第4話 バイ、バイ、バイ


腕はなくなっていた。痛みがなく、ひげおじは気づくことが出来なかった。


「解体式・壱発。」


触れた人体を即座に解体する。アギトの術。戦いの際、速いわけでもないアギトが対象に触れることはほとんどできない。


しかし、ひげおじは近づいた。彼の体力が尽きるまで距離を保って撃ち続ければよかったのに。最高な戦術を続ければ腕を失うことはなかったのに。


即座に逃げるを選んだ少年。

非力でおとなしそうな見た目。

修羅場をくぐってきた凄みを感じることのない姿に確かに油断をしたのであった。


速くマナを集めたい。ハイエナのようにマナを狙う他のものが来る前に決着をつけたい。その思いから、隙になる可能性があった。ゼロ距離の急所撃ちをおこなった。こいつならやれるだろうと。


「僕をなめただろ。クソジジイが。」


「言葉遣いがよろしくないよ。」


片腕を失い、後ろに後退したひげおじはそう返した。


腕を失ってしまったがまだ腕は残っている。斬撃での攻撃を続ければと

残った左腕を振ろうとしたが、腕の関節が解体され腕だけが飛んでいった。


「解体式・遠隔。ダメじゃないか。3メートルは離れていないと。」


解体式・遠隔。


壱発とは違い速攻で解体できるわけでもなく、痛みを伴わない解体が出来るわけではないが、遠隔で解体することができる。解体できる範囲は狭く最大で10センチである。


手も足も出ない状態になったひげおじは、さらに距離をとる。


「勝ったつもりだろうがまだ終わっていないよ。」


そういってこちらに対してウィンクをしてきた。何か目に細工をしているのはわかっていたので体をマナで守っていたのだが、年の功か完全にはじくことが出来なかった。


「マナの練度が低いな。もう立っていられまい。」


がくんと膝をつくアギトどうやら相手を眠らせるもののようだ。眠りは体に害になる者ではないため、マナの抵抗もうまく機能しない。かかってしまったものを防ぐ手段はない。


「これでしまいだ。」


片足立ちになりながら足をふり斬撃を繰り出す。しかし

足の関節が解体されて彼はつく手も、足も出せずに地面に叩きつけられる。


「なんで敵のいうこと信じるんだよ。まだ射程圏内だ。」


叩きつけられたときに突き出ていた石に頭をぶつけたのだろう。血が出ている。

だが、目はひるむことなくこちらをにらんでいる。


「宮本あとは任せたよ。」


そういってアギトは眠りかけている意識を振り絞り解体式を発動する。

体中のマナを回しすべてを絞り出す。


「解体式・決打。」


動くことのないその一点を解体する。狙うは脳みそ。一部分でもかければ生きることはできないだろう。外側、頭を解体する必要はない。脳みその一点そこを解体した。


ひげおじは目を閉じる。そしてアギトも目を閉じる自身の人形ドールが回収してこの場から逃げ切ってくれることを信じて。


「任された。」


神経接続されている宮本は、その主の声に答えるために牙突に手を掛ける。


他の2つの剣と比べて鋭いわけでも重いわけでもないこの剣は必殺のための剣である。この剣は不正を許さない。切ったものが切られた事実を曲げることも、魂が別の場所に逃げることも許さない。


その代わりこちらも小細工を使うことが出来なくなってしまう。だがもとより小次郎は小細工など使わない。己が極めた剣術のみで勝利する。

故に彼の剣のなかで最強の性能を持つのである。


そしてその一閃は、一つの対象に対して一度しか放つこと許さない。


「時は早いがここで決めさせてもらう。」


そういって小次郎は牙突を宙へ投げた。

反射的それを追ってしまった。クローマンに隙が生まれる。


そこに剛で両腕を切り飛ばす。

すぐさま再生させるが今度はそこを更に一段階スピードを上げて神速で切る。

最初の一閃で再生があることがわかってから温存していたのだ。


その速さをとらえることが出来ず右左と腕をまた落とされる。そして落ちてきた牙突を手に取り、心臓に突き刺した。


振り下ろされると思っていた刀を突き刺されたクローマンは驚愕の表情をしていた。20分間打ち合った間彼は一度も突きを打ち出すことはなく刀を振り払い続けていた。そして最後の一撃も振り下ろす動きであった。


「固定概念に囚われちまった。俺の負けだな。しかし、どうしてあの動きから突きになるんだ。」


「案外おしゃべりなんだな。」


「よく言うだろ。死人は口がなくなるってだからしゃべっとかないとな。」


「ふっ...」


「じゃあな、侍。健闘を祈るぜ。」


「ああ。」


彼は目を閉じて二度と開くことはなかった。


「強かったよ。クローマン。」


強者への敬意をこめて一言つぶやき、宮本は主の元へ戻っていった。

そして主を持ち上げると。遠くへと飛び去った。


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途中、白い虎が逃走の邪魔をしてきたが切り捨てた。

相手をするつもりはなかったが邪魔をしてきてはしょうがない。


空想顕現は誰でもすることは出来るが

強さはその認知度やそのキャラクターの持っている能力によって決まるのだ。


そしてもうひとつ。

ホワイトタイガーは虎の一種であり、神なのではなくただの虎である。



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