第15話 仲直りしたいおもちちゃん

(おもちちゃん遅いなぁ……まだかな?)


大翔が校門前で待っていると誰かが走り去っていく。


(河野……?)


一瞬だったが、泣いていた気がする。


「おい!」


稲見が立ち止まり、振り返る。やはり見間違いではなく、涙を流していた。


「何があった」

「……ううん。目にゴミが入っちゃった」


そう言い残し、逃げるように走り去る。


「待て!」


大翔は後ろを追いかけた。



(追いかけないといけないのに……)


おもちは溢れる涙を手で拭う。


(私……もう稲見ちゃんと友達になれないのかな?)


泣き続けていると誰かがハンカチを差出した。


「大丈夫?」

「えっ……?」


目の前には自分よりぽっちゃりで可愛らしい女子生徒が立っていた。


「これ使って」

「……ありがとうございます」


ハンカチを受け取り、涙を拭く。


「ありがとうございます……えっと……」

「あっ名前わかんないよね。うちは雪宮穂乃花ゆきみやほのか。野球部のマネージャーだよ」

「善哉……おもちです……」

「おもちちゃん……可愛い名前だね」

「そう……ですかね……」


穂乃花は暗い表情をしているおもちを見て、手を引っ張る。


「向こうでお話しよっか。うちで相談にのるよ?」



おもちと穂乃花は野球部の練習が視界に入るベンチに移動すると、おもちは稲見とのことを話した。


「そっか……そんなことがあったんだね……」

「どうすればいいのでしょうか……」

「おもちちゃんは稲見ちゃんその子と仲直りしたいの?」

「もちろんです!稲見ちゃんは……私の……親友だから……」


おもちの落ち込んだ表情を見て、穂乃花は前を向いて話し始めた。


「うちも彼氏と仲が悪くなったことがあるんだ」

「えっ?」

「可愛いマネージャーが入ってきてさ。そのマネージャーは彼氏のことが好きみたいで……ずっとアピールしてたんだ。それに嫉妬して……

でも彼氏はうちのことが大好きってわかってたから、心配だったけど信じてた。その子とデートしてるところ見るまでは……」


あの事がショックだったのは今でも頭に残っている。


「それでうちから別れを告げてさ……学校休んで会うのを避けてた。それでも……信じてほしいってわざわざ家にまで来て伝えてくれて……

結局あの子の彼氏誘惑ハニートラップだったんだけど……解決しても会わせる顔がなかったうちのことを好きって言ってくれて……」

「……」

「稲見ちゃんもうちと同じだと思うんだ。信じたいけど信じることができない……それって自分も辛いからさ……」

「……私はどうすればいいですか?」

「信じさせる。それしか方法はない」


穂乃花は自分に向かって手を振っている男子生徒に気づくと、嬉しそうに手を振り返す。


「……彼氏さんですか?」

「うん。さっきあんな話したけど今はラブラブだから安心して」


立ち上がり、彼氏に向かって歩こうとすると、気になったことがあるのか、おもちの方を振り返る。


「最後に……おもちちゃんは稲見ちゃんと大翔男の子の恋は応援したいって思ってるの?」

「えっ……」


もちろん応援したい……親友だから……親友だ……から……

そう思うと稲見と大翔が会話しているところを思い出す。

その時……胸が苦しくなっていたことも……


「……」

「答えは聞かないけど仲直りする時はその気持ち……伝えた方がいいよ?」


じゃあねと言い残し、穂乃花は去って行った。



「はぁ……はぁ……」

「離してよ!」

「泣いてる奴見て無視するのは違うだろ!」

「泣いてないもん!」


稲見は腕をぶんぶん振って、大翔の手を離そうとする。


「私を心配するならデートしてよ!」


稲見は涙を流しながら叫ぶ。


「……デートしたら元気になるのか?」

「……えっ?」



とあるカフェで稲見はアイスコーヒーを飲みながら大翔の顔を見る。


「あの……」

「なんだ?」

「どうして……デートしてくれるの?」

「心配してるからに決まってるだろ」

「……!ありがとう……」

「で?何があった」


大翔の自分を見つめる表情にドキッとする。


「……ううん。もう大丈夫」

「大丈夫じゃないだろ」

「ただ八つ当たりしちゃっただけ……今は落ち着いたから」

「……」

「本当に大丈夫だから」

「わかった。信じるぞ」


二人が話していると、店員がケーキを持ってくる。


「お待たせしました。チーズケーキとフルーツタルトです」

「ありがとうございます」

「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」

「はい」


店員が伝票を置いていくと、厨房に戻った。


「食べるか」

「うん!」



カフェから出た稲見は満足そうな顔をしていた。


「美味しかった!ごちそうさま!」

「……本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だから!ありがとう!」


食べ終わっても心配してくれる大翔に胸がキュンとする。


「あのさ……お願いがあるんだけど……」

「なんだ?」

「大翔君の家に行きたい」


ビクッと反応した大翔を見て稲見はクスッと笑う。


「それは……」

「もしかしておもちちゃんがいるから?」

「なんでそれを……」

「えへへ……たまたま見ちゃった」


稲見は一旦深呼吸すると真剣な顔になる。


「話したいことがあるんだ。大翔君と……おもちちゃんに」

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