第49話 街に忍び寄る脅威

和やかな空気が、ほんの一瞬だけ続いた。


トウフが仲間に迎えられ、ミナが笑みを交わしたその瞬間——


——ドォンッ!!!


控え室全体が揺れるほどの爆音が、建物ごと震わせた。


「な、何!?」

フィオラが声を裏返らせる。

天井から細かい埃がぱらぱらと落ちてきた。


続けざまに、


ズガァァァンッ!!!


さっきより近い場所で、建物が軋むほどの衝撃音。

控え室の外では、兵士たちの怒号が混じり合っていた。


「……始まったわね」

ミナは表情を曇らせ小さく呟いた。

ハヤトはその表情の意味を理解する暇もないまま、緊迫が押し寄せた。


次の瞬間——

控え室の扉が勢いよく開けらせた。


「敵襲です! ! 試合直後に申し訳ありません、ご協力お願いします!!」


荒い息を吐きながら駆け込んできたのは、レイピアを携え戦闘者の顔へ変わったメイリだった。


「スタッフは観客の避難誘導に大半を割いています。前線の戦力が圧倒的に足りません!!」


「よっしゃ! 前線は俺たちに任せろ!!」

キースが即座に立ち上がり、アカギも無言で武器を取ると、二人は風のように控え室を飛び出した。


「俺たちも行くぞ!」

ハヤトが仲間たちを見る。

四人の瞳が静かに頷き返す。


「メイリさん、状況を!」

セレナが問う。


「五分前、街に”異形の怪物”が三十体、人型の者も混じって突然出現し暴れています!」


説明の途中、控え室の廊下に三体の怪物が姿を現した。

形状はゴブリンに似ているが——纏う気配が”自然”ではなかった。


「ハッ!!」

メイリのレイピアが閃き、ゴブリンを切り裂く——が。


「グォォォォ!!」


真っ二つになる前に、裂け目から伸びた触手がメイリの腕を絡め取った。


「しまっ——」


「危ない!!」

セレナが即座に踏み込み、その触手を薙ぎ払う。


怪物は大きくよろめくも——

切断されたはずの胴体が、ズルリと再生を始めた。


「再生……だと?」

ハヤトは背筋を冷たいものが這い上がるのを感じた。


「自然のモンスターじゃない……研究室から逃げ出した実験体、って感じね」

ミナが冷たい声で分析する。


メイリは距離を取りながら言った。


「セレナ様、先程はありがとうございました。出現した敵の数は少ないですが、どれもただならぬ雰囲気を持っています。ハヤト様たちも十分気をつけてください」


そう告げると、メイリは再び前線へと駆けていった。


街の外からは、悲鳴と怒号、そして何かを破壊する凄まじい音。

平穏は完全に終わり、物語は新たな局面へと突入しようとしていた。


闘技場を出た瞬間、外の風景は既に戦場と化していた。

瓦礫が散乱し、建物と窓という窓が砕け、通りには灰色の煙が漂っている。


「うわぁぁぁぁぁ!!」

「こっちに来るなぁぁぁ!!」


逃げ惑う街人たちが通りを埋め尽くし、親を探しながら泣き叫ぶ子供の声。

倒れた誰かを揺さぶる叫びが混じり合っていた。


その混乱の中、兵士たちが前線を張ろうと必死に動いていた。


「隊列を崩すな! 市民を中央区画へ誘導するんだ!」

「こいつら硬すぎるぞ、頭を正確に狙え!」


しかし、兵士たちの盾に叩きつけられたのは、人型の怪物——それはヒトの形をしていながら、皮膚が裂け、骨が外に露出し、何より常軌を逸した再生力を持っていた。


一本の槍が怪物の胸を貫いても——肉は波打つように閉じ、すぐ元の形へ戻る。


「じょ、冗談だろ……」


若い兵士が絶望の声をあげた瞬間

怪物の腕が鞭のように伸び、兵士を数メートル先へ吹き飛ばした。


「ち、畜生っ! 一体、何だんだ……この化け物は??」


指揮官らしき男が大きな声をあげるが、怪物たちはまるで意思統一されているかのように、展開していき兵士の陣形をジワリと確実に崩していく。


街全体が、未曾有の悲鳴で満たされていた。

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