫乱な奴隷になったものだわ。

良いわ、今日は鞭とロウソクで可愛がってあげる。

プレイ用じゃない、純正の真っ白なロウソクで、ね?」


「あぁ、サラ様……っ♡ メリタはサラ様の奴隷でございますぅ……っ♡」


「良い心掛けだわ」



向かう先はこのビルの最上階。

サラだけが使える調教部屋。

堕ちたフリをして、サラを誘惑する度にその部屋で私はコイツの調教を繰り返し受けた。

……奴に抱かれる度に疼きと嫌悪感で狂いそうだった身体と心も、今では随分と慣れた。



「さぁ、服を脱いで裸になりなさい」


「はいぃ♡」



サラの命令に従って服を脱ぐと、その下は一糸まとわぬ姿。

両手に枷を嵌められて足にも枷が嵌められる。

その枷は天井と床に埋め込まれた金具に固定されて私は身動きが取れない状態に拘束された。

そして、サラは机の上に置いてあったロウソクを持って火をつけると私の身体目掛けて垂らした。



「ああぁぁぁっ!!」



熱い。

そりゃそうだ、高熱で溶けたものを掛けてるんだから。

何度も何度も垂らされるロウの雨に悶え苦しむ。

それでも薬の影響からか、身体の奥底から湧き上がってくる疼きが収まらない。



「ふふ、辛いでしょう? 熱いでしょう?

貴女みたいな変態マゾが喜ぶと思って準備してあげたのよ」


「あ゛ぁっ!♡」


「ほぉら。もっと欲しいのでしょう? もっと私に虐めて欲しいのでしょう?」



サラは私の事を嘲笑いながら身体に火傷を刻みつけてくる。

時には蝋だけではなく、その火で直接炙り責められる。

私はそれを必死に耐えて、身体を捩らせる。

苦しいだけじゃなくて、感じている演技もしなきゃいけない。



「ふぅ……っ、……ぅ……♡♡」



「あらあら? 声を我慢するなんて生意気ねぇ」



そう言って手に持ったのは……バラ鞭。

音は派手だけど、力が分散するのでそこまで痛くはない。



「ふっ!」


「んんっ……ぁ、あぁっ♡♡」



鞭が振るわれる度に、冷えて身体にくっ付いた蝋が剥がれ落ちる。

何度打たれただろう。

身体の蝋が全て剥がされる頃には息も絶え絶えになって、自分を吊りあげる鎖に何とか支えられている状態。



「はぁ、はぁ……サラさまぁ……っ」


「ふふ、そろそろベッドに行きたい?」


「やぁ……っ、少し休ませてください……」


「だーめ。ほら、しっかり立ちなさい?」



拘束を解かれ。無理やり立たされて引き摺られる様に移動する。

もう身体にはほとんど力が入らない。



「はぁ……っ、はぁ……っ♡♡」



ベッドの上に投げ出されて荒い息を吐き出す私をサラはニヤリと笑って見下ろす。



「これ、使ってあげる」


「やぁ……っ」



弱々しい私の抵抗も虚しく、首筋に媚薬を打ち込まれる。



「はぁっ! あぁっ! サラ様ぁっ♡ サラ様ぁっ!♡」


「ふふ。可愛い声で鳴くじゃない」



疼きから逃れたくて藻掻くとサラが私を組み敷いてキスをしてきた。



「あぁっ! サラ様ぁっ!♡♡」


「メリタ、貴女の主人は誰?」


「サラ様ですっ! 私の御主人様ぁ!♡」


「そうよ、貴女は私の奴隷なの」


「あぁっサラ様ぁ!♡ メリタの事もっと可愛がってくださいぃ」


「ふふ、素直なメリタはとっても可愛いわね」



サラは私の胸に頬を寄せ、身体を抱き締めてくれる。

あぁ、嬉しい……





密着してるって事は、視界を塞がれてるって事だから。



「……え」



枕の下に右手を差し入れて小型拳銃を掴み、サラのこみかみに押し当てる。

サラは金属の感触に一瞬で我に返って……だから、さっさと引き金を引いた。



「かっ……⁉︎」



パンッとサイズ相応の銃砲が鳴り、サラはビクビクと痙攣しながら側頭部の穴から血を吹き出している。

……やっぱり威力は弱い、か? サラを押し除けて、銃を心臓の部分に押し当てる。

銃弾を残す意味は無いから、全て撃ち込んだ。

……うん。ちゃんと死んだな。



「後はベルナが上手くやってくれる事を祈るしかないな」



グッと伸びをする。

やっと一仕事終えた。今までは毒や薬を使って遠隔で殺してたけど、こうして直接殺すのはやっぱり面倒だな……



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