第8話 「幸せの再会?それとも…」
週末の午後。駅前のカフェ。
窓際の席に座った美咲は、落ち着かない様子でスマホを握りしめていた。
(本当に来るのかな……いや、来るって言ったんだし!)
胸の鼓動が高鳴る。
ガラス扉が開いた瞬間――
「美咲〜!」
声の主は、ジャケットにジーンズ姿の健司だった。
昔と変わらぬ笑顔。けれど、どこか疲れたように痩せ、目の下にはクマが浮かんでいる。
「……健司!」
思わず立ち上がった拍子に椅子がガタンと鳴った。
駆け寄った美咲の胸がいっぱいになり、言葉は涙に滲んだ。
「いや〜、やっぱり美咲だよなぁ! 俺、やっぱり美咲がいないとダメだって気づいたんだよ」
その一言で、美咲の瞳に涙があふれそうになる。
(ほらね。やっぱり。あの女じゃダメだったんだわ!)
二人は席に戻り、健司はカプチーノを注文した。
ひと口すすった後、さらりと口にした言葉が、美咲の胸に小さな引っかかりを残す。
「実はさ、会社クビになっちゃってさ。ま、俺が悪いんじゃないんだよ? 上司が理不尽で、俺もつい言い返しちゃってさ〜。あんな会社、こっちから辞めてやったようなもんだし!」
「……え?」
美咲の表情がわずかに固まる。
だが健司は気にする様子もなく、軽く笑いながら肩をすくめて続ける。
「でも、仕事とか気にするなよ。俺には美咲がいるんだから! 俺、美咲と一緒ならもう大丈夫だからさ」
ニコッと笑う健司。その笑顔に、かつてのときめきが蘇る。
けれど、美咲の心の奥では、小さな声が囁いていた。
(……“必要とされてる”のかな? それとも……ただ甘えてるだけ?)
「それにさ、美咲ん家のカレー、また食べたいな〜。あれ元気出るんだよ。今日、泊まっていっていい?」
――ズシン。
舞い上がっていた心に、不穏な重みが落ちてきた。
けれど、美咲はまだ笑顔を崩せない。
「……もう、健司ったら」
口ではそう言いながらも、胸の奥ではザワザワとした不安が広がっていく。
幸せな再会のはずなのに。
それなのに、何かが――ほんの少しだけ、ズレている。
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