第14話 冒険者ギルドでの登録

 町の中央広場を抜けた先に、その建物はあった。

 重厚な扉に、交差する剣と盾の紋章。

 ――冒険者ギルド。


「ここで正式に登録すれば、仕事を請けられるんだな」

 僕が呟くと、胸元のミオが「ムキュッ!」と元気に鳴いた。


 扉を押して入ると、中は木の机と掲示板、受付カウンターが並び、武装した冒険者たちでにぎわっている。

 視線が一斉にこちらを向き、僕と――胸から顔を出したミオに注がれた。


「……スライム?」

「いや、連れてきてるのか?」

「相棒? まさか」


 嘲るような笑いが広がる。

 スライムは弱く、冒険者が連れて歩くには不釣り合い。

 それが常識だった。


 けれど、ミオは怯まず「みー!」と小さく鳴き、短い手を掲げて胸を張る。

 その姿に、僕は思わず「ふふっ」と笑った。



---


「登録希望ですね?」

 受付嬢が困ったように微笑みながら書類を出してくれる。

「お名前と、冒険者としてのパートナーがいれば記入を……」


「佐藤遼。パートナーは――」

「ムキュッ!」


 僕の言葉にかぶせるように、ミオが跳ねた。

 小さな体をぷるんと揺らして「さと、……くん!」とたどたどしく呼ぶ。


 ざわっ、と場が揺れた。

 笑っていた冒険者たちが、意外そうにこちらを見つめている。

 ただのスライムが、主人の名を呼んだ――それだけで空気が変わった。



---


「……大切な相棒です」

 僕ははっきり告げて、書類に“ミオ”と記入した。

 受付嬢は少し驚いた顔をした後、優しく微笑んだ。

「はい、確かに。佐藤遼さんとミオさん、登録完了です」


「ぷにゅ!」

 ミオは嬉しそうに跳ねて、短い手で僕の指をちょんちょん突く。

 その仕草に、また笑みがこぼれた。



---


 こうして僕とミオは、正式に冒険者として一歩を踏み出した。

 まだ小さな一歩かもしれない。

 でも、僕にとってはかけがえのない、大切な一歩だった。


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