第42話

「あら、とうとうバレたのね」


「みたいだなぁ」


 ずっとフード被る生活してたけど、やっぱりバレる時は来るか。

 さすがに隠しきれるとは思ってなかったし、今更慌てたりはしないけど。

 

 マグライラでの生活も4ヶ月を越えて、そろそろ中級ダンジョンも攻略できるかって所まで来た。

 俺とルナはレベルは変わらずだが、ディアナとルミアは共に30レベルになったところ。


 いよいよ次か、更に次あたりで中級ダンジョンの最奥ボスを倒そうとか話してたんだけど……そうもいかなくなったようだ。


「受付のおばちゃんが教えてくれた。まぁ冒険者ギルドも黙ってくれてただけありがたいよな」


「そうね。恐らくフリーベイン公爵も何かしら通達していたのでしょう」


「あーなるほど……で、どうしよっか」


 ここに残るという選択肢はナシだろ?あとは国と真っ向からケンカするか、隠れて別の街にでも潜むか、国外に出るか、ってとこだとは思うんだけど。


「そうねぇ。では今一度全員の意思をすり合わせましょうか」


「む?前にも話さんかったかの?」


 そういや話したね。確かルミアが冒険者になりたいって言うから、こうして実際になったんだっけか。


「ええ。その話し合いに出てきたルミアの希望通り、これまで冒険者として暮らしてきたわね。成果は想像以上で、ランクはC級、レベルも30に至ったわ」


 ランクは変わってない。

 上級ダンジョンに入るにはB級になる必要があるけど、中級クリアしてから昇格試験を受けようって話だったからね。


 レベルについては随分上がりにくくなってると感じる。もっとも彼女達や周りからすれば普通、もしくは早い方らしいけど……この世界の人達ってレベル上がりにくいのかな?


 しかし戦闘技術や経験はそれなりに溜まったと思う。

 ディアナもルミアも、そこらへんの冒険者で勝てる者は少ないだろう。


「どちらにせよずっとこの街で冒険者をする、とはいかない事は分かってたわ」


 まぁなぁ。なんならよく保ったと思うわ。

 「そうなの?」と目を丸くしてるルミアを、ルナが頭を撫でて宥めてる。


「だから次はどうするかを意思統一をしたくてね。……そこで一応わたくしなりに考えてる案があるの。といっても難しい話ではなくて、全員の希望を順に叶えて回るという内容なのだけど」


 おぉ、俺なんかのんびり冒険者や魔道具修行してたのに先を見据えてたのか。さすが、公爵令嬢は伊達じゃない。


「まずは国外に出るわ。そして他国の都市に辿り着いた瞬間に、わたくしの罪は完遂される」


 国外追放とは国外に出た時点で一区切りだそうだ。

 というのも、ほぼ全員の国外追放者は他国に辿り着く前に魔物に殺されるから。

 それだけ人類にとっては生きにくい環境なのだろう。力が物を言う世界なのも無理はないのかも知れない。


 そしてもし他国に着く事が出来た場合。

 まずその国で国籍を持たない難民として扱われる。

 その先、アークディア帝国に再び難民として戻るのも、辿り着いた国で国籍を得て住むのも自由らしい。

 要は基本死ぬけど、万が一生き延びれたなら無国籍だけど好きにしろ、というのが追放刑らしい。


「次に他国で国家特別討伐指定魔物……通称『王級』の魔物を討伐するわ。これはルナの希望ね」


「うむ、そうじゃな。くく、我の存在の格も上がろうて」


 悪い笑みを浮かべるルナさんに構わず、ディアナは話を続ける。


「達成すれば間違いなくわたくし達は栄誉を得るわ。その報酬で国籍を手に入れる事になるはずよ」


 あー、スカウト的なやつかな?

 我が国でその力を振るってくれ、とか言われるのかね。


「その上で、王級魔物の素材をアークディアに売る交渉を持ちかけるの」


 ……?

 ここで全員が首を傾げた。


「ん?その国籍を置く国に売るんじゃなくて?てか徴収とかされるんじゃない?」


「勿論言ってくるでしょうね。でもそこはわたくしに任せておきなさい、丸め込んでやるわよ。……それに、王級を討伐した者達に無理な命令なんて出来るはずがないわよ」


 ニコリと笑うディアナさん。かっこよ。


「まぁディアナさんなら上手くやるか。でもなんでアークディアに?」


「わたくしの予想なら、わたくし達に国に戻れと言ってくると思うの」


 そろそろ理解力を超えたらしく疑問符をとばすルミアと、理解したとばかりに頷くルナ。

 ちなみに俺は半々ってところ。


「そうなるもんなの?」


「確率は高いと思うわよ。元は我が国出身の者が大陸全土で見ても稀に見る偉業を成して、その栄誉と戦力、更には素材という成果を持っている……あの強欲な帝国なら欲しいと思うはずよ」


 そう言うディアナは高確率とか言ってるけど、確信があるように見える。

 きっと皇族との付き合いも長かったディアナが言うならそうなんだろう。


「そこでわたくしは対価に貴族籍を要求するわ。恐らく良くて子爵、十中八九男爵位でしょうけどね」


 でもそれで問題ないわ、とディアナは笑う。

 なるほど、これでディアナの希望だった『貴族に返り咲く』がクリアできる訳か。おぉ、繋がってるぅ。


「そして貴族であり大陸有数の戦力という立場になれば……間違いなく異世界人達と会えるはずよ。少なくとも対魔王軍の戦力として顔合わせくらいはあるでしょうし」


 そこで俺を見るディアナ。

 その目は「これで貴方の目的の一つもクリアよ」と言っているのが分かる。

 俺がクラスメイト(内3人だけだけど)に会いたいって話も覚えてくれてたんだな。


「ここまで成功したその後の話をするなら……わたくしが貴族に戻ってからは、貴方達はわたくしの護衛や付人といった形で雇用する形をとりたいわ。

 もちろん形だけだから上下関係もないし、各自好きにしてくれていいわよ。冒険者だろうと送還魔法探しだろうとね。そしてわたくしはそれを出来る限りバックアップする……貴方達の後ろ盾になるという形になるのかしらね」


 これで俺の最後の目標と、ルミアの希望を応援する体制が整う、と。

 

 ふむふむ、確かに順番にはなるけど、上手くいけば最後には全員の希望を叶える形になっている。

 最短――という名の俺とルナによる暴力のゴリ押し――ではないけど、合法的に範囲だと遠回りなようで最善、というより余裕のあるルートだと思える。


 ディアナの話をふむふむと咀嚼していたら、ルミアが少し目を潤ませてディアナを見る。


「じゃ、じゃあ帝国に戻ったら、ディアナ様とは一緒に冒険出来ないんですか……?」


 ……あ、確かに。

 先程の言い方だとディアナは好きに動く俺達を応援はするけど参加はしないような言い方だ。

 まぁ貴族としての職務もあるだろうし、一緒に動くのは難しいんだろうけど……。


「ふふ、どうしようかしら。そこはまだ悩んでるのよね」


 しかしディアナの返事は俺の予想とは違った。


「わたくしが貴族籍を得てから、地方で領主になるか、領地を持たない宮廷貴族になるか。後者なら自由に動き回る時間くらいは作れるでしょうね」


 それから続く説明いわく、アークディア帝国での宮廷貴族とは領地を持たずに、主に城で働く貴族を指すらしい。

 当然城での仕事はあるけど、それ以外に時間を拘束されない為冒険者も出来なくはないとの事。


「いやいや、仕事結構あるんじゃ?」


「そんなもの当然制限させるわよ。また以前のように何でもかんでもわたくしにやらせればいい、という流れにはさせないわ」


 いや帝国に帰属する貴族になるんだし、そんな事出来るもんなのか?……いやディアナなら出来るんだろうな、きっと。


「まぁその方法をとる場合、貴方達の名前や戦力は借りる可能性はあるけども」


 そう言ってチラッと伺うように見てくるディアナに俺達は同時に頷いた。そりゃ我らがリーダーが言うならそのくらいはね。

 前回は黒髪の新人エース君(だと思う人)と良い勝負だったけど、だいぶ俺も力をつけたしな。仮に相手が騎士団長だろうと勝ってやろうじゃないの。


 そんな俺達に微笑んで頷くディアナ。

 それを見て、ルミアは希望を目にしたとばかりに顔を明るくさせる。


「そ、そしたら一緒に…」

「ええ、毎日とは言えないけれど、それなりの頻度で冒険には行けるわよ」


「〜〜〜っ!わぁいっ!」


 感極まったようにはしゃぎながらディアナに抱きつくルミアを、彼女は優しく撫でながら続ける。


「まぁ他にも名誉貴族という手もあるし、もう少し考えるわ……それはともかく、むしろ冒険者はすべきなのよね。帝国がわたくし達に求めるのは戦力でしょうし。それにわたくし達も、帝国内でそれなりの戦果を上げた方が立ち位置を強固に出来るもの」


「あー、陞爵もしやすいってか?」


「あら、よく分かったわね。ちゃんと話についてこれてるじゃない、偉いわ」


「お母さんなの?」


 子供扱いすんなよなぁ、と不貞腐れて見せれば、ディアナは可笑しそうに笑った。


「ふふ、ごめんなさい。ナギは頭が回るのは知ってたけれど、貴族関係のややこしい部分は苦手だと思っていたのよ」


「それは間違ってないけどな」


 俺が知ってるのなんて無料小説で読んだ知識くらいのものだ。つまり雰囲気程度。


「そのあたりは帝国に戻る前に軽く教えるわよ。今後の為にもしっかり覚えてくれると助かるわ」


「うっす」


 無知とは時に罪になるし、時に弱さになる……と思ってる。なので俺としても教えてくれるのはありがたい。

 まぁ何か企んでるようにニヤリと笑うディアナは気になるけど……まぁ今更危害を加える事はないでしょ。


「……ほう?まぁディアナの寿命の間くらいは貸してやらん事もないがの」


「あらそう?ありがとう。でもその前提が成り立つかは怪しいと思うけれど」


「なに、こやつの最終目標には欠かせぬ前提じゃし、我もこう見えて本気じゃよ。それに不老でも不滅ではないしの、自決は出来るし頷く可能性は高いと見とる」


「……それは知らなかったわね。まぁいいわ、そこはルナが苦労する部分であって、どう転んでもわたくしには大した損はないもの」


 ルナとディアナが謎の会話をしてフフフと笑い合ってるの見て、ルミアと俺は二人で目を合わせてから揃って首を傾げた。


「あら、ごめんなさい。話が逸れたわね……今話したように帝国で基盤を築いたら、あとは戦力による成果を主に功績をあげて陞爵するの」


 そこで言葉を切り、真剣な瞳で俺達を見据えて。


「そしてわたくしは帝国を変えたい」


 そう告げた。


「………」


 その真摯な思いが込められた発言は、俺やルナの『王気咆哮』なんかと違って魔力は一切込められてない。

 それなのに、俺は引き込まれるように、あるいは圧倒されるように言葉を失った。


「それにはたくさん手を借りる事になるでしょう。けれどその分貴方達には全力で恩を返すと誓います。……どうか力を貸してくれますか?」


 そこに居たのは、追放されたディアナではなく、貴族令嬢ディアナだった。

 日本育ちの平民である俺では一生身につかないであろう高貴な雰囲気を纏う彼女は、俺の目にあまりにも眩しく映る。


 そしてこれは今後の予定や意思の擦り合わせという議題において、〝ディアナの最終目標〟に対する俺達の対応を問う言葉でもある。

 ディアナの示した案はそれなりに無茶をしなくちゃいけない場面もあるだろうけど、少なくともディアナは俺達の目的に対して最大限配慮してくれた。

 それならば。


「……俺で良ければ」


 ぽろっと溢れるように半ば無意識に出た言葉に、ディアナは美しく微笑む。


「貴方が良いの」


「……お、おう」


 あまりにも真っ直ぐ伝えられ、嬉しいのか恥ずかしいのか、我が事ながら感情が掴めない程に頭と心臓を揺さぶられた。

 それでも火に魅せられた虫のように、ディアナの微笑みから視線だけは動かせない。


「……我も構わんよ」

「あたしもですっ!」


 ハッと我に返ったのは、ルナとルミアの声のおかげだった。

 あー……いかん、今俺完全に見惚れてたよな。

 いや仕方なくない?かっこいいし綺麗だし高貴だし。そりゃ見惚れもするって。


 顔が熱いのを誤魔化すように俯き、その熱を逃すように溜息をつく。

 ディアナが二人に返事をしてるのを聞きながら数秒の時間を置いて顔を上げた。


「……じゃあよろしく、ディアナさん」


「ええ。でもその前に、いい加減に呼び捨てになさい」


「え?いや……」


 いや呼び捨てにするにはオーラとか立場がね?


「わたくしは今は貴族ではないわ。貴族に戻ってからは公的な場でそういう配慮をしてくれるとありがたいけれど、今は無関係よ。……むしろいつまでさん付けなのよ、わたくしだけ仲間外れにする気?」


 後半はどこか拗ねるように告げるディアナに、俺は言葉に詰まり……葛藤ごと吐き出すように嘆息した。


「はぁ……了解。じゃあ改めてよろしく、ディアナ」


「ええ。よろしくね、ナギ」


 こうして、俺達の今後の道筋は決まった。

 

 それから各自挨拶や準備を済ませて、その日の晩にはマグライラから逃げるように出発するのだった。

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