シノツギ
クワイエット
第一章 第一学期
第1話 鏡のような死神
『ノストラダムスの大予言』
それは、的中した。今ではそういわれている。
世界各国の上空に突如として発生した黒い人影。
まともな調査もできずに、数日もすれば爆発してしまったらしい。
そうして、1999年7月、僕らの住むこの地球は数多の星と融合したことが確認された。
例を挙げるとするならば、
剣と魔法の異世界。
妖怪が蔓延る裏世界。
天使と悪魔が住む世界の狭間。
ゾンビによって滅びた世界。
といった所だ。まだまだあるから、数えればキリがない。
すべての世界が融合したことは、この世界にとって、良い面と悪い面を生み出した。
良い面、それは剣と魔法の異世界から来た、未知なるエネルギー魔力を始めとした、スキルの存在。
医療技術や化学の急速な発達などが挙げられる。
また、他世界との異種族交流もそうだろう。
もちろん、良い面だけではない。
他の世界全ては、地球を中心にダンジョンや迷宮といったもので繋がれていると考えられている。
そこには、様々な危険が存在する。
例えば、異世界へのダンジョンは自然発生した魔物が蔓延っていて、駆除を怠ればこの世界に押し寄せてくるだろう。
ゾンビや他の世界もまた然り。
他にも、悪い面や良い面はあるが今はいいだろう。
何故なら……
「なんで僕が、明日提出の学園の入学課題をサボったお前の助けをしなくちゃいけないんだよ」
「そこを頼むよ〜、
目の前で机に溶けている金髪イケメンの名前は、
恥ずかしながら、僕の幼馴染だ。
しくしく泣きまねをしているやつを無視して、気にせずに僕は思ったことをいう。
「僕は知ってからな!お前がフルネームで読んだ時に助けると、碌なこと起こらない。あと、勝手に人の部屋に入るなよ」
「そんな〜」
「はぁ、今、教えた事で十分書けるだろ……というか、実技試験トップのお前なら課題は出さなくてもいいだろう?」
「………あ」
「しかも、最高の第一クラス確定だったはずだろ?」
まさか、この戦闘おバカは知らなかったのか……?
もしかして、入試の日に殴り合いの喧嘩をした衝撃で忘れてしまったのだろうか。
「我が幼馴染の灰骨さぁん!じゃぁ、俺は、やらなくてもいいってことかぁ!」
「いや、やれ」
「そんな〜」
かなり時間が経ち夕飯時も近づいてきた。英雄の宿題は終わった。
ぼく?僕はとっくの昔に終わっている、英雄と一緒にするな。
僕たちは、立ち上がり自分の部屋からでて玄関へ向かう。
英雄が帰るのだ。靴を履きながら、話しかけてくる。
「んじゃ、また明日の朝な」
「おうよ、お前こそ入学式に寝坊すんなよ」
「舐めんな、俺は異世界の英雄の息子の英雄だぞ?」
じゃ、バイバイ。と去ろうとした英雄がこちらを振り向く。
いつもの元気な空気がない。
「……灰骨。お前、まだ家族を待っているのか?」
「………あぁ、死体は見つかってないんだ。可能性はある」
「だけど……そうか」
こちらを、心配そうに見て英雄は彼の家族が待つ家まで帰っていった。
英雄が帰ったあとの、二階建てのこの家の中を歩く。異常な静けさだ。
誰もいないリビングのソファに座り、何も考えずにテレビのニュースをつける。
家には、僕しかいない。
だが、それは今だけだ。
僕の家族は、きっと帰ってくる。あの事件で死んでなんかいない。
だって、探してもあの場所にはいなかったのだ。
僕は、ただテレビを聞き流して、コンビニ弁当を胃に詰め込んだ。
次の日。
早朝、家のチャイムが鳴った。
幼馴染の英雄だろうか?だとするならば今日から、登校にしても早い。よほど、楽しみにしていたのだろう。
(まぁ、あいつの憧れの学園生活だったからな。しょうがないか)
僕は、寝癖を軽く治して、昨日出しておいた制服に身を包む。
軽く駆け足で玄関に向かい、扉を開ける。
「はい」
「灰骨!準備はできたか!」
予想通り制服を着た英雄が、準備をして外で待っていた。大きなスーツケースを横に置いている。
「あぁ、少し待ってな」
僕は答えると、リビングに置いておいたスーツケースを持って、外へ出る。
玄関の鍵を閉めて、小さく呟く。
「行ってきます」
早くしろ〜、と既に遠くにいて、叫ぶ英雄に苦笑しながら、僕は歩き出した。
学園から指定されたバス停に向かう途中、僕と英雄は雑談をしていた。
「いや〜、一体どんな人間に出会えるんだろうな!」
「ざっくりと予想はつくけどな」
「おっ、灰骨!どんなだ?」
僕の言葉に英雄が、興味津々にこちらを見てくる。
「
「たしかに、ありそうだな」
「そうだろう?まっ、お前は特にクラスメートは将来ダンジョンで背中を預ける仲間だ。仲が悪いと最悪なこと…に……」
僕らの少し先の横断歩道だろうか。
老婆が、重い荷物を抱えて横断しようとしている。
しかし、あまりにも遅くこのままでは、信号は赤になってしまうだろう。
「英雄、少し手伝ってくれ」
「え?なにが……あぁ、そうか」
いいぜ!と笑ったので、僕はスーツケースを英雄に預けて、僕は急いで走り出した。
「おばあちゃん、僕荷物持ちますよ」
「…いいのかい?ありがとうねぇ」
おばあちゃんから、重い荷物を受け取り、おんぶして青信号ギリギリで向かうに渡り終わる。
「はい、これ」
僕は、荷物を地面にゆっくりと置く。
「ありがとうねぇ、お兄さん。これで孫に誕生日プレゼントを渡せるわぁ」
おばあちゃんは、にっこりと優しく笑った。
「そうだ、飴ちゃんあげる」
「いいの?ありがとう」
そして、老婆は空気に溶けるように消えるように、いなくなった。
「お〜い、ちゃんと成仏できたか?」
再び、青信号となった横断歩道からスーツケースの二刀流をした英雄が渡ってくる。
「……あぁ、ちゃんと成仏したよ。英雄も荷物持ってくれて、ありがとう」
「気にすんなよ!」
感謝と同時にスーツケースを貰い、再び歩き出す。
貰った飴を袋から出し、舐める。味はしなかった。
「おっ!その動き、今回は飴を貰ったのか!レベルは?」
「当たり前のように下がった」
飴を口に入れたまま、答える。
「そうか、あのお婆さんはすごいんだな……飴の件を抜きにしても、俺も、手伝えたらよかったんだが」
「それは無理だな。僕も見えたり、触れたりできるのは固有スキルのおかげだし」
「そっか……だよな」
「だが、お前のスキルの方がよっぽどいいよ」
指定されたバス停に着く。周りに人はおらず、車もない。
僕は、飴を飲み込んだ。
「今、生きている人間を救える方が随分いい」
「そうか?」
「そうだろうな、おっ、バスが来た」
パッパー、と音を鳴らしてバスが停まる。ドアが開いたので中に入る。
運転手以外に人はいないようだ。
二人が席に座ると、運転手は荷物を受け取ってくれて、バスは動き出した。慣性の法則で、少し体が揺れる。
英雄がワクワクしながら、話しかけてける。
「なぁなぁ!学園についたらなにしたい?俺は友達をあと99人作る!」
「僕は学食を食べに行こうかな」
ああだ、こうだ、している内に数時間。バスが停まる。
窓から外を見れば、同じようなデザインのバスが何台と停まっている。
運転手さんにお礼をいって、僕らは降りる。外は、同じように降りてくる人達で溢れかえり、騒々しい。
「うおぉぉぉぉぉぉ、テンション上がってきたぁぁぁぁ!」
まぁ、一番騒がしいのは隣の幼馴染なのだが。
「英雄、静かにして」
「ん?なんでだ!」
「周りからの視線が痛過ぎる」
今の英雄の大声で、周りは静まりかえり、全員の視線が英雄に集まっている。
当然、隣の僕にも「うるさいな、静かにさせろよ」みたいな言葉が、ゆうに聞こえてくる。
『ピーザザッ、あ〜諸君。聴こえているだろうか?』
地獄のような静寂を突き破る、アナウンスの声が聞こえた。
声は女性だろうか?いかにも、めんどくさそうに話してしている。
何処かで聞いたような……?
『まずは、この国立スキル特別教育学園への入学おめでとう』
同時に、先輩らしき人たちがなにかカードを配り始めた。
受け取ると、ただの黒い板でなんの変哲もない。
『あ〜、諸君。カードを受け取っただろうか?それじゃあ、なんでもいいから入学試験の時に使ったエネルギーを、それに注いでくれ』
隣で英雄が「じゃあ、俺は魔力か」といいながら、金色の魔力をいれている。
僕は、妖力を使った気がするので注いでおく。すると、黒のカードになにやら文字が浮かび上がる。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
名前:
実技順位:78位/1500位
筆記順位:65位/1500位
総合順位:71位/1500位
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
おそらく、入試の結果だろうか。隣の英雄のやつも見せてもらう。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
名前:
実技順位:1位/1500位
筆記順位:1458位/1500位
総合順位:18位/1500位
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
……ん?やばいな?バグだろうか?
英雄は、嬉しそうに笑っている。
「なぁなぁ!俺、筆記が最下位じゃなかったよ!お前が勉強を教えてくれたおかげだ!」
筆記がこの順位で、18位……実技が化け物すぎたということか。
『まぁ〜、諸君。順位が低くても気にするなよ。入学できるほど良い固有スキルがあるだけでもいいことだ』
それは、そうだ。
良い固有スキル持ちは少ないからな。進路の幅も広いだろう。
『では、入学式を行うから体育館集合で。んじゃぁ、また』
雑にいうと、アナウンスは終わり、僕らは先輩らしき人達に体育館に案内された。
席に座ると、副学園長を名乗るお爺さんが、出てきて話し出す。
「諸君、入学おめでとう。長い話は、歳のせいか思いつかなかったので、手短にの」
うぅん、と学園長は咳払いをする。
「これからの話をする。君たちには、一週間後ぐらいにコース交流会をしてもらう。んじゃて、今週はよぉ休んでくれ。明日から授業を始めるので、よろしく頼むぞ」
本当に手短な話の後、司会者に呼ばれて、生徒会長が出てきた。
黒髪の清楚そうな美人な女性で、髪をポニーテールに結んでいる。
静かそうなそうな見た目をしているが、違うことが一目でわかる。
額に『熱血!』と書いてある、はちまきをつけているからだ。
「ひよっこ供、元気にしているか!!!私は、元気だぁぁ!!」
マイクを掴み、笑顔で叫んでいる。
「名前を
なんだろう。残念美人臭がする。
「君たちには、寮へ移動するだろうが!学園初日がそれだけでは面白くない!!よって、学園と我々生徒会はぁ!副学長と君たちに内緒で、サプライズを用意したぁぁ!!」
生徒会長は叫びながら、右腕を上げる。そして、指パッチンをした。
パチンッ。
乾いたいい音共に、体に浮遊感が生まれる。
(おいおい、マジかよ!?)
周りを確認すれば、自分達の下に黒い穴が開いているのだ。
ただ穴に落ちてく最中、あの生徒会長の声が聞こえる。
「この学園を卒業した君たちはぁ!!将来に危険任務に就くことが多い!!その際!仲間同士の実力が離れすぎると、お互いにとって良くない!!よってぇ!!」
目の前の景色が変わる。
何処かの洞窟の中だろうか。松明が壁に沢山かかっており、辺りは明るい。
隣にいたはずの英雄や他の人の姿は見当たらない。
『今からぁ!ついでに!実力でクラス分けを行う!!』
姿は見えないが、何処からか声が聞こえる。
『詳しくはこれを見ろぉ!!』
叫び声と共に、目の前に小さな黒い穴ができる。小さな袋と紙が落ちたと思ったら、穴は消えてなくなった。
僕は、紙を拾って見てみる。
【説明書】
そこは、剣と魔法の異世界に通じるダンジョンだった場所。制御可能な数少ないものだが、お互いに結んだ条約によって、一階に学園をおき、二階以下を地球の訓練所に改造した。
そこの中では、死ぬ攻撃を一度だけ防いでくれるシールドがある。シールドがなくなると、回収される。
ここでは、1時間テストを行う。
この間の、行動や生存時間によってクラスを分ける。
魔物が湧くので、なんでもして良い。
食糧、水、ポーション等は袋の中に入っている。
追記)頑張ってくれよぉ!!
だそうだ。
いきなりなんだ、と思ったらクラス分けか。生徒会長の反乱かと思った。ってか、ついでに行うなよ。
英雄が心配……になるわけないか、あいつ怪物みたいに強いし。
ん?足音が聞こえる。
他の生徒か?
発信源は、向こうの曲がり角か。
ヒタヒタ、と近づいてくる。人との接する時に、大切なのは第一印象。
ということは、あいさつ。
「うぅん、え〜、はじめまして。こんにち……」
「ぎゃぎゃっ、ぎゃぁ」
「……いや、ゴブリンっ!!」
肌は緑で、腰に布だけを巻き付けている。手には棍棒を持って、涎を垂らしている。
まじかよ、勘違いや。しかし、今は後悔してる暇はなさそうだ。
今にも、飛びかかったきそうな雰囲気をだしている。
「一応聞くけど、生徒では……」
「ぎゃぁ!!」
僕が言い終わる前に、ゴブリンは飛びかかったきた。
⭐︎⭐︎⭐︎
「さて、ひよっこたちの様子でも見るかぁ!!」
私、生徒会長の小柄 倭!
今は、ダンジョンに飛ばした生徒たちを見ているよ。
「やまとぉ、ちょっと近い」
「おっと!これは失礼!!」
この今喋った白髪と黒がまじった女性は、
私は暇なので、先生が担当しているモニターを見せてもらっているのだ。
「ところでやまとぉ、残りのエネルギー残量はどのくらいだ?」
「9.9割以上ってところです!!」
「1500人以上、ダンジョンに転送してそれか……、相変わらずの馬鹿げた怪物っぷりだなぁ」
「それ程でも!!しかし、鹿葉先生こそ!弟さんが実技テスト1位ですってねぇ!!」
「あの馬鹿はぁ、強さ以外に取り柄がないだけさ」
ちょうど、見ていた画面に実技テスト1位の子が映る。全身に魔力を覆わせて、身体能力を上げている。
『応えろ!エクスカリバー!!』
叫ぶと、手に粒子が集まり剣になる。振りかざすと、目の前にいたゴブリンをまとめて吹き飛ばし、地割れを引き起こす。
周りの先生から「おぉ!」「これが筑紫勝家のスキル、
異世界から来た英雄の一家、それが筑紫勝家だ。一世代に一度だけ現れるスキル【
絶大な威力を誇る聖剣の召喚に加えて、使用者の身体能力を爆発的に高上させる。シルプルであるが故に、最強と名高い。
見たところ、襲われていた女子の同級生を庇ってスキルを使ったようだ。
助けられた子、完全に、実技テスト一位にほれているな。
あの子、なんか有名な財閥の子だったような気が、まぁいいか……いいぞ!人の恋愛ほどうまいものはない。
先生は、強さだけが、と言っているが、その強さがトップクラスなのだが。
まぁいいだろう!私が、興味があるのは彼ではないからな!!
「なぁ、先生!総合71位だった子を出してくれ!!」
「……なぜ、その人?」
「ん?君は総合1位ちゃんじゃぁないか!!」
隣から話しかけてきた女の子は、総合1位だった子だ。名前は、確か……なんだったか?
「……
今は、二人興味があって一人目は、彼女だ。なんせ、私の固有スキルを避けたのだからな!
そのせいで、ダンジョンに行かずにここに一緒にいるわけだ。
「すまない、すまない!人の名前を覚えるのが、苦手でな!!」
「はぁ、……理由」
「ん?君も見たはず……そうか、君は別会場だったから知らないんだ!んで、友達もいないから教えてもらってないんだぁ!!」
「……うざっ」
「すまない、すまない!んで、理由だったな!!」
君ぃ!と
「【聖剣】使用状態の実技テスト1位と、まともに殴り合いの喧嘩できるか?」
「……当たり前、舐めすぎ」
「だろうな!じゃあぁ」
ぐいっと、顔を近づける。
「自分の固有スキルを使わずに、一般スキルだけでか?」
「……不可能」
「だが、彼はやってのけた」
麗花の顔に驚嘆が湧く。
「……!?いや、不可能、持てる一般スキルの種類、数には限りがある。それも少ない。しかも、どれだけ一般スキルがあっても、いや、あり得ないけど、普通の固有スキルが沢山あったとしても、私の固有スキルや【聖剣】のレベルには遠く及ばない」
「おっ!中々にしゃべれるじゃないか!!意外だな!!」
まったく喋らないものだから、生徒会の書記みたいに話せない子かとおもっていた。
今度は麗花が、顔を近づけてくる。
「教えて、どうしてそんなことが、できるの?」
……ふむ、普通は教えないのだが。後々、知ることになるだろうからいいのだろうか?
しかし、まぁ……
(バレたところで彼の強みは、なくならない)
「いいだろう!教えよう!!彼のスキルは…………」
⭐︎⭐︎⭐︎
ゴブリンが
「悪いけど、正当防衛だから」
「ぎゃあ?」
棍棒をもって空中にいるゴブリンに、拳の焦点を当てる。
「
チリンッ。鈴の音が鳴る。
同時に、人差し指の根本にある指輪が具現化する。
スキル【怪力】Lv.3 発動。
固めた拳で、ゴブリンを殴る。さらに当たる瞬間だけ妖力で、拳を覆う。
相手の上半身が消し飛ぶ。血がかかりそうになるが、避ける。
「このスキルは、結婚式直前に事故で死んでしまった、お姉さんのものだ」
あの人の、恨み、悲しみよりも早い困惑の思いが流れ込んでくる。
また、足音がした。さっきよりも大きく、数は圧倒的に多い。
「ブオォォォォォォォォォ」
「……オークの群れか」
数は5体ほどだ。全員が轟音を鳴らして突進してくる。
「
「ブォ!?」
地面を踏み込む瞬間だけ、足に妖力を纏わせ、接近する。
先頭のオークの頭を掴み、膝だけに妖力を移動させ、跳び膝蹴りを喰らわせる。
もちろん、先頭が強制停止したのだ。この狭い洞窟では後続は、先頭とぶつかる。
前に倒れるオークの群れと、後ろに潜り込む僕。
チリンッ。また、鈴の音がする。
両手に黒い手袋が、耳にイヤリングが具現化し、口から頬に向かって黒い模様が浮き出る。
スキル【裁縫】Lv.5 発動。
両腕の手首から白い糸が勢いよくオークの群れに向かって、飛び出す。
「これは孫の為のプレゼントを、届けたくても届けれなかった婆さんのスキル」
死んでもなお感じる、今朝会ったおばちゃんの家族への愛。
スキル【操作】Lv.2 発動。
糸は自身の意志を持ったかのように動きだし、起きあがろうとしたオークの首と全身を絞めて、仁王立ち状態にする。
「これは、プロ野球の投手を目指していたあの少年のスキル。そしてぇ!」
少年の努力の日々が、身に染みるようにわかる……死んだ時の絶望も。
スキル【鋼鉄】Lv.5 発動。
糸は布から金属へと変化する。
僕は両手を締めて、糸を握り引っ張る。オークは仁王立ちのまま、首だけが落ちて、血を噴水のように撒き散らす。
「これは先祖代々の金属塗装工場を守ろうと戦う途中で病死した爺さんのスキル」
守れないと理解した死に際の、虚しさと悔しさが、心に生まれる。
「
チリンッ。
鈴の音と共に体の模様、スキルと具体化された物は消えていった。
ただ、彼らの感情と思い出を残して。
⭐︎⭐︎⭐︎
生徒たちを監視する部屋。そこで、生徒会長は
「彼のスキル名は【
―――――――――――――――
作者からのお願い
こちらの作品は現在、カクヨムコンテスト11に応募させていただいております。是非とも
⭐︎や♡、コメントなどで応援をお願いいたします。
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