第21話 果物屋さんでのおすそわけ
市場の通りを歩いていると、果物屋の前に人だかりができていた。
赤や黄色の果物が山のように積まれ、あまい香りが風に乗って広がっている。
「いい匂いだな。今日はリンゴを買って帰ろうか」
「ムキュッ!」
僕がそう言うと、ミオはポシェットを揺らしてうんうん頷くように跳ねた。
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果物屋のおじさんがにこやかに声をかける。
「元気な相棒だね。ほら、ちょっとおまけだ」
差し出された小さな果実を受け取ると、ミオは「ぷにゅ!」と鳴いてポシェットに大事そうにしまった。
――と思ったら、きょろきょろ周りを見回し、近くでじっとこちらを見ている子どもに気づいたらしい。
次の瞬間。
「ミー!」
短い手でポシェットを開け、中からおまけの果実を取り出して、その子の前にぽとりと置いた。
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「えっ……いいの?」
子どもが目を丸くする。
「ムキュッ!」
誇らしげに鳴くミオに、僕も思わず笑った。
「はは……どうやら分けてあげたいみたいだな」
子どもはおそるおそる果実を受け取り、ぱっと顔を明るくする。
「ありがとう!」
その声に、ミオは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。
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果物屋のおじさんも目を細めて言う。
「優しい子だねぇ。スライムがこんなことをするなんて、初めて見たよ」
「僕もです。でも……嬉しいです」
赤いポシェットを抱えたまま行進するミオの姿を見て、僕は胸がいっぱいになった。
――この子はただ可愛いだけじゃない。ちゃんと、心を持っているんだ。
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