第28話 進む開発

「こんな感じでどうだ?」


「うん……もっと小さい方が良いかも。ポケットに入るくらいのサイズ」


「オリハルコンを使うとなるとギリギリだな……じいちゃんにも相談してみるか」


「ありがと、レンちゃん!」


 レンは持ってきた設計図を畳むと、工房を駆け出ていった。


 製作する魔法具が決まって2週間。メリナは魔導書を読み漁り、レンは設計図を作っては持ち込んできてくれている。


 グヴァンは訴訟の最中でも商品を置いてくれる店を探し回ってくれていて、この辺でバーグラーを毛嫌いしている店は一通り味方につけてくれた。


 俺はというと、メリナが作った魔法の修正が仕事だから、今のところ雑用くらいしかできていない。工房の掃除もいい加減飽きてきたところだ。


「調子はどうですか?」


 暇を持て余して、メリナに訊ねた。


「うーん、もうちょっとです」


 少し悩んでから、苦笑を返すメリナ。昨日も同じ回答だったから、煮詰まっているのだろう。


「心を読み取る魔法は見つけたんですけど、防御魔法と強化魔法の組み合わせが難しくて……飛行とか耐水とかも必要ですし」


 先週メリナが決めた要件の通りに作れば、間違いなくどの会社にも負けない魔法具になる。それは間違いない。


 問題は、機能が多すぎる点だ。バーグラーに奪われた特許を侵害しないようにするために、これまで使ってこなかった魔法を使う必要がある上に、これまで例がないほど多機能なのだから、メリナが苦戦するのも当然だろう。


「戻ったぞ」


 と、そこへグヴァンが帰ってきた。外回りの成果は表情を見れば分かるが、今日はどちらとも言い切れない微妙な顔だった。


「どうでした?」


「卓上ライトを置いてくれるって店は3軒見つけたんだが、弁護士の方はまるでダメだな」


 営業としては上々で、もう一つの仕事は空振り。それなら微妙な顔なのも無理はない。


 外回りのついでに弁護士探しに奔走してくれているグヴァンだが、やはり今回の訴訟で代理人を務めてくれる人を見つけるのは容易ではない。


 大企業を相手に特許侵害で訴えられて、しかも事情はともかくとして向こうの言い分が正しいのは明らか。勝てもしない訴訟を引き受けてくれるお人好しは、この街にはいない。


「しょうがないですねぇ」


 やり取りを聞いていたルクシアが、ため息を吐いて言った。


「じゃあ私が弁護士として法廷に出向きましょう」


「は!?」


「さすがに勝つのは無理ですが、記念大会までの時間稼ぎくらいならまぁ良いでしょう。その代わり、異世界生命に気に入ってもらえるだけのものを作ってくださいよ?」


 驚くグヴァンを尻目に、ルクシアは俺に笑みを向ける。そういえば、名乗った肩書きの人間だと相手に認識させることができるんだ。弁護士と名乗れば裁判官もバーグラーも、ルクシアを弁護士だと思い込んでくれる。


「素晴らしいざまぁ展開、期待してますからね!」


「頑張ります」


 天使らしからぬ悪い笑みを見せるルクシアに、そう答えた。


     ◇


 その日の夜、メリナは魔法を完成させて、いよいよ俺の出番がやってきた。


「今度はKotlinか……」


 母親が遺した魔法を徹底的に避けた結果、メリナはこの2週間で自分の魔法を作り上げた。


 根本から違うのだから言語も変わる、ということだろうか。Pythonだった魔法が、今度はKotlinだ。


「大丈夫そうですか……?」


 メリナが心配そうに覗き込んできた。Javaに近い言語だし、アプリ開発でよく触ったから問題はない。


「大丈夫ですよ。早速取りかかります」


 音声認識の機能から、まずはいつものようにマジックナンバーから直していく。関数を切り分けて単体テストを行い、ちゃんと動くのを確認。


「ほんとにありがとうございます」


 となりに座ったメリナが言った。


「ショートさんのおかげで、工房を建て直すことができました。今もこうして手伝ってくれて……」


「ぼくもメリナさんに助けてもらいましたから」


 この世界でやっていけると思えたのはメリナと出会えたからだ。恩があるのは俺の方なんだから、手伝うのは当然だろう。


 ……いや。それだけじゃない。


「メリナさんと一緒にこうしてるの、好きです」


 視界の隅で、メリナが目を丸くするのが分かる。何だか恥ずかしい。


「変なこと言ってるかもしれませんけど、メリナさんと一緒に魔法具を作るの、好きです」


「わたしも……わたしも、ショートさんが直してくれてるのを見るの、好きです」


 頬を赤くして、笑いかけてくるメリナに、顔が熱くなって、俺はソースコードの方へ向き直った。

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