冒険者になるのにヒロイン(?)が同行をやめてくれない
フェムト@ピッコマノベルズ連載中
第1話 ヒロイン(?)は立ち読みをやめない
ティアナス。
それは、草原や丘陵が大部分に広がる比較的穏やかな大陸の名前だ。
ティアナス大陸の東側にあるイストラール国、の更に端っこの田舎町タリメア。
その小さな商店街を歩く二人組。
金と銀の光輝く頭頂部が、二人セットで陽光に煌めいている。
銀の髪をおさげにした少女は、左手に持ったメモをじぃーっと見ながら呟いた。薄紅色の瞳はやる気に満ち溢れて見える。
「まずは、ポーション10個と、毒消し!携帯食料は干し肉と、カンパンもあるといいよね。もちろんリセルの装備も買わなきゃ~」
「……何そのメモ?」
その女の子、フィオのメモを持ってない右手は、はちみつ色の金髪の少年、リセルに繋がれている。
リセルの暖かな金の輝きを含んだ琥珀の目は、フィオの手元を怪訝そうに覗き込んだ。
フィオは何でもないことのように言う。
「冒険者の心得って本が貸本屋にあったから、貸本屋の中で写したの」
「せめて借りてあげなよ……」
「毒消し1個買える値段だよ!?」
「毒消し安いじゃん」
「そんなこと言ってたら、お小遣いなんてすぐ無くなっちゃうよ? 冒険に出る為に3年もお祭りで買い食いもせず貯めてたのに」
フィオはぶんぶんとメモを持つ手を振って主張する。
「う、うん。それはそうだけど……。それより、フィオ、本当についてくるつもり……?」
「もちろん!」
フィオはニコニコと、いつも通りの上機嫌の笑顔で頷いた。
リセルは、はぁぁぁ、と大きなため息を吐く。
リセル・モントールとフィオ・クロッツは14歳。
ここ、タリメアの町から歩いて1時間の場所にあるトルネ村に住んでいる。
リセルは由緒正しい農業主であるモントール家の、五男だ。
親兄弟に『申し訳ないけど、相続できる品が牛1頭もない』と言われて、冒険者になることを11歳の時に決めた。
牛を相続した四男の兄は『毎日牛乳1杯くらいなら大丈夫だけど』って言ってくれたけど、……僕、子牛じゃないからさ。
それに、リセルは冒険者になることが嫌ではなかった。本の中の冒険にも、旅芸人がお祭りで見せてくれる劇に出てくる英雄、『勇者』にも、憧れていたから。
むしろ、この小さな村を飛び出して、広い世界を見に行くことが出来ると思うとワクワクが止まらなかった。
だけれど。
横を見る。
ニコニコしてこちらを向く銀髪の美少女、フィオ。いや、ほんとに文句なく、美少女で、別に嫌なわけじゃないんだけど、フィオが!
「……でも、冒険の途中で沢山のヒロインに会ってチヤホヤされたり、王女様と結婚したりするじゃん! 勇者って!!」
リセルは、フィオの手を振り払った。
「エー!!」
フィオはリセルの突然の爆発に、一瞬ショックを受けた顔で叫んだ。
リセルは歯を食いしばり、そのフィオの顔を見ないように顔を逸らした。
すると、フィオはまたリセルの隣に来て、そっとリセルと片手を繋ぐ。
顔を見るとニコニコとしていた。
「やっぱりこのパターン……!」
もう慣れてしまった左手の感触を感じながら、リセルは苦悩した。
リセルとフィオの出会いは、5歳の時。
フィオは母親と二人きりでトルネの村に引っ越してきた。
挨拶に来たフィオのお母さんを見て、トルネの村では珍しく、都会っぽい雰囲気ですごく美人だとリセルは感じた。
そして、その隣に立つ小さな女の子も。銀髪と薄紅の瞳なんて見たこと無くて、顔立ちもすごく可愛かった。
その女の子、フィオは、リセルを見るとニコニコと笑い、リセルはあまりの可愛さにドキドキしてしまってお母さんの膝の裏に隠れたほどだった。
だけど、気が付くと、手が掴まれていた。温もりに振り返ると、ニコニコと笑うフィオが居た。
「え…?なに?」
不思議で聞いても、フィオはニコニコと笑うばかりで、特に答えない。ただすごく上機嫌なのだ。
それ以来、フィオはリセルの隣に居ようとし、両手が塞がって無ければ手をつなぐ。
振り払っても、振り払っても、いつの間にかに手を繋いでくる。
フィオは左利きだが、リセルと手を繋ぎ過ぎてそうなったのではないかとリセルは疑っているほどだ。
『あら、フィオとリセルはとっても仲良しね。二人とも天使みたいに可愛いからお似合いだわ』
大人たちからはよくそう声をかけられる。
でも、違うんだ!いや、仲良くないわけじゃないけど、違うんだよー!
リセルの苦悩をしり目に、フィオはキョロキョロと周囲を見回す。
「タリメアの町はいつ来ても人が多くてウキウキしちゃうよねぇ!」
うんうん、それに対してはフィオも全面的に同意だ。トルネの村には小さな食事処兼酒場と、ほんの少しの雑貨を売る店が1個ずつあるだけ。
周辺の村に住む子供たちにとって都会と言えばタリメアの町。(※注:一般的にはド田舎)
なんと言っても、この街には冒険者ギルドまである。だから、冒険の準備をするためのお店も揃っているのだ!
フィオはメモを確認しながら言う。
「じゃあ、まず薬屋に行こうか。ポーション10本と、毒消し2本買おう」
「毒消し2本?少なくない?」
毒消しの方が安かったはずなのに、とリセルは言う。
「えー、だって毒とかにやられたら、やる気なくなってその日終了じゃない?村戻るよね?」
「そっか~。そうかも」
根性のない二人である。
二人は手を繋ぎながら、薬屋の中に入って行った。
「「こんにちはー!」」
「あら、可愛い恋人同士ね~」
「ありがとうございます」
「ち、ちがいます」
フィオとリセルの声は交ざって「あちがます」になって聞こえた。
フィオは何も気にせずそのまま注文をする。
「お姉さん、ポーション10本と毒消し2本ください」
「あら、お母さんのお使いかな? 冒険者証が無いとポーションは3本までしか売れない決まりなのよ」
「えー!!」
叫ぶフィオ。リセルは薬屋のお姉さんに聞いた。
「冒険者証ってどこで貰えるんですか?」
「そんなの冒険者ギルドに決まってるじゃん」
隣のフィオが冷静に答えた。
一応買った3本のポーションと2本の毒消しが、フィオのリュックの中でカチャカチャと音を立てている。
「フィオ、なんでそんなの知ってるの?」
「貸本屋で『冒険者の心得』立ち読みしたの。読破したわよ」
「だから借りなよ!」
「貸本屋のおじさん、嫌がらせで私の上の棚の埃掃除ばっかりするようになったから意地になっちゃって……」
立ち読みのし過ぎで埃を頭に落とされていたらしい。リセルは北風と太陽の童話を思い出した。
フィオがリセルに言う。
「冒険者ギルド、行ってみようか?」
「……なんかドキドキするね」
「うん。冒険者証貰えるかなぁ」
二人は、商店街の端にある冒険者ギルドの扉を開いた。
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