第3話 オートスクリプトの発見

團保は、誰もいない昼下がりのキッチンで、冷蔵庫のドアをじっと見つめていた。

「……トリク、昨日の炊飯器の実験は成功だったな」

『ああ。見事に新品同様になった。だが貴様はまだ、この力の“奥行き”に気付いていない』

「奥行き……?」


 冷蔵庫を鑑定すると、例によって詳細が浮かぶ。

《対象:冷蔵庫 年式:2012年 状態:良好 中身:卵6個/牛乳1本/キャベツ半玉/豚肉パック 他》


 保は思わず笑った。

(すげぇ……冷蔵庫の中身まで、全部表示されるのか)


 ふとした思いつきで、「卵6個」の項目を選ぶと、小さなアイコンが点滅しているのに気付いた。

《記録しますか? Yes/No》


「記録……?」

 試しに「Yes」を選ぶと、ウィンドウの下部に新しい項目が現れた。

《オートスクリプト:ON/OFF》



冷蔵庫の奇跡


 半信半疑で卵を一つ取り出し、目玉焼きを作ってみた。

「うまいな……でも、さっき鑑定では卵6個って出てたよな」


 再び冷蔵庫を開けると――そこには、また6個の卵が揃って並んでいた。


「……戻ってる!? 一個使ったはずだろ!?」

『クク……つまりこういうことだ。記録した状態を基準に、自動で復元される。』


 保は牛乳も飲んでみた。だが次に冷蔵庫を開けると、やはり元に戻っている。

「すげぇ……食費が消える……!」



曜日ごとのスロット


 さらに鑑定を深めると、細かい設定欄が出てきた。

《保存スロット:日曜/月曜/火曜/水曜/木曜/金曜/土曜》


「曜日ごとに……保存?」

『そうだ。つまり“過去の状態”を巻き戻せるということだ。腐った牛乳を月曜の状態に戻す、などとな』


 保はごくりと唾を飲んだ。



日用品とリステリン


 興奮を抑えきれず、彼は洗剤ボトルを鑑定した。

《対象:洗濯用洗剤 残量:20% 状態:使用中》

 オートスクリプトを設定し、翌日確認すると、残量は減らず20%のままだった。


「……ほんとに減らない……」

 次に試したのは、洗面所に置いてあるリステリンのボトルだった。


《対象:マウスウォッシュ 残量:40% 状態:使用中》


 保はそのままキャップに注ぎ、口をすすぐ。強烈な刺激が口の中を走る。

「ぐふぅ……これ、毎回つらいんだよな……」


 口をゆすぎ終えて残量を確認すると、やはり40%に戻っていた。


『どうだ? 歯医者いらずになるな』

「……待てよ。これ、液体じゃなくて……口の中の“細菌数”そのものを保存できるんじゃないか?」


 保は自分自身を鑑定した。

《対象:團保 口腔内細菌:中程度 歯石:少量 口臭:軽度》


「……出た……」


 試しに“口腔内細菌数:最小”の状態でオートスクリプトをONにした。

そして一晩経った翌朝――。


 歯磨きをする前なのに、口の中が驚くほど爽やかだった。

「……すごい、本当にリステリンしなくてもリセットされてる……!」


『ふむ。どうやら人体にも応用可能らしいな。無限に清潔な口腔環境か。衛生マニアが聞けば泣いて喜ぶぞ』


 保は鳥肌が立った。

(食材、日用品、そして……体の状態までも……!?)



秘密の高まり


 冷蔵庫が静かに唸りを上げる中、保は立ち尽くしていた。

「これ……もし突き詰めれば……病気や老化までオートスクリプトできるのか?」


 答えはなかった。だが、頭の奥でトリクが愉快そうに笑っているのを感じた。

『フフフ……人間の欲望は際限がないな。さあ、團保。次はどこまで“改変”する?』


 保は胸の奥に、恐怖と興奮が入り混じるのを感じた。

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