第2話 前夜

「ぐ、ぐああ」


 体が重い……

 昨日は恵莉香の話を聞き続け、寝不足だ。


 顔でも洗いたいところだが、残念ながらここに洗面所などはない。

 風呂などもついておらず、共有の大きな銭湯と、化粧室が施設にあるだけだ。

 おそらく、潔癖症の人は今頃発狂して暴れまわっていることだろう。

 一般人の俺も、これは多少抵抗感があるが、仕方がないので受け入れた。


 カードに指を触れ、現在時刻を確認する。

 恵莉香との待ち合わせの時間に、余裕があることを確認し、俺は気持ちを整えにシャワーを浴びに行った。


 このカード、スマホみたいで使いやすいんだが、まだ扱いに慣れないな。

 能力とかも書かれてるから、肌身離さず持ってなきゃいけないのに、紐などがないから、ポケットに入れておくしかない。

 だから銭湯とかでも、常に片手が塞がってとても面倒だ。

 自室に置いておきたいんだが、鍵の役割もあるため持っておかなければならない。

 きっと作った奴は馬鹿なんだろう。

 そんなことを考えながら、俺は銭湯を出て、恵莉香の部屋まで歩き出した。


 「お?おいおいおいおい。

 湊じゃん!

 おっひさ~そっちもここ来てたんだね~」


 そう言って、後ろから肩を叩いて話しかけて来たのは、白い長髪と赤い双眸そうぼうが特徴な女性だった。

 アルビノを思わせるその神秘的な容姿とは裏腹に、左耳にはハートの耳飾り、右の胸から首にかけてハートの色付きタトゥーがある。

 髪にも赤いメッシュが入っている。 


 身長は170cmほどか?

 というか……直感でわかる。

 この人、明らかに陽でパーティーピーポーなタイプだ!

 というか今のところ過去の知り合いが全員女性なんだが、過去の俺はプレイボーイだったのか?


「そんなじろじろ見てどしたん?

 まるで初対面みたいな反応だね」

「い、いや、特徴的な人だなと……

 俺、今は記憶ないから、本当に初対面なんだよ」

「……マ?

 へぇ~記憶喪失とか本当にいるんだ~初めて見たわ~」


 ノリ軽くね?

 てかみんな理解早くね?


「んじゃ、改めて自己紹介だね~。

 私は龍崎りゅうざきなぎさ。よろしくね」


 そう言って握手をしてきた。


 おいやめろ!少なくても今の俺は女性経験ないんだ!

 そういう行動取られると勘違いするだろうが!


「あ、ああ、よろしく。

 俺は―—ってもう知ってるのか。

 ところで、俺たちって前はどんな関係だったんだ?」

「——そっか、それを言わないとだよね。

 私、あなたの彼女なの」


 少し赤らめた顔で渚はそう言った。


「……は?

 え?

 お、お前が?

 待って、え?

 ガチ?」

「ま、嘘なんだけど」


 いたずらな笑顔に若干うざさを感じる。


「おいふざけんな!

 本当に焦っただろうが!」

「え~私じゃ不満なの~?」


 そう言って肩を掴まれ顔を近づけられる。


「え?

 いや、そんな訳じゃない……けど……」


 そう言って俺が顔を少し背けると、向こうから含み笑いの声が聞こえ、その後、大きな笑い声に変わった。

 渚を見てみると腹を抱えて、笑っている。


「ちょ、ちょっと待ってwww

 つぼった、はぁ、はぁ、お腹痛い」


 殴りたい、この笑顔。


「いや~ごめんごめん。

 私とあんたはただの友達だよ」

「こいつ……」

「ごめんて~謝ったじゃ~ん。

 いやね?

 あんたが悪いんだよ?

 前とのギャップが凄過ぎて、ヤバ、また笑いそうw」

「こいつ……まるで謝る気がない」

「あ、私そろそろ行くところあるから。

 またね、楽しかったよ」

「急だな。

 もう会わないことを願うよ」


 次に目を開けたときには、彼女の姿は消えてなくなっていた。


 消えた?

 これがあいつの能力か?

 俺のと比べて超当たりじゃん。

 しかも、俺はまだ能力が使えたことがないっていうのに、あいつはもう使いこなしてるのか。

 羨ましいな。

 さて、話し込んでたら少し時間が潰れたな。

 少し急がなきゃ。


 しばらく歩き、恵莉香のいる13番の扉の前に着いた。

 インターホンがないため、ドアを叩いて声を掛ける。

 10秒ほど経ったところで、ドアが開く。


「おはよ~湊」


 寝起きなのだろう、寝癖が二箇所ほど跳ねている。


「お前、さてはついさっきまで寝てただろ」

「いや、仕方なくない?

 今日の2時に寝て8時に集合なんだから」

「俺は7時から起きてお前の場所まで来たってのに」

「それは湊が体力化け物級なだけだよ。

 じゃ、行こうか」


 寝ぼけ眼をこすりながら、恵莉香は歩き出した。


   ♦


「まずは武器屋とかいう、物騒な場所に行ってみよう」

「了解。

 ついでに理由を聞いても?」

「まずは武器でしょ。

 売り切れてたら替えが利かないし」


 そうだ。

 非力な私にとって、武器は手にしておきたい。

 湊には言っていないが、おそらく能力者と戦う日がくる。

 それが次なのか、それともまだ先なのか、それはわからないが、準備しておく越したことはないはずだ。

 《能力がわからない私にとって、火力は一番重要なのだから。》


 武器屋に着くと、様々な種類の武器を売っていた。

 鞭やら剣やら銃やらウルミやら、いやウルミなんて誰が使えるんだよ!


「どれを買えばいいんだ?

 というか武器の知識とかあるのか?」

「人間ラプラスと言われた私に、知識で勝てる者などいない」


 そう言ってドヤ顔をして武器を見る。


「お、おうそうか」


 基本、一人に渡されているポイントは5000ポイント。

 相場から見て、1ポイント1円換算ってところか。

 私は能力が不明という事で、運営からさらに5000ポイント渡されていた。

 謝礼という事だろう。


 二人合わせて15000ポイント……

 食事は私が抜けばいいから、予算は14000ポイントほどだろうか。

 博打に近いが、おそらく次の試練の後にポイントが貰えるだろう。

 一人5000ポイントでは、武器などを買えば簡単に底を尽きるから。

 それに、5000ポイント以上の物が買えるため、今後ポイントが貰える機会は必ず来ると思っていいはずだ。

 正直、彼なら武器なんてなくても能力者に勝てそうな気はするが、記憶のない彼に、以前程の力や技量が備わっているとは考えない方がいいか。

 

「湊は銃よりも剣とかの方が強そうかな」

「剣か、どんなのがあるかな」


 彼は剣やナイフなどが置かれている方に近寄った。


「ん~どれが良いんだろう」

 そう言って選んでいる姿はまるで、子供がお菓子を選んでいるようだった。


 あ~湊可愛い。

 可愛すぎて逆にいじめたくなる。

 今記憶喪失だし、私に都合の良い事を教え続ければ、湊にあんなことやこんなことができるのでは!?

 やはり天才か私……

 でもまぁ、さすがにそれは……弱みに付け込んでってのは、いい気分じゃないしな。


「——おーい、聞いてるか?」

「へ!?あ、うん。

 聞いてる聞いてる。

 このままいけば、湊が私にいじめられるって話だよね」

「一ミリもそんな話してないんだが!?

 やっぱり、聞いてなかったのか。

 もう買ったぞ」

「え?何が?」

「剣」


 そう言う彼の手には、真っ黒で全長70㎝ほどの物があった。


「いや~かっこいいだろ?

 ビビッと来たね、これこそが俺の求めてた刀だ!ってね」

「それ刀じゃなくてマチェットていうナイフだけどね」

「え?」


 湊はマチェットに視線を移し、愕然とした表情を浮かべる。


「ま、まぁ、ほら、かっこいいよ……凄く。

 ところで、ポイントはいくらだったの?」

「ちょうど5000ポイント」

「ならサタデーナイトスペシャルとか買えるかな」

「サタデーナイトスペシャル?

 日曜日の夜が素晴らしい……?」

「超安い拳銃のことだよ。

 安ければ60ドルのもあるとか。

 名前の由来は、土曜日の夜間に、そういう安い銃で事件が多発したから」

「何それ凄く物騒」

「これなら10000ポイントでも買えるはず……

 ただ、粗悪過ぎて一発撃つと壊れるとか、そんな噂もあるけど……」


 店内を見ていると、気が付いた事がある。

 私の知らないメーカーの銃や、知らない形状の銃がある。

 知っているメーカーでも、売っている物が違ったり。

 何より不思議なのは、いくつもの銃が私の知っている物より高性能そうな事だ。

 革新的なアイディアに、目を奪われる。


 服を買う女性のように、私は銃を見漁った、すると一番安い物で7000ポイントの拳銃が売っていた。

 

 一つの弾丸が150ポイント。

 念のため、ポイントは余らせておきたいな。

 そう思い、4発だけ弾丸を買った。

 残りは約2500ポイントか。


   ♠


 しばらくの間、そんなことをして準備をしていた。

 すると、カードから軽快な電子音が聞こえた。

 見てみると、最初の試練の内容が書かれていた。


{最初の試練について。


 最初の試練は『サバイバル』。

 48時間の間、支給されるバッグに詰められるだけの物を入れて生き延びることが今回の目標となります。

 また、試練開始から見られるようになる地図上には、試練終了後にポイントへ変換できる宝石が表示されるので、集められる限り集めることを推奨します。


 試練開始は翌日の午前7時から。

 今日の12時までには自室で待機してください}


「いよいよ始まりそうだな」


 緊張した声で俺はそう言った。


「はぁ―—能力不明の能力者と、能力の使えない能力者。

 最悪で最弱なパーティーの初陣といこうか」


 苦笑して、彼女はそう言った。

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