第12話 はじめての町

 村を出て、二日ほど歩いた。

 森を抜けると、ようやく石の城壁が見えてくる。

 旅人や商人が行き交う、人の多い町だ。


「やっと着いたな……」

 僕が呟くと、胸元のミオが「ムキュッ!」と元気に鳴いた。


 けれど、門の前に並ぶ人の列を見た途端、ミオは体を小さくして震えはじめた。

「うゅ……」

 不安そうに、僕の服の中へ潜り込もうとする。


「大丈夫だよ」

 僕はそっと撫でる。

「僕がついてる。怖くない」


 すると、ミオはおずおず顔を出して「ぷにゅ」と鳴いた。

 その音は――まるで「ぎゅってして」の合図みたいで、思わず笑みがこぼれる。


「……ぷにゅ、か。甘えんぼだな」

「ムキュッ!」(得意げに跳ねる)


 列を進み、町の中に入ると、広場では楽器を奏でる人や屋台の呼び声が響いていた。

 ミオは目をまんまるにして「みー!」と鳴き、短い手をぱたぱた振る。


「お、テンション上がってきたな」

 僕もつられて笑う。


 ――こうして気づく。

 ミオの鳴き声は、日ごとに少しずつ増えている。

 不安なときは「うゅ」、甘えるときは「ぷにゅ」、嬉しいときは「みー!」。


「ほんと、どんどんおしゃべりになっていくな」

「ミ!」(胸を張るみたいにぷるんと膨らむ)

「ふふっ……かわいいやつ」


 人混みの町でも、ミオがいれば不思議と心細くなかった。

 ――僕とミオの新しい生活が、ここから始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る