第2話 アルバイトをしているおもちちゃん
本を借りて、下校する大翔はおもちとの会話を思い出す。
―――「……あの。あなたの名前は?」
「私の……名前ですか?」
「はい」
「善哉おもちって言います……」
―――「善哉……おもち……」
おもちの名前と姿を忘れられない。一体なぜだろうか?
(明日行って確かめるしかないか)
大翔は明日も図書室に行くことを決めた。
翌日の放課後。稲見を振り切り、大翔は図書室を訪れる。
「こんにちは」
挨拶すると、カウンターにいたのはおもちではなく、別の図書委員だった。
「こんにちは」
「あの……善哉おもちっていう人はいますか?」
「おもちちゃんなら今日は担当じゃありませんよ?」
「そうですか……いつ担当か分かりますか?」
「確か毎週月曜日だったような気がしますけど……」
「わかりました。ありがとうございます」
図書室を出て、ドアを閉めると靴を履く。
(仕方ない……月曜日に行くか……)
大翔は学校を出て、駅に向かう。
(そうだ……英語の勉強するために本を買わないと)
来た道を戻り、駅前にある本屋を訪れる。
(さて……どこにあるかな?)
探していると店員が声をかけてきた。
「あの……」
「……!」
大翔がビクッと反応して振り返ると、おもちが立っていた。
「おもちさん?」
「あっ……昨日の……」
「ここでバイトしてるんですか?」
「はい……家計が楽になればと思って……」
「そうなんだ」
「それで……何かお探しですか?」
「えっと……英語の勉強本を……」
「でしたらこちらにありますよ」
おもちについていくと、勉強の本がいっぱいある本棚があった。
「英語はこれですね。勉強だとこの本がおすすめで……英会話ならこの本が……」
大翔はおもちをじっと見つめている。
「あの……何か?」
「いや……詳しいんだなと思って……」
「私……本が好きなので……帯とか内容で大体これがいいって分かるんです」
「凄いな……内容とか見てもチンプンカンプンだから助かります」
大翔はおすすめされた英会話の本を取る。
「英語が話せるようになりたいんですか?」
「はい。海外の人と話せるようになることも重要かなと思って」
「尊敬します」
「ところでおもちさんって何年生ですか?」
「1年生で文理学科です」
「同級生だったんだ……」
それを知った大翔は嬉しそうな顔をする。
「あの……ため口で話してもいいですか?」
「いいですよ」
「その……」
おもちはきょとんとした顔で大翔を見つめる。
「また学校で会えないかな?」
「えっ……?」
「俺……おもちちゃんに凄く興味があるんだ」
「ええっ⁉」
おもちの顔が赤くなる。
「それって……私のこと……好きってことですか?」
「……どうだろう。これって好きなのかな?」
「違うんですか?」
「多分……俺はおもちちゃんのことをもっと知りたいんだと思う……だから友達になってくれないかな?」
「友達……」
「ダメ……かな?」
「いえ!嬉しいです!」
おもちが嬉しそうな顔をする。
「私と……友達になってくれるんですか?」
「うん」
「よ、よろしくお願いします……」
おもちが頭を下げる。
「ち、ちょっと……友達になるくらいで頭下げなくても……」
「私……母子家庭であることが理由で、友達ができなかったので……だから凄く嬉しくて……」
おもちが涙を流す。
「ご、ごめんなさい……」
「ううん。俺はおもちちゃんが母子家庭でも嫌ったりしないから」
「ありがとうございます……」
おもちはハンカチで涙を拭く。
「あの……お名前お聞きしても……」
「そういえば言ってなかったね。俺は齋藤大翔。よろしくね」
「大翔君……よろしくお願いします……」
「敬語じゃなくてため口でいいよ」
「そう……ですか?」
おもちは難しそうな顔をする。
「ごめんなさい……大翔君に慣れるまでは敬語で話してもいいですか?」
「わかった」
大翔は本を買うと、店を出る。
「じゃあまた学校で」
「は、はい……」
「休み時間とか会ったら話そうよ」
「ぜひ……」
大翔が手を振ると、おもちも手を振り返す。
(私に興味があるって……珍しい人だなぁ……)
不思議なように感じるが、大翔と学校で会うのが楽しみになっていた。
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