第16話 朝のひと時

 ――朝。6時30分


「ほらっ、みんな起きて! 今日からグラウンドで朝習よ」


 キャプテンである私は、布団で寝ているみんなを起こした。

 もぞもぞと動いて青子は寝ぼけた目をこすった。


「……いいじゃん……まこ姉ぇ……。せっかくみんなで泊まってぇ……今日は休みなんだしさぁ……」


「何言ってるの? 全国大会で優勝するんでしょ。1分1秒でも練習時間がおしいわよ」


 まあ、少しやりすぎだと思うけど、やっぱり初日は大事だしね。キャプテンとしてビシッといかないと。


「……1秒じゃなにも変わらないんじゃ……?」


「いいから起きて! みんなも、はいはいはい! 着替えて、制服もユニフォームも洗って乾かしてあるから」


 手を叩きみんなが起きるように施した。

 ボサボサ頭の美鈴がムクっと上半身を起こし、私とは逆の方向に首を回した。


「……おはよう……まことぉ……起きるのはやいねぇ~……」


 どこ向いてるの? 結構天然?


「うん、美鈴。ちょっと興奮しすぎて、昨日はあまり眠れなかったの」


「それなのにぃ……そんなに元気がいいんですかぁ……若い子はいいですねぇ……ふあぁ~~」


 年下の加奈ちゃんは枕を抱えてムニャムニャとあくびをする。


「は―――いっ! お姉様ァ、瑠衣起きました――っ!」


 瑠衣ちゃんは私より元気だ、やるわね。


 朝練に向かうため私たちは部屋で着替えをして準備を始めた。


「青子。あんたの姉ちゃん結構 強引だよな?」


 明日香が隣で着替えている青子に言った。


「明日香、これが平常運転だよ。これからもずっとこんな感じだから覚悟したほうがいいよー。みんなもやめるなら今のうちだよー」


 わざとらしい青子の発言にドキドキした。

 もしここで誰かがやめたいと言ったら、私はちょっと――ううん、かなりショックを受けるだろうから。

 まったく、まだまだダメダメなキャプテンである、私は。

 けど その言葉に誰も反応せず、もくもくと着替えをしていた。

 私はちょっと――ううん、かなり嬉しいです、うん!


「あり? 誰もやめないのー? 今がやめどきだよー」


 わざとらしい青子を、美佳子ちゃんが白い目で刺した。


「バカ? やめるなら、この一週間しごかれてやめてるし」


「美佳子の言うとおりだぜ!」


「は――い! わたくし、野球の練習は大変ですけど、楽しいからやめませーん!」


「お姉様とできるなら、どんな地獄でも天国です」


 野球初心者の、美佳子ちゃん 明日香 加奈ちゃん 瑠衣ちゃんが、私にとって嬉しい言葉を言ってくれた。

 嬉しすぎて涙が出そうになったよぉ……ぐすん。


「……ありがとう、みんなぁ……」


 小声でお礼をした。

 本当に、良い仲間を持ったよぉ……ぐすん。


 ◆◆◆


 ――4姉妹の部屋で、9人が着替えをしているとき一階のリビングでは、4姉妹の父 田中 薫が 台所に立ち料理を作っていた。


「んっ。なかなかうまくできたかな。みんな美味しく食べてくれれば いいんだけど……」


 僕が鍋に入った料理を味見していると、2階からドガドガと音がした。

 ちょうど料理ができあがったとき、9人がリビングに入ってきた。

 そして作った料理をみんな美味しそうに食べてくれた。感謝である。


 食べ終わり、みんなは朝練に向かうため玄関へと向かっていく。

 玄関で見送る僕に娘たちは―――


「「「「パパ、いってきます」」」」と言い。


 娘たちの友人は―――


「「「「「おじさん(おじ様)、いってきます」」」」と言った。


 僕は「いってらっしゃい、みんな」と笑って手を振り見送った。


 9人は休みだというのに、これからグラウンドで朝練を行うのだ。

 心の中で(頑張れ)とエールを送る。


 誰もいなくなったリビングに戻ると、さきほどまでの騒がしさは消え、何かもの寂しい感じがした。

 だが寂しさよりもずっと強く感じる思いがあった。

 それは、今日 娘たちの部活動が本格的に始まるというワクワク感だ。そっちのほうが何倍も大きかった。


 服の袖をまくり、腕をぐるぐると回す。


「よしっ! 気合い入れて描いちゃいますか!」


 仕事場である自室へと歩きながら、メガネをキラーンと光らせる。


(娘たちに負けてられないな……父親として……!)


 意欲満々に執筆活動に勤しんだ。

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