第23話 悪魔襲来
☆ ★ ☆
「えーっと、聖女アリア様が見にくると?」
魔物との戦闘もそろそろ問題ないだろうと認められ、明日にはダンジョンと呼ばれる魔物が住む所に行く。
だから今日は異世界組は全員休みの予定だったのに、朝から呼び出された訳なんすけど。
「らしいぜ。昼飯を一緒に食いてェんだとよ」
「レオンハルト第二皇子は来ないらしいがな」
蔵田先輩と高崎先輩に朝食の席で伝えられたそれに、つい眉間に皺が寄ってしまう。
「えぇ〜めんどくさいっすよー!私どうも好きになれないんっすよねぇ、あの聖女サマ」
これは非常に偏見だと自覚してるけど、物語とかで婚約者の座を奪うヒロインはどうも好きになれない。
愛があればなんでも罷り通るのか?じゃあ浮気は?愛する人の為にと監禁する激ヤバ系ヤンデレさんは?個人差あるだろうけど、すんません私は無理っす。
こういう思考をしてるから恋バナで女子達と話が合わないんだろうけど、だからこそ凪先輩みたいな人と馬が合うんだと思う。
「くくっ、だろうよ。多分凪のヤツもそう言うだろうぜ」
そっすよね、私もそう思います!
あの妙なとこで律儀なのに悪ぶる先輩なら……下手したら堂々と本人の前で嫌いだと言いかねない。
「僕も気持ちは分かるが逃げる訳にもいかないだろう……それとまた話はあるだろうが、マナー等は気にしなくていいが各自礼儀を尽くすように、だそうだ」
要は平民の私達なりに精一杯もてなせ、ってとこかなぁ。あー面倒くさっ、憂鬱だなー。
とか思ってる間にさくっと始まった食事会。
「えぇ〜、すごいですぅ。さすが伝説の『勇者』様ですねぇ」
そんな聖女サマは、開始以降ずっっっと天城先輩にべったりです。
「や、そんな。俺なんてまだまだで……」
「そんな事ありませんよぉ。レベル1で戦闘力100を超えるなんて聞いた事ないですもんっ」
顔を赤くして照れる天城先輩に、一切手を緩めず攻勢に出続ける聖女サマ。
上目遣い、甘い声、自分の美貌を活かす角度や笑顔を把握している立ち振る舞い。
「はぁ……全くぶりぶりぶりぶりと…もんっじゃねぇんだわ」
「くっ……っ!おいやめろ凛ちゃん、女子がそんな事言うな…!」
「せめてぶりっ子とちゃんと言い切ってくれ……あと口調が凪と同じになってるぞ」
思わず小声で呟くと、蔵田先輩は吹き出さないよう噛み殺し、高崎先輩は呆れかえった。
でもあの手の女子は私と相性が悪いんですよねぇ。大抵嫌われて突っかかってくるんっすもん。
まぁ今回は関わる事はないでしょうけど。
どちらかといえば天城先輩の近くで顔が引き攣ってる三大美女先輩達と揉めそう。勝手に揉めてくれぃ。
「はぁ〜〜……いっそ襲撃でも起きて今すぐ食事会終わりませんかねぇ」
「へっ、縁起でもない事言うじゃねェか」
鼻で笑う蔵田先輩に冗談ですよ、と言おうとした瞬間。
「てっ、敵襲だぁああ!悪魔族だ!魔王軍が出たぁあ!!」
城下町側から聞こえてくる大音量の警告。
多分『風魔法』か『音魔法』あたりのスキルを持つ兵士さんなのだろう。
っていやいや、そんなことは今どうでもいい。
「……冬野、君まさか何か」
「してる訳ないじゃないっすか!いやメガネくいくいさせてアホな事言ってる場合じゃないっすよ!これ絶対ヤバいやつっすよね?!」
ここに来て一ヵ月。
それなりに訓練や勉強をしてきた。
その勉強には魔物の知識についても含まれている。
悪魔族。
人型の魔物で、異形な姿を持つが、高位になればなるほど人間に近付く。これはより人間を騙しやすくする為の変化だとか。
姿として共通してるのは黒い肌と真紅の瞳。それ以外の羽根、尻尾などの有無や髪色などは個体差がある。
高い身体能力と魔法を一体につき一種保持しており、知能も高いので高いレベルで魔法を使いこなす。
基本的にBランクの魔物だが、高位になるとA級上位に食い込むこともあるという厄介な魔物だ。
「くっ、行かなくては!」
「おっお待ちください!いくら『勇者』様といえど、まだ訓練中のレベル1です!行ってはなりません!」
席を立とうとした天城先輩を聖女サマが止めた。
その声に従うように執事さんとかも慌てて天城先輩に駆け寄って宥めている。
まぁこればかりは間違いなく聖女サマの言い分が正しい。
今私達が行っても、多分自殺か邪魔にしかならないし。
しかし、状況はそれを許してはくれないらしく。
「筆頭聖女様!良かった、まだここにいらっしゃいましたか!」
バタバタッと床を鳴らしてゾロゾロと騎士さん達が現れた。
先頭に居たのは私達も訓練で何度かお世話になった、サファイ第一騎士団長とパール第三騎士団長だ。
「な、なんで騎士団長が二人も?この緊急時に?」
「おい、まさかここに悪魔が来てるんじゃ……」
「え、嘘!ちょ、やばくない?」
あーあ。その頼りになる二人を見て無駄な察し性能を発揮した数人の先輩。
そのせいでかえって不安が煽られるという残念な事態に。
とはいえ、やらかした先輩達の懸念は分かる。
私も顔が引き攣ってる自覚があるくらいだ。
「落ち着け!いいか、よく聞け!慌てず、落ち着いて帝城内に避難するんだ!」
白髪と灰色の目が特徴的な、熊みたいに大柄でごっつい大男のパール第三騎士団長が声を張った。
食事会の会場であるサロンを揺らす大声に、混乱しかけていた先輩達もシンと鎮まりかえる。……てか耳痛い。
「よぉし落ち着いたねぇ?じゃあ全員立って、押さず焦らず迅速に、ほら行った行った」
青髪と青目というバリバリ異世界感のある優男風のサファイ第一騎士団長も、普段のゆるい口調で促した。
ただ、その声音に微かに緊張が含まれているのに不思議と気付けた。
……どうやらかなりの緊急事態らしいっすね。
「わ、わたしは……!」
「筆頭聖女様も急ぎ避難してくださいませ!謁見の間に皇族の方々がいらっしゃるので共に待機を!ご安心を、オニキス近衛騎士団長もおりますので」
何か言いかけた聖女サマに被せて、パール第三騎士団長が鋭く指示を出した。
本来目上の発言を遮るなんて不敬だそうだけど、緊急事態ではそうはならないとも聞いたっけ。
とか考えてる内に、全員が立ち上がり避難しようとした。
―――その瞬間。
「おぉお、ここに居たかぁあ」
空の上から、聞くだけで身震いするような声が落ちてきた。
考えるよりも早く振り返ると……口が裂けるように恐ろしく凶悪に嗤う大柄の悪魔が、巨大な蛇を抱えて飛んでいる。
ゾッと、肌が粟立った。
★ ★ ★
「おぉお、ここに居たかぁあ」
悪魔族であり魔王の側近でもあるグラトは、やっと魔王ルシアのお使いを済ませる目処が立ってニヤリと笑う。
重たい魔物を担いで飛ぶのはもううんざりだし、さっさと物々交換で野菜の種を。あとは珍しい調味料でもあれば料理の為に欲しいところ。
……さて、彼は何故ここにいるのか。
それはレビアからは「人が多くいるところには物が沢山ある」と聞いているからだ。
ならば最も人が集まる場所に行こうとした考えた結果、途中の街や帝都の城下町を全てスルーして帝城に辿り着いてしまった。
これだけ人がいるならきっと種も調味料もあるだろうと、任務には意外と真面目なグラトなりに懸命に考えたのだ。
では早速用事を済まそうと、グラトは眼下に集まる若い黒髪が目立つ若者の集団や鎧を着込んだ者達の手前へと手に持った魔物を放り投げる。
ズゥン、と地響きを立てて巨大な蛇型の魔物が地に落ち、風を巻き上げた。
何人かの若者が倒れたが、グラトは気にしない。
いかに軟弱だろうと、物々交換さえ出来れば問題ないのだ。
「それとぉ、交換だぁ」
レビアいわく強い魔物の方が価値があるらしい。
道中で戦った中でも割と強かった魔物だし、この蛇なら種も調味料も沢山もらえるだろう。そう考えてグラトは嬉しさを隠せずにニヤリと笑う。
「くっ、なんて凶悪な嗤い方だ……!」
「交換だと?!ま、まさか異世界人や筆頭聖女が狙いか!」
「なんだとっ!魔王軍め、もう異世界人の情報が割れてるとは……!」
「お前達!相手はA級の巨蛇、ヨルガルドを倒す上位悪魔だ!死ぬ気で守れッ!」
しかしグラトの予想に反して、なかなか物々交換に応じてくれない。
良い気分に水を差された心地になり、若干苛々し始めたグラト。
だが魔王ルシアに今後の仕入れも考えて、今回は被害は出さないよう言われている。
あんなお間抜けな魔王様でも、長い付き合いのある上司だ。ちゃんと命令は守ろうとグラトはぐっと堪えて要求する。
「種ぇ、もらうぅ」
「たっ、種……?なんだ種とは……はっ、まさか…!」
「くっ、なんて卑猥な悪魔だ!女性陣は急ぎ避難を!」
「うわサイテー!マジやばい悪魔じゃん!」
何故か騎士だけでなく若者の女子まで怒り始めて、グラトは怒りを通り越して混乱すらし始めた。
おかしい、同僚のレビアに聞いていた内容と全然違う。魔物を渡せば物をくれるのではなかったのか。
……ここで少し余談だが。
〝契約〟は悪魔族の持つスキルや考え方にも深く関わっている。
悪魔族の持つスキルは『身体魔法』『契約魔法』と魔法スキル(これは個人差あり)を一つの、合計3つ。
この『契約魔法』は両者の合意の上で対価と報酬を必ず用意し合うことを強制する魔法だ。
今は『契約魔法』は使ってないが、それにしたって対価である蛇はすでに渡した。
これも先に対価を渡して下手に出た方がスムーズだろうというレビアのアドバイスに従ったのだ。
契約は果たすもの。
その考え方が基本にある悪魔族にとって、今受けている対応は酷く腹立たしい。
「……何故ぇ、くれないぃ」
レビアから人族とは傲慢で利己的だとは聞いていた。
グラトはずっと魔物の領域から出なかったのでまともに接するのは初だが、確かにこれは酷いと苛立ちが増す。
「くっ、先手必勝だ!全員魔法を用意!」
ついには対価だけもらっておいて武力行使か。
そこでとうとうグラトの怒りは我慢の限界を超えた。
「貴様らぁ……下手に出てれば調子に乗りやがってぇ」
「えっ、いつ下手に出た?!」
「この悪魔がぁ!好きにできると思うなよ!」
グラトの怒りは魔力の波動となり、上空から吹き荒れるように騎士達に降り注ぐ。
それに屈しないように騎士達も歯を食いしばって吠えるが、その凶悪な圧に魔法を紡ぐ集中力が解けそうになる。
そんな中、二人の騎士が飛び出してきた。
「てめぇもよお、まさかいきなり本丸狙うたぁ太いじゃないのよ」
「ここは通さんぞッ!」
青髪と青眼を持つ麗人のサファイ第一騎士団長、白髪と灰眼を持つ偉丈夫のパール第三騎士団長だ。
サファイはその場で手に持つ長剣をおもむろに振りかぶり、そして鋭く振り下ろした。
「ぬぅう?」
振り抜かれた剣身が割れ、割れた分だけ射程を伸ばした剣が真っすぐに突き進み、空の上に浮かぶグラトの顔面を狙う。
見れば割れた剣身は細い鋼糸のようなもので繋がっている――いわゆる蛇腹剣だ。
グラトはボッ!と音を立てて突き進む蛇腹剣の突きを、軽く首を倒して避けた。
が、それを見たサファイはその場でぐんと剣を横凪ぎに振るう。
すると蛇腹剣も腕の動きに追従し、グラトの首目掛けて軌道を変えた。
「ぬぉう!」
これにはグラトも驚き、急ぎ回避したものの剣先を掠めて一筋の傷が残る。赤い血が裂けた頬から垂れた。
「はぁっ!」
その隙をついて馬鹿げた跳躍力で高く跳び上がったパール第三騎士団長が、振りかぶった大槌を振り下ろした。
グラトは回避は不可能と判断し、魔力を注ぎ込んで『身体硬化』を施した左腕でそれを受ける。
「ぬぁ…?」
A級魔物の突撃さえも無傷と受けきるグラトの防御だが、しかし自慢の左腕はミシ、という嫌な音を立ててひしゃげた。
動かない程の傷ではないが、皮膚は裂けて肉は潰れかけ、骨もヒビが入ってる。
グラトの感覚としては、目の前の白髪の持つ力量ではあり得ない結果だ。……つまり、何かしらの魔法を使っている。
「………振動、かぁ?」
「ふ、間抜けそうなくせに鋭いな」
打撃の反動で滞空して器用に体勢を整えて、更に追撃をせんと大槌を振りかぶるパールは雄々しく笑う。
パール第三騎士団長は、『振動魔法』を武器に付与する事で威力を増加させる戦法を得意とする。
近接戦闘での単純な一撃の破壊力なら帝国一とさえ言われる彼の大槌の一振り。
それは『振動破壊』と名付けられ、彼の二つ名でもある代名詞だ。
そして再度振るわれる『振動破壊』の一撃だが、しかしグラトは二度目のそれを許しはしない。
「――『黒塗』ぃ」
「ッ、なに?!」
理解不能な現象に、今度はパールが目を剥いた。
それも仕方ないだろう。
振るわれた大槌の先が、まるで暗闇の底に飲み込まれたように消えたのだから。
「ッ、パール!離れろ!『闇魔法』だ!」
地上から叫ぶ同僚のサファイによって、パールは不可解な現状の答えを得た。
『闇魔法』は、簡単に言えば物質と対消滅させる性質を持つ魔法だ。
闇の性質を持つ黒い魔力は、物体にぶつかると保有魔力の分だけ接触した物体を破壊する。
加えて、破壊の効率は下がるが、魔法相手でも同様の効果を発揮する。
時には消滅魔法とも呼ばれる凶悪な魔法だ。
大槌の先の半分を失ったパールは、サファイの放った蛇腹剣が自身の横を通るのを見て、腕を伸ばしてそれを掴む。
それと同時にサファイは力の限り引っ張り、パールを蛇腹剣ごと空中から一気に地面へと退避させた。
「すまん、助かった」
「気にすんなってぇの。しっかし闇魔法持ちが空中にいるたぁ、ちょいと厄介すぎねぇかい?」
高威力の魔法持ち相手に、回避が困難な空中戦に挑むのは危険だ。
しかし魔法を届かせることも容易ではない。闇魔法相手では打ち返されて押し負ける可能性が高いからだ。
「……せめて魔法師団長がいればなぁ」
「ああ。それと異世界人達も腰を抜かしてなければな……」
魔法は使えなくもないが、近接戦闘を主とする二人では厳しい状況だ。
しかも聖女アリアはさっさと逃げてくれたが、異世界人達は腰を抜かして震えている。言っては悪いが実に邪魔だ。
この最悪な状況をどう切り抜けるか……。
そう考える二人に、さらなる絶望が降ってきた。
「――おいおい、嫌がらせする前から大変な感じじゃん」
その新たな声は、先のグラトの威圧よりも重く。
全身に鳥肌がたち、気が遠のきそうになる。
かつて経験した事のない重圧が、その身にのしかかった。
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