第三章
それ以来、ぼくと近藤さんとは、よく話をするようになった。
不思議なことも、メルヘンチックなことも、そうでないことも、いっぱい話した。
「今、こんな人が『見えてる』よ」とか、「こんなこと言っているよ」とかの話もした。
ぼくを通して、近藤さんが霊と話をしたこともあった。
あと、一緒に小人さん探しをしたこともあった。
毎日が楽しかった。近藤さんが笑ったり喜んだりする顔を見る度に、自分の心が温かくなるのを感じた。
小学校がぼくと同じだった人たちは、中学校に入ってぼくが急に変わったことに驚いていたけど、ぼくにとっては、そんなのはどうでもよかった。
ある日ぼくは、体育が終わって着替えから戻る途中の近藤さんが、廊下で女子数人と話しているのを見た。
別に聞きたい訳じゃなかったけど、話が教室の中まで聞こえてきちゃった。
「ねえ、あかり。蒼くんと仲良くしない方がいいわよ」
「蒼くん、『変な子』でしょ。いろんなものが『見える』らしいし」
「そうそう、蒼くんは幽霊と話もできるって言うし。キモいよね」
近藤さんと一緒に話をしているのは、ぼくと同じ小学校だった子たちだ。
近藤さんの顔を見ると、口をへの字に曲げて顔を真っ赤にしている。
あれは、恥ずかしがっているのかな……。
と思っていたら、近藤さんの声が聞こえてきた。
「あなたたちがどう思おうと、私は蒼くんといるのが楽しいから。
もし蒼くんが『変な子』だったとしても、
『変な子』と仲良くするのはいけないことなの?」
それは静かな、でも怒りに満ちた震え声だった。
「だめじゃないけど、蒼くんと一緒にいると、あかりまで『変な子』だと思われるわよ」
「私は、蒼くんと友達になるずっと前から、『変な子』だもん」
近藤さんの声のトーンが少し高くなった。
「なっ……」
「そうやって、
『『変な子』だから仲良くしない』とか、
『『変な子』じゃないから一緒に遊ぶ』とか、
間違っていると私は思うんだけど、どう?」
「……」
「私は、『変な子』って言われてきたから、
『変な子』と言われている人の気持ち、分かってるつもりだよ。
そもそも、『変』って何?」
「……それは、私たちと違うっていうか」
「だったらなおさら、自分たちと違う人を仲間はずれにするってことじゃん。
あなたたちはそうやって小学校の時から蒼くんを仲間はずれにして、
今もこうやって仲間はずれにしようとしているの?」
「いや、そういうつもりじゃ……」
「とにかく私は、蒼くんの味方でいたいから。
じゃあ、また後でね」
教室に戻って来た近藤さんは、ぼくを見るなり、泣きそうな顔になった。
「蒼くん……」
「あ、聞こえてたから、近藤さん……」
「……『あかり』」
「え?」
「……って呼んでよ」
「……うん」
ぼくは、両手を握って言った。
「……ありがとう、あかり」
「うん……」
ぼくたちが、お互いを名前で呼び合うようになったのは、この時からだった。
名前を呼ぶだけで、こんなにも心が満たされるなんて、今まで知らなかった。
あかりがぼくを守ってくれたように、ぼくも彼女を守ってあげたい。
ぼくは、心からそう思った。
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