やらかし勇者パーティーfeat.ジト目の魔王様

タツダノキイチ

第1話 勇者パーティー、やらかす01

取ってつけたような賢者の称号をもらい、勇者パーティーに参加させられてからもう三年。

長い旅の末、私たちはようやく魔王城に足を踏み入れた。

「おい! おそらくそっちは罠だぞ!」

「え? そうなのか? でもこっちの方が近道っぽいぜ?」

「いや。あえて危険を冒す必要はないだろう」

「あはは。いいじゃん。どうせまた魔物がわんさかでてくるだけでしょ? そのまま突破しちゃおうよ!」

「あのなぁ……」

「私はどこまでも勇者様についていきますわ!」

「よっしゃ。多数決で決定な。それじゃあ、このまま突っ込むぜ」

「「おう!」」

という感じで勇者はどんどん進んでいく。

この史上最強との呼び声高い勇者パーティーだが、四分の三が単純な思考の持ち主だった。

ヒトの身でありながら卓越した剣技と恐ろしいほどの魔力を持つ勇者アレン。

同じくヒトながらも魔物を弱体化させ魔法を防ぐ力をもった聖女ミリエラ。

そして、ドワーフの王が一目も二目もおくほどの戦闘力を持つ戦士エレナ。

その三人はアホみたいな戦闘力をもっている。

しかし、勇者は単純な熱血漢でいい意味でも悪い意味でも純粋。

聖女は勇者にべったりで勇者のイエスマン。

そして、戦士は楽しければそれでいいという単純な戦闘狂だった。

そんな単純明快な思考を持つ三人の後を唯一まともな思考をもった私、賢者ユークがなんとかフォローしながらついていくという構図がすっかり定着してしまっている。

私はそんな状況にため息を吐きながら、とりあえず目の前にわんさかと現れたミノタウロスの大群に向かって、まるで八つ当たりするかのような氷の魔法を大量に打ち込んでいった。

勇者と戦士の力技で壁を壊し、どんどん奥に進んで行く。

「しっかし不思議だよな。ここって魔王が復活するまでただの森だったんだろ? 魔王の魔法ってなんでもありなのかよ」

「ええ。まったくですわ」

「あはは。魔王が何匹もいたらドワーフの建築家はおまんまの食い上げだね!」

とバカな話をしながら進む三人にまたため息を吐いていると、見るからに豪奢でまがまがしい作りの大きな扉が見えてきた。

「あれっぽくね?」

「はい」

「絶対そうだよ」

という三人に、

「待て。一応文献を調べるから、間違っても壊すなよ」

と言ったが、

「よっしゃいくぞ!」

「はい!」

「おうよ!」

と言って三人が同時に扉を攻撃し始める。

「いや。開け方とかあるかもしれないだろ!」

とツッコミを入れるが、勇者と戦士の一撃はあっけなく扉を破壊してしまった。

「……」

唖然とする私を尻目に、

「さすが勇者様ですわ!」

と聖女が目を輝かせている。

私は本当に頭が痛くなるような気持ちでこめかみを抑えつつ扉の破片を掃除すべく特大の風魔法をぶち込んだ。

「ドカンッ!」と音がして扉が吹っ飛ばされる。

それをみた勇者はさらに勢いづき、

「よっしゃ、いくぞ!」

と叫んでとっとと部屋の中へ飛び込んでいった。

「ばかもんっ! もそっと丁寧に開けんかっ! ていうかノックくらいしろ!」

というごもっともな意見が聞こえてくる。

私はなんとも不思議に思いながら勇者の後に続くと、そこには綺麗な銀髪を二つむすびにしてやたら豪奢なマントを着た美少女が立っていた。

「あ。ごめん。つい……」

と素直に反省する勇者に、

「勇者様! 惑わされてはなりません。これが魔王ですわよ!」

と聖女が喝を入れる。

その言葉にみんな驚き聖女を見るが、

「この魔力の波動。間違いありません!」

と聖女は言い切った。

「なっ! 幼い少女の姿で敵を惑わすとは卑怯者めっ! とりあえず食らえ!」

と言って勇者が思いっきり剣を振るう。

すると魔王はなぜか慌てた素振りで、

「なっ!? おい、ちょ……!?」

と叫びながら、防御魔法を展開した。

(けっこうやるな。こいつは厄介だぞ)

と思っているところに、

「大人しく討伐されなさい!」

と聖女がデバフの魔法を放つ。

それに合わせるようにして戦士が突っ込み、これでもかというほどの連打を魔王に与えた。

(よし。いける!)

と直感して私も渾身の雷魔法を次々と放り込む。

そして、魔王が、

「いや、おい、ちょっと待たんか!」

と弱音を吐いた瞬間、

「もらった!」

と言って勇者が渾身の一撃をお見舞いした。

「ぬぎゃぁっ!」

と魔王がやたら可愛い悲鳴を上げる。

その瞬間膨大な魔力が周囲に溢れた。

聖女が慌てて防御魔法を展開するが、その魔法も押されてしまう。

私も続いて防御魔法を展開したが、あまりの圧力に、

「くっ!」

と思わず声を漏らしてしまった。

魔王城の壁や天井が綺麗に吹っ飛ぶ。

そして、しばらくその膨大な魔力の奔流に耐え続けていると、やがてその流れが綺麗におさまっていた。

魔王の玉座がぽつんと青空の下にさらされている。

「……やったか?」

「はい! やりました! 魔王の魔力が消えています!」

「よっしゃ! これで帰ったら大金もらって大宴会だ!」

という三人に苦笑いしながら、魔王の玉座を見るとそこにはなぜか魔王が着ていたと思しき服が一式残されていた。

不審に思って近づいてみる。

するとその服の中からハツカネズミのように真っ白なネズミが一匹現れ、

「なんじゃこりゃぁーっ!?」

と盛大に叫んだ。

「え?」

と思いつつそのネズミをつまみ上げ、しげしげと見つめるが、そんな私にそのネズミは、

「おい、こら。そこのバカ者ども! 一体何をしてくれよった!?」

と息巻いてくる。

私があまりのことに無言でいると、みんなが私の所に寄って来て、

「どうした?」

「今、なにかおっしゃいましたか?」

「うん。なんか変な声が聞こえた気がするけど……」

と訊ねてきた。

「あ、いや……。これがしゃべってな」

と言いつつネズミを見せる。

するとそのネズミはジタバタ動きながら、

「ええい。無礼者! まずはその手を放さんか! 我を誰だと思っておる!?」

と、まるで魔王か何かのように横柄な言葉で私に猛抗議をしてきた。

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