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やがて父が再婚し、新しい母親がやってきた。
その後、妹ーーエルミナが誕生した。
エルミナは、子爵家に見合う魔力量で産まれ、愛らしく、人懐こく、明るい笑顔で人々を惹きつけた。両親は彼女を溺愛し、抱きしめ、愛のある言葉を惜しみなく注ぐ。
対してリシュアは――赤子の時から魔力を抑えるための指輪をはめられ、感情を出すことすら許されなかった。
感情の揺らぎは魔力を増幅させる。身体から漏れ出た魔力は、周囲を威圧し、時には命を奪うことも可能だ。
その危険すぎる力は、子爵家においては畏怖の対象だった。
「貴方が誇れるのはその魔力量だけ。感情を抑え、迷惑をかけないよう、静かに生きなさい」
「はい…お継母さま…」
まだ、8歳の幼いリシュアに、継母は冷たい言葉を投げる。
彼女はただそのことを胸に刻み、静かに頷くしかなかった。
「お姉さまは本当に、すごい魔力があるから、きっと幸せになれますね」
まだ幼い妹の無邪気な声が、胸の奥を突き刺す。
それでもリシュアは、微笑んで頭を撫でた。
「……ええ、そうね」
母親が残してくれたこの膨大な魔力。けれど、そのせいで、そんな母の命を奪ってしまった自分に対する父親や周囲の者達の風当たりは強かった。リシュアはそれを、仕方のないことだと…受け入れるしかなかった。
無邪気に愛される妹に対して、リシュアはただ一人、孤独の中で自分を閉じ込めることしかできなかった。
だが、どんなに周囲から疎まれようとも、リシュアは妹だけは守りたいと思っていた。
その小さな手を、どんなことがあっても守りたかった。
そうして、妹のために、家族のために、リシュアは自分の心を押し殺して生きていくのだった。
本当は、ただ一度でいいから――誰かに「そのままの自分」で抱きしめて欲しかった。
リシュアのその願いは、心の奥底にしまわれるだけだった。
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