第5話 自分ノ為の仇討チ

飛行機墜後の施設敷地内にて。


「天子さんどうしましょ。赤松所長が。所長が。」


「黙っとれ2号。うちも治療魔術は会得しておらんのじゃ。何か策はないかのう。」


ホントに敵ではなさそうだなと2号を見て思いながら天子は考える。

模倣するしかないけど、誰かが回復の術を使うような場面を作る必要がある。

多分、私なら戦って勝って戻ってくることは余裕。問題は戦ってくれる奴がいるかどうかってところ。


と思いあたりに気をやると。


「なんじゃこの数、なんでこんなに人がいるんじゃ。」


「ああ、監視してたり、様子を見に来てた人達じゃないっすかね。

町にいっぱいいたっすよ。まあ、主催の関連施設だからやっぱ気になるんすよ。」


「なるほどな、じゃあ十分じゃ。誰かひとりぐらいは回復が使えるじゃろう。

全員に攻撃じゃな。」


「2号、見張りを頼むぞ。」


「信頼してくれるんすか。」


天子は使用できると判断した。だが、判断材料は直感だけであったので、どう返すか迷った挙句。


「ああ、わしエスパーだからな。」


「?」


「嘘じゃよ。」


洒落が不発に終わり恥ずかしかったのか、隠密に動くためか。どちらかわからないが彼女は風となり消えていた。


そして地面は揺れて、それを合図に戦いの火蓋が切って落とされた。


日本支部2体目の人形ドールとの接続者。

才原天子の初陣である。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「兄さん、兄さん‼‼」


カイは懸命に処置を続けている。


「もうダメや、書いてあったやろ。人形ドールがやられたら接続者も死ぬてな。」


「兄さんの心臓は一度止まったんだ。だから一度は死んだ。そっからの蘇生なら‼」


信じられなかった。兄さんの白虎が一撃で負けるなんてことを考えてもみなかった。


「手負いの逃走者や、漁夫るで」


といって刀の一撃で真っ二つであった。素体は一緒でここまでスペックの差が出るわけはないのでおそらくは相性の悪さからの敗北だなとルイは考えているが、実際はただの虎と最強の剣士との戦いだっただけである。


マナの量もイイブン、おそらく本物の白虎であれば小次郎のふっとばすための一撃で傷がつくことはなかっただろう。空想顕現の際、なんとなくホワイトタイガーといった彼がドアホなだけなのだが、そんなことをこの兄弟は知らないままがいい。


傷がふさがりだし、希望の光が見えたとき。地面が光り、魔法陣が出現した。

そこから放たれる攻撃は普段戦いなれているものであればマナで体を守り、簡単にいなすことが出来るだろう。でも死にたいの兄貴にそんな余裕はなく、傷口は開き、無理やり動かしていた心臓は止まってしまった。


カイは自分の防御を優先した自分におどろいていた。自分が傷を負うこと承知で守れば兄への攻撃を遮断することはできたのに何故と。

やっぱりお前も俺を見捨てるんやな。と声が聞こえた気がした。


「俺は兄さんの味方だよ。最後まで。嘘じゃないよ。」


急いで近づき、魔術による治療を試みる。もう蘇生できる有様ではなかったそれでもカイは術をかけた。


自分が死ぬのよりも兄さんがいなくなる方が嫌だよと、泣きながら術をかける。

今までだった。そうしてきたじゃないか。家を出ていくときも、組織から抜けたときも兄さんのことを思ってついて来たと。わめく。


でも彼の魂胆は兄の前での最後の行動でわかってしまった。

カイは兄に隠れていたかっただけなのである。

自分が傷つきたくないから楯になってくれる人が欲しかっただけなのだ。


ついていったのも自分がついていけば絶対に兄は守ってくれると確信があったから。

能力が低く、みんなに見切りをつけられて置いていかれる兄でも

利用価値はあると判断したから慕っていただけであった。


彼は彼のことしか考えておらず、そして自分はそんなひどい人間ではないと思い込もうとしているクズなのであった。


誰も見ていないのに術を使い続けるのは、これからも自分は誰かのために行動できる優しいいい奴であると自分をだますための浅ましい行為でしかなかったのだ。


だが、彼が浅ましいことで救われるものがいた。


「5,6人いたら一人ぐらいはいるもんじゃな。全員使えなかったらどうしようかとひやひやしたわい。」


その声の方に目をやるとそこには一人の女が立っていた。


身長は150㎝あるか怪しいほどの大きさで髪は赤髪。そこまで長くはない。顔立ちも特段良いわけではないが悪くもない。黒い服と黒いタイツが印象的な女性だった。


だが何かおかしい。まとっているオーラというか。気配がおかしい。

カイは目が良い。視力がという意味でなく、真贋を見抜くという意味での良さである。もしかしてとカイはその女に問いかける。


「お前人形ドールだろ。接続者が直接敵のところにいくものじゃない。しかも5,6人に攻撃を仕掛けられるのは空想顕現の人形ドールでなきゃありえない。」


「接続者じゃぞ。魔術を極めればそれぐらいできるわい。ありえないなどときめつけるでない。どうせできるか試したこともないじゃろ。」


やろうと思えばできるぞなんでも。

こいつは天才タイプの嫌な奴だとカイは確信した。


「しかし、まあ正解か。人形ドールはわし自身じゃからな。」


今何て言った。とカイは聞き返そうとしたが、彼女は言われなくても説明した。


「世界に轟く、わしは素体を体にして空想顕現したんじゃ。

顕現させたのは魔法使い。どうじゃ驚いただろ。」


自分を人形ドールにした?

魔法使いを顕現させた?

じゃあこいつは魔法が使えるとでもいうのか?


「疑問いっぱいって感じの顔をしよって。まあこれで怖さはわかったじゃろ。

命まではとらんとっとと失せるのじゃ。」


カイはほっとした。逃がしてくれる。正直今の話が本当なら相手にしたくない。

術の実力は間違いなく天才。そして空想顕現で魔法使いを被せているというのだ。


どんな魔法使いを顕現しているのかわからないが、

ゾル〇ラークとかアバダ・〇ダブラ、逆行銀河・創世〇年なんて空想の魔法を撃たれたら魔術では対抗できないかもしれない。


そして逃げようと一歩踏み出そうとしたとき、兄の死体が目に入った。


「そうか兄の仇か。」


それを認識しまっては彼のやることは一つとなる。勝率や、実力差などは関係はない。兄を慕っている。いい弟であるために仇をとるしかないのだ。


不幸にも、天子の顔で死の恐怖にあてられることはなかった。

カイは自分で自分を騙すために魔法使いを名乗るものに牙をむくのであった。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る