鉄拳制裁!大好きな彼が落ち込んだ幼馴染と……――ふざけんなぁーーーーー!

とと

第1話 大好きな彼氏、世界一幸せ

 あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。

 私がれーくんに「好き」って言ったのは、別に特別なタイミングでもなんでもなかった。


 部活の練習帰り。

 夕陽が落ちて影が並んで伸びていた。


「れーくん、私ね……ずっと好きだったんだ」


 軽い調子で言ったつもりなのに、心臓はドキドキして声はかすかに震えていた。

 れーくんは驚いた顔をした。

 少し間を置いて、真っ赤になりながら「俺も」って。


(きゃー!!エモすぎ!!)


 それが恋人としての始まりだった。


 毎日が本当に楽しい。

 練習のたびに隣にれーくんがいる。

 れーくんがテニスコートで真剣な顔をしているのも、ノートに何かを書き込んでいるのも、ぜんぶ好きだ。


「れーくん、おつかれ!」


 練習が終わると、私はすぐに駆け寄ってタオルを差し出す。

 汗びっしょりのれーくんは、ちょっと照れたみたいに笑って「ありがとう」って言った。


(……かわいい)


「ほんと、顔までびっしょりだよ。じっとして」


「……なんか恥ずかしいな」


「いいでしょ、彼女なんだから」


 タオルでごしごし拭いてあげる。


 周りから、


「うわー」とか

「始まったぁ~」とか

「イチャしてる!」とか声が飛んでる。


 でも気にならない。

 逆に嬉しい。

 むしろもっと讃えよ!ってなもんです。


「菜月だと……なんか落ち着く」


「何それ。ふふ、かわいい」


 れーくんがそう言った瞬間、胸の奥がくすぐったくて顔が熱くなった。


 練習のあと、ベンチに座るとれーくんはいつものようにノートを開く。

 汗で少し濡れた手でペンを握って、びっしりと文字を書き込んでいく。


「また書いてるの?」


「うん。今日のサーブ、少し打点が低かったから」


「そんなの誰も気にしてないよ」


「かもね。ただ気になるんだ」


 ページを覗き込むと、並んでいる字がびっくりするほど整っている。

 まっすぐで、読みやすくて、でも硬すぎない。


「れーくん、字きれいすぎ。なんか……見てるだけで落ち着く」


「え、そうか?」


「うん。れーくんらしいよ。真面目で……ちゃんとしてて」


 れーくんは耳まで真っ赤になって、ノートを閉じた。


「……そう言われると書きにくい」


「いいじゃん。私、ずっと見てたいくらい」


「菜月はほんと変なやつだな」


「好きだからだよ」


 そう言うと、れーくんは黙って下を向いたまま笑った。

 私はれーくんの笑顔を見ているだけで、胸がいっぱいになった。


 私はバッグから小袋を取り出した。


「じゃーん!れーくんの分も買ってきた!」


 中から出したのは、新しいグリップテープ。

 同じ色が二つ。


「え、俺のまで?」


「そう。おそろにしたかったんだ。でもれーくんはドライタイプがいいでしょ?」


「ああ。手汗滑るんだよ」


「でしょ!じゃーん。これでか・い・け・つ!」


「……菜月らしいな」


 照れくさそうに笑いながら、れーくんはテープを受け取った。

 二人でベンチに腰かけて、ラケットを膝に乗せる。

 ペリペリと古いグリップをはがす音が響き、指先には少しベタつきが残る。


「あー、べとつくな」


「ほんと、でもせっかく馴染んだのにもったいないよね」


 新しいテープをくるくるっと丁寧に巻きつけていく。

 少しずつ同じ色にそろっていくラケットを見ているだけで、胸がふわっと熱くなる。

 二人の物語がまた始まったようで嬉しかった。


「一緒に馴染ませていこうね」


「うん、大事にするよ」


 ラケットを握った瞬間、手の感触までお揃いになった気がして、思わず口元がゆるんだ。

 止めようとしても、にやけ顔を隠せなかった。 


 練習後は一緒に帰る。

 校門を出ると、自然に手をつなぐ。

 私から握ることもあるし、れーくんからそっと伸ばしてくれることもある。


「れーくん、今日サーブめっちゃ良かったよね」


「うーん、まだ安定してないけど、手ごたえあったよ」


「また出た、反省モード。いいの。私には最高だったんだから」


「……菜月にそう言われると、悪くない気がする」


 そんな言葉ひとつで、心臓がきゅっと跳ねる。

 夕方の風は少しひんやりしているのに、れーくんの手はあったかい。


 家の近くまで来ると、私はわざと歩くスピードを落とす。


「ねえ、もうちょっとだけ寄り道しよ」


「菜月、またか。門限大丈夫なのか?」


「五分だけでいいから。れーくんと一緒にいたいんだもん」


 少し困った顔をするけど、結局つきあってくれる。

 近くの公園に入り、ブランコの前で並んで座る。

 風のせいか少しブランコが揺れている。


 暗くなった空に小さな街灯の光。

 れーくんの横顔が照らされて、思わず見入ってしまう。


「れーくん、今日もありがとう」


「なんで?」


「一緒にいてくれるだけで、元気になるから」


「……俺も、菜月がいい」


 その一言が嬉しくて、私はついれーくんの肩に頭を寄せた。

 れーくんは少し驚いたみたいだったけど、逃げずにそのままいてくれた。


「れーくん、大好き」


「……俺も……好きだ」


 小さな声で返してくれる。それだけで十分だった。


 次の日。教室で友達と話していると、また言われる。


「菜月、また彼氏の話?ほんっと好きだよね」


「だって好きなんだもん!」


 私がそう言うと、友達は両手で顔を覆いながら「砂糖吐きそう」と笑った。


「こっちはまだ彼氏いないんだから、ほどほどにしなさいよ」


「ごめんごめん。でも聞いてよ、昨日なんかね……」


「もうやめて!幸せオーラが強すぎ!」


「そういえば次の大会、夕夏ちゃんも出るんでしょ? れーくんの幼馴染だっけ?」


「うん、そうそう。小さいころから一緒にテニスやってたらしいよ。夕夏ちゃんも応援してくれてんだ」


「おー幼馴染ルートもねぇなこりゃ」


「はぁ?冗談でもやめてよね!」


 笑って答えると、友達は「はいはいごちそーさま」とため息。


 放課後、また一緒に練習して、また一緒に帰る。

 毎日が似ているようで、一日一日が全部特別。


 コートで汗を流すれーくんも、真剣にノートを開くれーくんも、帰り道でちょっと不器用に笑うれーくんも、ぜんぶ大切に思える。


 ――私は世界一幸せ。


★ ★ ★


AI生成ラフ画像です

https://kakuyomu.jp/users/toto3haha3/news/16818792439794400860

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