第11話
おっと、いい加減に時間もあるからと話を進めないと。
「で、先輩がた、アレどう思いますか?」
「怪しいな」
「胡散臭えよな。凪のヤツが人を言いくるめる時の顔してんぞ、あの皇子」
「私も怪しいし胡散臭いと思います。値踏みしてくる感じがするというか」
満場一致。ヤツらは怪しい!
良かったぁ。さすが凪先輩と仲良くしてる人達!悪意には敏感っすね。
「で、どうしますか?やっぱり隠します?」
スキルを、とは言うまでもない。
「悩むな。それなりに有用さを示せば、それに見合う権限、つまり自由を得る可能性もある」
「けどよ、あんま有用すぎるとごちゃごちゃと絡まれて束縛されそうじゃねぇか?」
「どっちもあるの思います。バランスを見極めたいとこですけど、判断材料もないですしねぇ……」
有用さを示すか否か。どちらに転んでもメリットデメリットがありそうで、余計に悩む。
「まぁ勇者なんていかにもレアなヤツなら伏せとくべきだろうがな」
「えー、そうなんですか?私ぃ、聖女なんすけどっ?」
身体をしなっとさせて言ってみる。
軽い冗談のノリだけど、同級生……どころか年上だろうと顔赤くしたり鼻の下を伸ばすんだよね。
しかし。
「ぶっ、がははは!に、似合わねイデェっ?!」
「ふんっ!」
この人笑いおった!
失礼な先輩の足を踏んでやる。もー!凪先輩と仲良しだけあって似たような失礼さだよこの人!
「ま、まぁ聖女なんかはいかにも重要そうだしな。隠すべきだろう」
「ですよねー?かわいい上にチートな聖女なんて皇子に狙われるかもですしー?」
ね?!と圧を込めつつ可愛らしくてへぺろしてると、蔵田先輩は笑いを堪えて肩を震わせるし、高崎先輩はドン引きした様子で眼鏡がズレた。
うーん、これは凪先輩の友達っすわ。冗談とはいえ、小手先の手口じゃ揺らぎもしない。
それがとても助かる。余計な異性とのアレコレなんて必要ない。まぁ凪先輩への気持ちを知られてるっぽいし、それもあって配慮してくれてそうだけど。
「じゃあ私は隠すとして、悩んでるのがどう報告するかなんですよねぇ。下位互換っぽい感じに言いたいんですけど、やっぱ回復魔法的なの使うんですかね?」
これが悩む所だ。
ステータス画面に詳細を見せろと憤慨してたのも、これを知りたいから。
聖女だと目立つなら、聖女のグレードダウン版で報告したい。
けど、聖女が使える力とは無関係なスキル名を報告をしてしまえば、嘘だとバレる切っ掛けになってしまう。
例えばもしこれで回復魔法と報告したのに、聖女の力に回復魔法が含まれてないなら、いざ回復魔法を使えと言われたら時に困るからね。
「ふむ、では試しに僕と武史の脚を治せるか試してみるのはどうだ?」
「え、いきなりですか?やり方分からないんですけど」
「出来るとは思ってない。あくまでお試しだ」
「いんじゃね?ダメでもともと、当たればラッキーってヤツだろ」
思考の高崎先輩とと直感の蔵田先輩、違うルートを辿った上で同じ解答を出す先輩達。この二人がそう言ってくれるなら、まぁやってみよっかな。
「分かりました。さすが、優しい先輩達っす………これで毒魔法とか出るかも知れないのに我が身で試させてくれるなんて尊敬するっす!ではいくっすよ!はぁ〜〜!」
「うぉおい!やっべぇそんなパターンあんのかァ?!」
「ふ、ふふ……聖女という名前でそんな事になるはずが、な、ない、はずだ…」
一気に頼りなくなった先輩を他所に、傷に手を向けて念じまくる。治れ〜、と唸ってみる……が、効果なし。
「ダメっぽいっす。そもそも発動した感じがしないですね。やっぱりやり方的なのがあるんすかねー、詠唱とか魔法陣とか」
「ふ、ふぅ……そうかも知れないな。あと恐らくだが、スキルは職業のような名前の物の方が希少のようだ」
何事もなかったのでこっそりホッとした高崎先輩は、話を逸らすように話題を繰り出してきた。
とはいえ、すっごく気になる内容。これは話も逸らされる。
こういう時は「誤魔化すの下手すぎー」とか問い詰められるのがお決まりだろうに……うぅん、さすが高崎先輩、こういう細かいところでも有能っす。
「へぇ、マジ?そうなのかよ?」
「先程からクラスメイト達の報告と、皇子達の反応を見える限りな。皇子達の話から察するに……そうだな、先程の例えでいくと恐らく単体のスキルは回復魔法。上位のスキルは回復術師、とかのようだ。恐らく複合スキルの保持者になると職業風の名称に進化するんだろう」
「え、私らで会話してたのに向こうの会話も聞いてたんすか?器用ですねぇ。ストーカーの才能ありますよ」
「誰がストーカーだ、褒め方おかしいだろう………むしろそこまで興味を示さないものなのか?僕としては君達の神経を疑うんだが…」
だってどうでもいいですし、怪しいですしぃ。
確かにワイワイと天城先輩をはじめとした先輩方は騒いでますし、それを異世界の人たちも真剣に観察してるみたいですけど。
そんなことより、今の内にここの3人で話をする方が重要なんすよ。
「小難しい話は知らね。そこらへんは文也に任せるぜ。……と、つまりだ。俺の『剣鬼』ってだと剣と他にも何か使えるってワケか」
蔵田先輩は『剣鬼』ってスキルなんだ。
なんか強そー。なんだろ、鬼……めっちゃ力持ちになるとか?
「ぷっ、てゆーか蔵田先輩に似合いすぎてません?見た目も鬼っぽいっすし」
短髪ツンツンの長身でガタイもいいですし。顔もイカつめですもん。
「おうおう言うじゃねぇか凛ちゃん。それでいくと凛ちゃんは逆に似合わなすぎじゃね?」
「はぁー?心身ともにザ!聖女ですけど?」
と軽口を叩き合ってると、ふむと頷いた高崎先輩が眉を顰めた。
「……まずいな。どうやら僕の『賢者』もかなり希少らしい。皇子達が探してる中の一つのようだ」
「おぉ、なんかいかにも賢そうっすね!」
「だははは!その発言が賢くねーイデッ!」
今度は脛を軽く蹴ってやった。全くもう!
てゆーか賢者とかモロ高崎先輩っぽい。
学年一位らしいし、見た目もメガネの似合うクールな美男子ですし……うん似合う、賢者似合う。
「君達も少しは向こうの会話を聞けよ……全く、勇者、賢者、剣聖、聖女。これらがヤツらの中で特に欲しいスキルのようだ」
「うへぇ、コテコテの名前ですねぇ」
「それぞれ勇者は魔法剣士、賢者は魔法使い、剣聖は剣士、聖女は治癒術師の最上位のようだ」
「あン?じゃあ俺より剣聖の方が強いのかよ」
まぁそうなんだろうけど……なんだろ、少なくともこのクラスの人達で蔵田先輩に勝てる人がいるイメージが湧かないんだよね。凪先輩もこの人には勝てないとか言ってたし。
「さぁな、それは後回しだ。とりあえず僕は魔法使い、冬野さんは治癒術師を名乗ろう」
「はいっす」
「おいおい、俺は?」
大きな図体で置いてかれた子犬みたいな顔をする蔵田先輩に、高崎先輩は一拍考えるように黙ってから告げる。
「すまないが、武史はそのまま報告で頼めるか?理由はいくつかあるんだが……」
「あー、分かった。いいぜ」
ニィ、と笑う蔵田先輩に、高崎先輩は説明しかけた口を開きかけ……はぁ、と溜息と笑いが混じったように息を吐いた。
「助かる」
「おう」
説明はいらない、って訳ですか。信頼してますねぇ。
まぁ高崎先輩の考えなら悪い方に転がる可能性は低いだろーしね。
それにしたって蔵田先輩の割り切りは凄いけど。流石というかなんというか。
あえて言い方を悪くするなら、バカっす。ただ深く考えないからこその思考の柔軟さと瞬発力が際立ってるんだよね、蔵田先輩って。
それにしても……こういう所を見るとやっぱ頼りになる感じがする。
凪先輩は絶対、絶ぇっ対に生きてる。だったら凪先輩と合流するまで、どうにか上手にやらないと。
その為にも……このお二人が消沈してたら困ったけど、元気になってくれて良かった。
なんせ『あの』凪先輩が仲良くしてる人達だもん。私も仲良くしとかないとねっ!
まぁ?外堀埋めみたいな理由もあるけど?でも話すようになってからは普通に良い先輩達だと思うし。
理想は先輩達とここを抜け出して凪先輩を探すか、もしくは上手く王族を利用して探させるか、かな。
頑張らないとなぁ。先輩は今頃何をしてるんですかね……。
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