#03. ドラゴン娘の初配信! ……と、追いかける俺。


 光彩の渦、ダンジョンゲートを抜けて現代日本の夜の街に戻ってきた辰樹は、肩を大きく上下させながら周囲を見回す。

 ビルが建ち並ぶ都市は広いが、ルルトを見つけるのは簡単だ。


「足跡は、こっちか……!」


 辰樹は迷わず左の道を行く。

 現在、彼の視界にはルルトのがくっきりと見えているのだ。

 世界中でダンジョンゲートが開くようになり、混乱する人々にもたらされた唯一の奇跡――スキル。

 一人につき一種のスキルが発現する現象は、ダンジョンが現れ始めた5年前、辰樹の身にも起きた。

 視界に映るのは過去の記録。

 ルルトの足跡も、淡く光って見えている。

 だが、


「どこへ行ったかわかっても追いつけるわけないな……!」


 記録を見るスキルを活かしたダンジョン調査配信。

 人に見られる仕事だからと用意した一張羅のスーツと革靴は、運動に不向きだ。


「今度から動きやすい格好にしよう……っ!」


 そう決意し、息を整えるついでにポケットからスマホを取り出す。

 操作して配信画面を出すと、そこにはルルトの顔が大きく映っていた。


「配信されてるよな……視聴者は、4人も!?」


 こんな時に限って4人も見てるなんて。

 と、辰樹は頭を抱える。


「まあ、こんな美少女が配信してたら見に来るよなぁ……」


 そう言ってる間にも視聴者は5人、6人と増えていた。

 ダンジョン攻略の配信が推奨されてから、という風潮が広まった。

 見てくれの良さというのは、配信サムネイルのクリック率を大きく上げる。

 その点で言えば、ルルトの顔立ちはトップライバーにも負けないだろう。

 愛嬌があり、銀髪と淡紅色の瞳はよく目立つ。

 それに、ドラゴンのツノというアイデンティティもあるのだ。目立たない方がおかしい。

 

:お初です。かわいいですね

:新米冒険者かな? 攻略がんばれー


 コメントを見る限り、幸いドラゴンだと騒ぐ視聴者は居ないようだ。


:コメント欄あるの気付いてない?

:あ、気付いた

:小鳥遊さんって言うんだ

:ダンジョン調査頑張ってください!


『ここを見ればみんなと話せるのか!

 余はタカナシじゃないぞ。ルルトだ』


:ルルトちゃんか~!

:かわいい

:いやデッッッッ

:じゃあ小鳥遊さんはどこ?


『うむ、余はかわいいか! っと、あ~……タカナシのライブドローンを勝手に使っちゃってるんだ。あとで謝らないとな』


 コメント欄の存在に気付いたルルトは視聴者に向けて話しかける。


「頼むから変なこと言わないでくれよ……」


 そう祈りながら、辰樹はスマホを胸ポケットに仕舞って走り出す。

 ルルトは既に、工事現場付近に現れていた別のダンジョンゲートへ突入していた。

 辰樹もルルトの足跡を追ってなんとかゲートの前まで来たが、【記録閲覧ログチェック】が見せた情報は辰樹の胃の痛みを加速させる。


「このダンジョン…………なっ!?

 の冒険者がいるじゃないか――!」


 スレイヤーと言えば、ダンジョンに挑む冒険者の中でも特に戦闘に秀でたスキルを持ち、数多くのダンジョンボスを討伐した実力者にギルドが与える称号だ。

 日本でも片手で数えるほどしか居ないと言われる真の実力者たち。

 もし、万が一、そんな彼らにルルトが本物のドラゴンだとバレてしまったら。

 ダンジョンボスのドラゴンが街中に現れたと知ったら。

 彼らは、平穏な日常を守るために迷わずルルトを討伐するだろう。


「……ルルト」


 ゲートの光を見つめ、辰樹は奥歯を噛み締めた。

 勝手にライブドローンを持って配信を始めたことに怒っているわけではない。

 1000年もの長い時間、誰とも関われず孤独に生きたルルトがこのまま討伐されてしまうのは、あまりにも酷だと思ったからだ。

 魔王龍なんて呼ばれていたようだが、辰樹にはあのドラゴンが悪い存在であるようには見えなかった。

 だって、辰樹が勇気を振り絞って話しかけた時、あの娘はあんなにも嬉しそうに笑っていたのだから。


「まったく……配信するなら、せめてこっちの世界のこと勉強してからやってくれよな……!」


 ネクタイを緩め、息を大きく吸い込む。

 あの世間知らずドラゴンをとっ捕まえて、しっかり教えてやらねば、と。

 非力な男は一人、ダンジョンに飛び込んだ。

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