第32話 群れの牙イノシシ討伐


 森の奥に足を踏み入れると、鼻息を荒げる気配がいくつも聞こえてきた。

 木々の間から、牙を突き出した巨大なイノシシが次々と姿を現す。


「来るぞ!」

 リュシアンが短弓を引き絞り、アヤメは素早く前へ。


「ミオ、頼む!」

 僕の肩から飛び降りたスライムは、

ムキュッ!

 と気合いの声をあげ――


 群れの牙イノシシが一斉に突進してきた。

 僕は思わず息をのむ。ミオが前に出て、小さな体をぐっと広げ――。


 ミーーーーー!


 光を帯びて一瞬だけ巨大化し、迫る突進を受け止めた。だけど相手の勢いはすさまじく、足元がずるずる押されていく。


「ミオ!」


 その時、頭の中に自然と浮かんできた言葉があった。

 ――ブースト!


 叫ぶと同時に、ミオの体が青白い光に包まれた。

 イノシシの牙を受け止めたまま、一歩、また一歩と押し返していく。


「なんだ今の……!」

 リュシアンが驚き、アヤメも目を見開く。


 次の瞬間、ミオは短い腕で「ぺしっ!」とイノシシの鼻先を叩いた。

 ドン、と巨体が崩れ落ち、群れは総崩れ。討伐はあっけなく終わった。


 ――。


 戦いが終わると、ミオはちいさな姿にもどってトコトコ僕のもとへ。

 ぴと、と頬に寄り添い、かすかに「えへ」と鳴いた。


「おつかれ。すごかったな、ミオ」

 そう言って頭をなでると、ミオはくたりと僕の手の中でごろんと転がる。


 アヤメが小さく笑った。

「……可愛い相棒ね。あなたの声に応えたのかしら」


 リュシアンも肩をすくめる。

「……見誤ったよ。あのスライムがここまでやれるとはな」


 僕は照れ笑いしながら、ミオを胸に抱きしめる。

「ありがとう。……さあ、後で美味しいものでも食べよう」


 ミオは「ムキュッ!」と元気よく鳴き、短い手をぱたぱたさせた。

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