魔女と騎士の禁断の主従恋愛~騎士の最後の任務は最愛の魔女を護ること

はらぺこ・けいそ

第1話 約束と再会

 人は彼女のことを魔女と呼ぶ。

 その存在を忌み嫌い、恐れ、遠ざけた。


 だが、僕にとっては違った。彼女は幼いころからずっと、僕の隣で笑ってくれた大切な幼馴染で、、僕の、、、初恋の女性だった。



 アルフレッド・グレイハート。

 王国騎士団に所属する僕は、今宵、新たな任務を命じられた。その内容はただひとつ――辺境に住むの護衛兼監視。


 国王が自ら発した命令だった。勅命ってやつだ。表向きは「協力者として保護せよ」とされている。協力者ってなんのだよ。だが、真実は違う。万が一にも魔女が人々を害する存在であると判断されれば、即座に魔女を討て。そんな冷酷な支持が、命令書の最後に記されていた。



 胸の奥で、鼓動が痛む。

 魔女が誰なのか、僕は知っている。

 こんな命令、受け取りたくなかった。

 けれど、避けられなかった。そんな事実と、悲痛な運命が僕に突きつけられようとしていた。


 ◆ ◆ ◆


 十年前。


 まだ僕が少年だったころ、辺境の村にセリーヌという少女がいた。透き通るような銀髪に、夜空を閉じ込めたかのような蒼の瞳。

 彼女はよく笑う子で、花畑を駆け回り、木の実を集め、僕に分けてくれた。


「ねぇ、アル……大きくなっても私のそばで私を守ってね」


 ある日の夕暮れ、彼女はふと、そんなことを言った。僕は子供らしく胸を張って「もちろん!」と答えた。


 その笑顔が嬉しくて、どんなことがあっても僕は彼女を守るんだと、本気で思っていた。


 だがある日を境に、彼女は消えた。村人たちは口々に「呪われた子」「魔女だ」と囁き、彼女を追いやった。もちろん僕は必死に探したが、その時にはもういなくなっていた。


 ――あの約束を果たせぬまま、十年が過ぎていった。


 ◆ ◆ ◆


 任務を受けた翌朝、僕は馬に乗り、王都を発った。辺境の森に築かれた古い塔。そこが魔女の住まいになっていると聞かされている。街道を抜け、森に足を踏み入れると、空気が変わった。


 木々は鬱蒼と茂り、鳥の声すら遠ざかり、まるで別世界化のような静寂が広がっていた。


 塔を目にしたとき、何故だか胸が締め付けられた。

 石造りの外壁は蔦に覆われ、長く人が寄り付かなかったことを物語っていた。けれど、その場所には彼女がいた。


 僕の初恋の女性――セリーヌが。


 乗っていた馬から降り、党の前に立つ彼女の前まで歩いた。


「セリーヌ、、、」


 名を呼ぶと、彼女は一瞬、目を開き、それから微笑んだ。昔と変わらない笑顔。けれど、その微笑みの奥には深い影が宿っているように見えた。


「久しぶりねアルフレッド。立派な騎士に、なったのね」


 十年ぶりの声が、胸を震わせた。

 けれど僕は任務を思い出し、冷たい言葉を口にした。


「……僕は勅命によって、君を守ることになった。だが、同時に監視の役目も…負っている」


 セリーヌの微笑みが微かに揺らいだ、胸が締め付けられる。

 それでも彼女は、静かに言った。


「そう……やっぱり、そうなのね。私が何をするかわからないから、監視に来た。そうよね……」


 そのあと、何を言っていたのかわからなかった。ただ、その声には諦めが滲んでいるように聞こえた。


 胸が痛い。

 幼い日の記憶がよみがえる。

 花畑で交わした約束を、笑いあった日々、あの夕暮れの誓い。


 ――守ると誓ったのに。

 今の僕は、彼女を討つ役目すら負わされている。



 セリーヌは後ろを向いて搭の奥へと入っていった。僕はその背を追いながら、心の中で叫んだ。


 違う、と。


 僕は、君を討つためにここへ来たんじゃない。僕の最後の任務は――あの日の約束どおり、君を―セリーヌを護ることだ。


 ◆ ◆ ◆


 夜、党に案内された僕は塔の窓から空を見ていた。無数の星々で覆われていた。

 僕の隣へ、パジャマに着替えたセリーヌがやってきた。そして、セリーヌが静かに告げる。


「アル。私ね、この力が怖いの。人を癒すこともできるけど、壊すこともできる。みんなが私を恐れるのも、当然だと思うの」


 その横顔に、十年前の少女だった彼女の面影が重なる。


 そして僕は言った。


「僕は怖くないよ。君が、どんな力を持っていようと、セリーヌはセリーヌだ」


 彼女は驚いたような表情で僕を見つめて、小さく笑った。

 けれど、その笑みは直ぐに掻き消える。


「でもね、アル。あなたは騎士でしょ?もし王が『魔女を討て』と命じたら……あなたは、どうするの?」


 その問いに、言葉を失った。国への忠誠か、幼馴染への想いか。その問いに答えを出せずに下を向いてしまった。


 たが一つだけ確かなことがある。


 それは、


 ――僕は、この人を失いたくない。


 その想いだけが、胸の奥で秘かに燃えていた。

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