第三話 「偶然をもたらす魔法」

 「ミズキ...!?」


 レオはエリオに見向きもせず地面に横たわるミズキに駆け寄って抱き起こし、倒れているミズキを抱きかかえる。状況が飲み込めないヒメカは当たりを見渡して現状を把握しようとしていた。


 え・・・?な、何が起こったっていうの?私の魔法が当たった・・・?しかも、あのお花畑女の魔法は消えてる・・・?


「うっっ......そぉ......??」


 ミズキはレオに手を伸ばすも届かずに力なく崩れる。地に落ちたミズキの手にレオが触れた。次第にレオは肩を震わせて、何が起きたのか分からないと言わんばかりに口をぽかんと開けているヒメカを睨みつけた。


「お、お、お前ェ!!!!!ただの囮役の分際で何してくれてんだァ?!」


 レオの怒鳴り声にヒメカは体をビクッと震わせて我に返った。


「し、知らないわよ、もぉ」

「てめェ・・・!!ぶっ殺されたいようだなァ?!!!!」


 レオの凄まじい殺気と鋭利な視線に後ずさりをするヒメカ。そこに肩に触れられた気配がして振り返る。

 

「だ、大丈夫?ヒメカ」

「え、えぇ・・・」


 声をかけてきたエリオがミズキのほうを見てあっと口を開ける。


「ヒメカの魔法でやったの・・・?」

「もぉ、分からないから困ってんじゃない!!!」

「えっ?」

「そこのクソアマ以外いねェだろうがよォ!!!俺のミズキをこんなに傷つけやがってェェ!!!!もう容赦しねェから覚悟しろよなァ!!!」


 レオはミズキをそっと地面に寝かせて立ち上がると、拳が震えるほどありったけの力を込める。歯ぎしりを立てて、こめかみには血管が浮き上がるくらい全身の力を拳に集めて、みるみる黒く染まった拳が黒光りを帯びていく。


「死んでも許さねェ!!喰らいやがれ!!!!ミズキの受けた痛みをてめェらの体に刻んでやっからよォ!!!!」


 拳を構えてヒメカとエリオのほうに突っ込む。


貫く自尊心オートスティーマ!!!!」


 エリオはヒメカを自身の後ろにくるように押して盾を展開する。


「そうはさせないっ!!!凝縮した光ルーチェ・コンデンサァータ!!!!!」


 エリオの盾とレオの拳がぶつかると、草木は突風に揺らされるくらいの衝撃が周囲を襲った。


「きゃっ!?」

「てめェごと吹き飛ばしてやるよォ!!!!俺の全てを賭けてでも!!!」

「させないっ!!この魔法で防いで見せるよ!」


 拳に黒い稲妻を飛び散らせながら、エリオの盾ごと潰す勢いでレオは体重をかける。稲妻はエリオの盾に当たると回転して火花を散らしていく。


「いい音だァ!てめェの盾ごと潰してやんよォ!」


 エリオは盾を両手で持ち直し、稲妻によって削られた部分を修復しながら、全身を使って支え続けた。


 お互いに一歩も譲らない意地と意地がぶつかり合っている。


「・・・際限ない愛アモーレ・インフィニート・・」


 レオの背中に矢が刺さってのけ反ると、慌てて振り返る。すると、息のあがったミズキが力を振り絞って弓を構えていた。


「ミズキッ・・・!?無理すんなってェ!!!」

「レ・・・オはっ!アタシの・・・希望・・・だからっっっっ!!!」


 ミズキはレオに微笑みかけ、そのまま力を使い果たしたように地面に伏せた。レオは肩を震わせてからエリオを睨みつける。

 

「あァ・・・!わかってるさァ!!!光の盾なんざぶっ飛ばしてやるぜェ!!!!!」

「そ、そんな・・・!?」


 レオの拳や腕がみるみる太く大きくなるにつれて、エリオは全身から汗が吹き出した。レオの殺気から逃げるように視線を落とすと、光の盾の輝きが弱まり、盾に集まった光が宙へ四散していく。


「今更怖気づくなんてなァ!?とんだ腰抜けだァ!!!失せろ!!!!」

「うわあああ!?・・・ぐっ・・・」


 阻むものがなくなり、エリオは咄嗟に腕を交差させてレオの攻撃を防ごうとする。


 レオは睨みつけながらエリオを拳で殴り、目で追えない速さで、森のほうへと吹き飛ばした。

 

「っははは!!!あっけねぇなァ!?強者に踏みつけられてやられるだけのカカシかよォ!!!防ぐだけじゃあ守ることなんてできねぇよ!!!今からそれを分からせてやるぜェ!まァ?のびてるだろうから、それもわからねェうちにやるだけありがた~~~く思えよなァ!!!!????」


 レオはエリオの吹き飛んだ方向を見ながら、嘲笑うように言葉を吐き捨てる。そのままの勢いでヒメカを見た。


「今度は、お前だァ!!!!!」

「っく・・・」


 ヒメカはレオに背を向けて必死に走りながら後ろを見ると、レオは追いかけてくるのではなく、黒光りを放つ拳をヒメカに向けて構えている。


「はははっ!!!また逃げるしか能がねぇのかァ?」

「もぉ、うるさいっ!!」

「いいぜェ???でもなァ?」

「近づいて殴るだけが俺の技だと思うなよォ!乳がデカいだけの囮にはできねぇことを見せてやんよォ!貫く自尊心オートスティーマ!!!!」


 レオの拳から黒い雷を纏った拳の分身が放たれる。分身は次第に大きく、音もバチバチと大きな音を立てて禍々しい拳になっていく。その勢いのまま猛烈な速さでヒメカのほうへ飛んでいった。


 ヒメカはその迫りくる音を聞いて、焦りのあまりコケてしまう。


「っぷはは!!!運よく避けれたのもコケたおかげとは本当になさけねぇなァ!!!!こいつは傑作だぜェ!!!」

「う・・・うっさいわね!!あんたの射撃スキルがなくて当たらなかっただけじゃないの?」

「ほざけよォ!!!本当によく口だけは開けるなァ?こんだけなっさけねェ、だせェ、クソな魔法しか出せねぇのに、よく落ちずにのうのうといれたもんだなァ!?」

「ブツブツ喋ってばっかでちゃんと狙えてないんじゃないの?!!!」

「威勢だけはいいなァ!!!俺の腕がないって言いてぇのか?そんな戯言を言えないようにしてやっからなァ?ほれほれ逃げろよォ!!!見えなくなってから撃ってやるよォ!!!」


 あーもう。いいように言われるだけ言われて逃げるなんて本当に情けない・・・っ。私なんて所詮1ダメージしか与えられない惨めな囮ですよーだ。でも、時間は稼げるし、離れてから詠唱してもう一度、一か八か・・・!!!!


「あーァ、退屈だなァ!?さっきのまぐれされても困るし、テキトーに痛めつけておくかァ!?それくらいはいいよなァ!ちょっとは遊ばせてくれやァ!」


 レオはヒメカの逃げたほうへ腕を構えるが、一か所に構えるのではなくわざと上下左右に動かして乱射した。


「っく・・・!!!」

「おォ?掠ったかァ???いい声だすねェ!!!それじゃあコイツはどうよォ!!!」

「・・・っあ!!」

「っぷははは、いいねェ!無様にコケて転ぶ姿はよォ!!ザマァねぇなァ!!!終わってからミズキに話してやるのが楽しみだなァ!!!!」


 ヒメカは上半身を起こして、逃げてきた道のほうを振り返る。その先では姿の見えないレオが腰を落として体勢を低くしながら拳を構えていた。


 これで私も落ちるかもしれない。でも、雑魚には雑魚なりの足掻きがあるってものよ!囮の意地ってものがね!ノロマなエリオばっかりに任せられないっての・・・!さっきのお花畑女相手にだってなんとかなったんだから私の魔法を信じる!なんとかなって!!!!


「あばよォ!奇跡にでも願っておくんだなァ!落ちてろクソ雑魚女!!!貫く自尊心オートスティーマ!!!!」

「私は偶然に全てを賭けるわ!当ったれえええええ!!蝕む反抗心リヴェリオーネ・コロシ―ヴァ!!!!」


 レオの黒い稲妻が飛び散る魔法の拳とヒメカの火花を散らす黒炎玉がぶつかり、爆風と共に爆音に周囲は包まれた。立ち込めた煙を突き抜けるように拳は明後日の方向へと飛んでいった。


 飛んでいく拳を見つめるサングラスをかけた女が辺りを見渡せるほど巨大な木の上で手枕をしながらのんびりくつろいでいる。


「・・・・・・ほーぅ?こいつぁあ使えそうだ。覚えておくか~~」


 二人の戦いをニヤッとしながら見届けるやいなやさっと木から降りてヒメカたちのほうへと向かった。

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