薔薇色の人生

@akuma_006644

No.1 蕾が摘み取られた日

生まれてきた価値が、なかったのかもしれない



世間を魅了させるスーパーアイドルの元に新たな命が誕生したというニュースは、日本中を騒がせた。

珠莉亜(じゅりあ)はインタビューで度々子供について質問を受けていたことがあったという。


『もし珠莉亜さんに子供ができたら、将来は何になってほしいですか?』


「子供も一緒にアイドルになってほしいです」


『え!親子共演もあったりするかもですか!?』


「きっと、私に似て世間をお騒がせする子になっちゃうかもしれませんね」


微笑ましく答える珠莉亜の姿を、今また世間は脳裏に思い浮かべた。


𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄


病院内に響く珠莉亜の声。今まさに出産の真っ只中だった。


『お母さん頑張ってぇ!!!!!』


励まされながらようやく誕生した1人の女の子。

桐島 柚希。彼女がこの世に生まれた瞬間。


「……はじめまして」


汗の滲む髪をかきあげ、そっと我が子を撫でる珠莉亜。その時、扉が勢いよく開かれた。


『お父さん、もう少し優しくお願いしますね』


「あっ すみません…!」


看護婦さんに苦笑されながら珠莉亜の元に歩み寄るのは夫の桐島 賢二郎(けんじろう)。大手企業の社長でありながら表舞台に顔を出すことはなく完全に素顔は闇の中。あの珠莉亜と結婚できたのだからさぞかしイケメンなんだろうと言われている。


「かわいいなぁ…これは俺に似たかな」


「ちがうわよ。この可愛さは私に似たの」


2人のやり取りをそっとききながら微笑む看護婦さん達。新たな命の誕生に誰もが祝福した。


そんな暖かい時間は、あっという間に崩れ去る



「ねぇ、柚希」


積み木で遊ぶ柚希にそっと話しかける珠莉亜。物心がつき始め、幼稚園に通う歳になった頃の話。


「…なぁにママ」


積み木を片手で持ちながら珠莉亜を見つめる純粋な瞳。その眼差しを壊すように…衝撃なことを言い放った。


__「ほんとに私の子?」


キョトンとしたまま何も言わない柚希。

もうこの言葉を言ってしまった珠莉亜はこの後 どんどん自分が壊れていくことになるのをまだ知らない。


「ママ…?」


震える珠莉亜を、また悪意の無い純粋な瞳が見つめ返してくる。


「……なんでもないわよ」


首を傾げると柚希は珠莉亜に抱きついた。


「きょうのママ、へんだね」


「…そうね、ちょっと変…かも」


焦点が定まらない瞳がただ窓を見つめながら、柚希を抱きしめ続けた。


𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄


ある日の桐島家では、テレビに1人の女性が映っていた。柚希はその姿に釘付けになっていたのだ。


「…すごい」


ステージに立つ女性は歌って、踊って、スポットライトを浴びて光り輝いていた。


「これ…この人!!!ママだ!!」


顔のアップがテレビに映った瞬間、柚希は歓声をあげた。自分の母親が今 画面の中で沢山の人に注目されている。


「あっ、あいどる…?わたしも、なれるかな」


この時芽生えた柚希の思い。不意に口から出ていたその言葉を キッチンで夕飯の支度をする珠莉亜は聞き逃さなかった。


(あの子は無理。私のようにはなれない)

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