第28話 小さな逆転

 鉄級(アイアン)の男は苦笑いを浮かべた。

「まさか、ここまでやるとはな……だが、このままじゃ試験にならねぇ!」


 そう言って、木剣を大きく振りかぶる。

 観客席から悲鳴が上がった。

「おい、本気か!?」「スライムじゃ耐えられねぇぞ!」


 僕の心臓が跳ねる。

「ミオ……!」


 けれど、ミオは怯まなかった。

 短い手で男の足にぴとっと触れたまま、ぷるん、と体を一気にふくらませる。


 次の瞬間。


「ぬおっ?!」


 男の足がぐらりと滑った。

 ミオが自分の体を一瞬だけぬるりと変化させ、足元を“油膜”のようにしていたのだ。

 体勢を崩した男は、思わず木剣を落としてしまう。


 観客席がどっと沸いた。

「やった!」「すげぇぞあのスライム!」


 僕は拳を握りしめる。

「ナイスだ、ミオ!」


 テチテチと音を立てて戻ってきたミオは、僕の膝に飛び乗ると――


「ムキュッ!」


 短い手をちょこんと上げて、得意げに鳴いた。


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