第12話 体調不良になったおもちちゃん
アラームが鳴り始めると、ゆっくりと上がった手がアラームを止めた。
「ふわぁ~もう朝か……」
大翔は眠そうに起き上がると、制服に着替えて洗面所に向かう。
そして歯磨きをする。
「お兄ちゃんおはよ~」
「おはよう杏」
杏がウトウトしながらパジャマ姿で自分の歯ブラシを取り出す。
「お姉ちゃんは?」
「まだ寝てるんじゃないか?」
「ふ~ん……いつもこの時間に洗面所にいるのに……」
大翔がうがいをすると口を拭いて、洗面所を出ようとする。
「杏。歯磨き終わったらおもちちゃんの部屋に行ってくれるか?寝てるなら起こしに行ってくれ」
「は~い……」
大翔が
「おはようございますお坊ちゃま」
「おはよう」
「杏様とおもち様は?」
「杏は歯磨き中、おもちちゃんはまだ見てないから杏に部屋に行くように伝えたよ」
「かしこまりました」
大翔が席に座ると、机には鮭、スクランブルエッグ、サラダ、みそ汁が並べられていた。
「いただきます」
お箸を手に取り、食べ始めた。
歯磨きが終わった杏は制服に着替えておもちの部屋のドアをノックする。
「お姉~ちゃん起きてる?」
「杏ちゃん……?」
「朝ご飯の時間だよ?」
「ごめん……ちょっとしんどくて……」
「大丈夫?入っていい?」
「うん……」
部屋に入るとベッドで顔が赤く火照っているおもちが寝転がっていた。
おでこに手を当てるとすぐに熱くなるのを感じた。
「お姉ちゃん……熱出てる。今日は学校休んだ方がいいよ」
「ダメ……だよ……学校には行かなきゃ……」
「でもこんな状態で……」
「行かないといけないの……」
おもちがしんどそうに起き上がる。
「良い成績も取って……無遅刻無欠席じゃないと……学費が免除されないから……」
「お姉ちゃん……」
おもちが母子家庭なのは本人から聞いている。母親を気遣っているのだろう。
「早く……着替えないと……」
おもちが立ち上がろうとするが、突然の目眩でベッドに倒れる。
「お姉ちゃん!」
「はぁ……はぁ……」
「秋山さん呼んでくる!」
杏は大急ぎで博俊の方に向かった。
「……この状態で寝ると体温は下がるでしょう」
博俊が熱さまシートをおもちのおでこに貼る。
「ありがとうございます……」
「学校は欠席してくださいね」
「でも……」
「体温が38度。勉強できる体温ではございません。安静にしていてください。連絡はお坊ちゃまにお任せしますので」
「……」
「学費についてはご心配なく。光星学園の文理学科は成績が優秀であれば全額免除されるので遅刻・欠席は問われませんよ。条件は厳しくなってしまいますが」
「そう……なんですか……」
それならよかった……と安堵する。
「何かございましたらこちらの
「わかりました……迷惑かけてすみません……」
「いえいえ。おもち様は一時的とはいえ我が家の一員ですから。ではお大事に」
博俊が部屋を出ると、おもちは目をつぶる。
(今まで風邪なんてひかなかったのに……体調管理できてなかったかな……)
一方、大翔が学校で予習しているといつものように稲見が話しかけてきた。
「大翔君!おはよう!」
「おう」
「大翔君も挨拶してよ」
「今予習してるんだよ。見てわからないか?」
「相変わらず真面目だね~。ところで今日おもちちゃん教室にいなかったんだけど何か知らない?」
「休み」
「えっ⁉そうなの⁉」
「体調悪いんだってさ」
「なんで知ってるの?」
その問いかけに大翔がピクッと反応する。
「……メールきたから」
「えぇ~?私にはきてないのに~」
ズルいズルい!と言う稲見を無視して予習を続ける。
(おもちちゃん大丈夫かな?)
心配しているとチャイムが鳴り、担任が入って来ると勉強道具を片づけた。
学校が終わり、大翔が帰宅すると博俊が出迎える。
「おかえりなさいませ。お坊ちゃま」
「ただいま。おもちちゃんは?」
「お昼にお粥を食べ終わって寝ていると思います」
「そうか」
「熱が下がっているといいですが……」
「ありがとう。看病してくれて」
「いえいえ。お坊ちゃまの大切なご友人ですから」
博俊が頭を下げると、夕食の準備をするためにキッチンへと向かった。
(宿題渡さないとな……)
大翔はおもちのクラス担任から宿題を受け取っていた。
(部屋行くか……起きてなかったら横に置けばいいし……)
そう思い、おもちの部屋に向かった。
コンコンとドアをノックしてから話しかける。
「おもちちゃん。起きてる?」
「大翔……君……?」
「宿題を渡しに来たんだけど……入っていい?」
「……はい」
ドアを開けて部屋に入ると、おもちがベッドから起き上がっていた。
「ありがとうございます……大翔君……」
「体調は?」
「大分良くなりました……秋山さんのおかげで……」
「それはよかった。今日はゆっくり休んで」
「はい……」
「あと河野も心配してたからさ。後でメールしてあげて」
「わかりました……」
大翔が部屋を出ようとすると、おもちが手を掴んできた。
「おもちちゃん?」
「あの……その……」
「……?」
よく見るとおもちの顔が真っ赤になっている。まだ熱があるのだろうか。
「顔赤いけどまだ熱あるの?」
「えっ⁉もう元気なので……」
「元気だったらそんなに赤くならないよ。ほら早く寝て」
おもちを寝かせると、おでこに手を当てる。
「ふぇっ⁉」
「そんなに熱くないなぁ……赤いだけか」
熱さまシートをおでこに貼り直すと、立ち上がる。
「じゃあゆっくり休んでね」
「ま……待ってください……!」
おもちの静止に大翔が振り返る。
「どうかしたの?」
「もう少し……私と一緒に居てほしいです……」
言うのが恥ずかしくて段々声が小さくなってしまったが、大翔は聞き取れたようで椅子を持ってきておもちの前に座る。
「いいよ」
(まぁ寝てばかりじゃつまらないよな)
そう思いしばらくの間、二人で会話をした。
しばらく話していると、おもちの声が聞こえなくなっていた。
スースーと寝息が聞こえる。
(寝ちゃったか……)
おもちに布団をかけると、部屋を出た。
廊下を歩いていると、博俊がこちら側に向かって歩いていた。
「お坊ちゃま。夕食の準備が整いました」
「わかった。おもちちゃん寝ちゃったからラップしてくれる?」
「かしこまりました」
(なんだろうな……このモヤモヤは……)
おもちと仲良くなってから抱くようになったこの違和感。
(執事や杏……河野と話すときは感じないのに……どうしておもちちゃんと話すときだけ……)
おもちと二人きりでいるとき、気分が高揚してしまうのはなぜだろうか?
おもちと離れたとき、落ち込んでしまう自分がいるのはなぜだろうか?
(本当におもちちゃんって不思議だな……)
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