二章 戦争と大男

第19話


 数日だが世話になった宿を引き払って、ロンダの町を発つ。

 また一人旅で、目指すは北。

 といっても真っ直ぐにリャーグを目指す訳じゃなくて、まずはこのルパンダの国の首都、ソルダニルを目指す。


 恐らくそこなら国中の騒動の噂、つまり傭兵にとっては飯のタネの情報が集まって来る筈だし、次に参加する闘技会を選ぶにしても、やっぱり選択肢が増えるだろう。

 ただ大体の場合、首都って滞在費も物価も高いから、あまり長居したい場所じゃない。

 村や小さな町と違って宿も多いから、安い宿を探して泊るって手はあるんだけれど、……安さは居心地の悪さに繋がる事もそうだが、それ以上に安全が疎かになる。

 この北西部は、ただでさえ色々と治安が悪いのだから、


 一目で強者と分かるゲアルドといれば、治安の悪さから起こるトラブルとも縁遠かったんだけれど、その彼は僕とは真逆にドレアム王国を目指して既に旅立ってしまってた。

 闘技会で得たメダルを腰から吊るしておけば、多少の厄介事は近寄ってこないとも聞いたけれど、流石にゲアルド程の厄除け効果はないだろうし。


 ……まぁ、なるべく滞在日数を短めにすればいいか。

 まだソルダニルに辿り着いてもいないのに、そこでに滞在に頭を悩ませても仕方ない。

 もしかしたら、その道中で何かあって、進路が変わる可能性だって十分にあるのだから。


 でも街道を歩きながら空を見上げると、雲も北西に向かって流れてて、まるで僕に付いて来てる、或いは、僕を導いてくれてるみたいだ。

 僕は別に、殊更に験を担ぐ方じゃないけれど、それでもこういった出来事を良い兆しだと思えるくらいの感性は持ち合わせてる。


 ルパンダで二番目に栄えた都市であるロンダから、一番栄えた首都、ソルダニルまでの道はしっかりとした街道が通ってた。

 歩き易く、馬車も悠々と通れる街道があれば、そこを通る人の数は多く、間にある村や町も栄える。

 そうなると、そうした村や町は街道の補修や警備にも力を入れるから、ロンダからソルダニルまでの道程は、ルパンダ国内でも最も安全な道だろう。


 ただこうした安全な道にも、トラブルが全くの皆無って訳じゃないみたいで、道の向こうから二人、妙な目つきでこちらを値踏みする二人組が僕の方に、つまりロンダに向かって歩いてくる。

 尤も僕がそれなりに武装してるのと、何よりも腰に吊るしたメダルを見て、二人は顔を見合わせると、何も言わずに僕の横を通り過ぎていった。

 証拠はないけれど、恐らくは追い剥ぎの類だと思う。

 二人とも身形はみすぼらしいが、腰には一応ぼろ……、古めかしい剣を吊っている。

 背はそれなりに高いが痩せていて、あまり食えていない事が伺えた。

 察するに、この街道からあまり遠くない、しかしその恩恵が受けられる程には近くない村からの、出稼ぎじゃないだろうか。


 確かにこの道は警備に力を入れてるから、盗賊の類は近寄り難い。

 だが人が多く通れば、中には自衛力の乏しいのに一人旅をする油断した旅人も混ざるから、そうした相手を狙うごく小規模の追い剥ぎが出る事はある。

 馬車や商人を狙う盗賊の犯行は目立つけれど、旅人相手の追い剥ぎの犯行は発覚しにくいし、被害も小さいからと見逃され易いのだ。

 さっきの二人はその類だと思うんだけれど……、まぁ、いいか。

 襲ってきた訳でもないのに、追いかけて捕まえるなんて真似をしたら、万に一つ、相手が無罪、または獲物を物色はしていても、まだ未犯だった場合に、僕の方が悪くなってしまうし。


 仮にさっきの二人が他の誰かを相手に追い剥ぎを働いたしたとしても、あの程度の相手をどうにかできないで旅する方にも問題があるだろう。

 もちろん目の前で襲われていたら助けるくらいはするけれど、まだ見ぬ誰かの被害を防ぐ為に動く程、僕はお人好しじゃなかった。


 ……それにしても、このメダルも、思ったよりも厄除けの効果は高いのかもしれない。

 あの二人は武器や防具よりも、このメダルを見て警戒し、僕を避けて通って行ったように見える。

 闘技場のメダルが実力の証明だというのは、あんな追い剥ぎにまで知られているのだ。


 こんなに効果があるなら、旅のお守りとして高く売れたりしないだろうかと思ってしまうが、それはまた別の話か。

 メダルを持っていても明らかに戦えなさそうだったら、それが別の誰かから買い取ったものか、或いは偽物だってすぐにわかってしまうし、何よりそれはメダルの価値を下げる行いになるだろう。

 すると実力でメダルを得ているような強者から、強く不興を買う恐れがある。

 例えばゲアルドなんかだったら、場合によっては遠慮なく殺しに掛かるかもしれないくらいに。


 よっぽど金に困ったなら、他に方法がないなら、仕方なくって事はあるにしても、基本的にはナシだ。

 そもそも、命が掛かってた訳ではないとはいえ、あのゲアルドと戦ってまで手に入れたメダルは、僕にとって金に換えられない価値があった。


 一人旅をしていると、色々考え事をしてしまう。

 さて、目的地であるソルダニルまでは、このまま徒歩で一週間程。

 途中の村や町で泊まれるから、野宿をする必要は殆どない。

 トラブルさえなければ、楽な旅路となる。

 今回はのんびりと、見知らぬ地に風景を楽しみながら、目的地まで歩いて行こう。

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