破滅世界のドールズファイト ~打ち切れた残骸、戒め、~

河合聡

プロローグ 仲間たちにさようなら


崩壊した世界。誰もが魔術を使いその源であるマナを生み出せるそんな世界。

行き止まりの終わりデットエンドへ向う最中


‐アメリカのとある町‐


死体の山の前でドクは立っていた。

死体たちは彼の仲間であった。彼は一人になってしまった。


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15分前


人形ドールは持ったか。」


ポールはドクに向かってこのように問いかけた。


「ああ兄弟、これがなきゃ行く意味がない。」


日本にいっても人形ドールがなければ参加者とはみなされないのだ。


「でもドクなら一人でもよかったんじゃないかな~。そんなのにたよらなくとも。」


マロニが横から会話にはいってくる。ポールの彼女でおでこがチャームポイントの背の低い子だ。


「このチームの中で一番強いじゃん。」


「チームじゃなくてファミリーだよ、マロニ。」


ジョニーが横から出てきて訂正をする。お調子者の彼だが自分のルールは

決してぶれない芯のある人だ。


「呼び方はいい。俺たち13人は強い絆で繋がれてる。それが大事だ。」


ドクファミリー。アメリカの悪党。改造マシンを使い多くの事件を起こしてきたお尋ね者たち。なんやかんやあって、現在はFBIの特殊部隊の位置づけである。


「ドク、言われた通り全員に。まあアイツは呼ばなくていいとも思ったが。」


冗談交じりにジョニーは言う。


「まさかガンドレッドがファミリーに入るなんて思ってもみなかったよ。これも君の才だね。」


「兄弟よせ。リーダはお前だろ。」


「僕は指揮官さ。大黒柱はいつだって君だった。だからこの決戦も君に頼んだんだ。」


そういってポールは政府から預かっていた。文章をファミリーの面々に見せる。


偶像戦争ドールズファイト世界改変の権限者を決める決戦。

 1つ、参加者は本人と接続した人形ドールをもっていること。

 2つ、人形ドールは主催者から支給されるドールを素体とすること。

 3つ、人形ドールの機能停止か接続者の死をもってリタイアとなすること。

 この3つを原則として最後の一人を決める戦争である。

 また、人形ドールが破壊されると接続者も死亡する。』


「素体はアメリカに4体。そのうちの1体を手にできたのは幸運だった。僕らも世界を変える権利を持つことが出来たのだから。もっとも政府以外にも主催者と繋がってる連中には回っているという話だ。」


ポールは続ける。


「ファミリーからは一人しか出れない。なら、君だ。チャンスをつかむのは得意だろ。それに味方を増やすのもだ。」


「その通りだな。」


そういったのはガントレットだった。敵対組織の一員であった彼が今ではこちらについている。殺し合いをしていたものを引き入れている。その後ろには、彼のファミリーが集まっていた。皆、元から味方であったわけではないが、今ではこうして駆けつけてくれる。


ドクがどれほどのカリスマ性を持っているかがわかるだろう。ポールが彼をFBIに引き入れたのもひとえにそのカリスマからだった。


「全員揃ったな。ファミリー全員、本当にありがとう。お前たちのことは忘れない。俺は決戦に向かう。必ず勝利する。」


彼らしい、言葉を紡いだ。そして


「別れの言葉はなしだ。」


そう言い放ち、全員ぶち殺した。


人形ドールはマナがあればあるだけ、強化される。敵を倒したらマナを回収しろとポールはドクに言っていた。人形ドールはマナを回収する機能をそなえているからと。


故に彼は回収した。決戦に勝つために。ファミリーの願い、一度道を間違えても、元の道へ改心さえすれば戻れるような世界へと改変するために。


泣きながら彼らからマナを吸い上げていく。

そこで一つ死体がないことに気づいた。


「逃げたのか。クソったれ!」


イラつきから壁にむかって、衝撃波を放つ。空気の圧縮。これが彼が得意とする魔術である。


「ファミリーはみんなのために協力が必要なんだ。それを自分が死にたくないだけで逃げるか。ウジ虫が。どこ行った。どこ行きやがったんだ。」





はぁ、はぁ。とポールは息を吐く。なんとか逃げることができたがまだ理解が出来なかった。


「どうしてだ。なんでこんなことを。」


責任感が強く、多少無茶をやらかすことはあったが

ファミリーの希望を叶えるために、ファミリーを殺そうなんて考える奴ではない。


とポールは今までのドクを振り返り思う。


「あれは誰なんだ。」


その疑問に答えるように彼の前に人形ドールは立っていた。


BADなマン。アメリカ人ならその名を知らない人はいない。超メジャーなヒーロー。

その皮を被せた人形ドールがいたのだ。


「リソースを回収する。これが勝利への最短ルートだ。」


そう言ってポールの腹に小刀を突き立てた。


ドスっと音が響く。腹を貫通して小刀の先が背中から飛び出ている。

そして体の中をめぐっていたものが吸い取られていくような感覚を受けながらポールは死へと向かっていた。


死にゆく中でポールは一つの考察を立てていた。


人形ドールに空想または仮想のキャラクターを乗せる空想顕現。 

人々の間で共有されている空想上のキャラクターやイメージを、現実の物体に宿らせることで、実体として機能させる現象である。


たとえば「クマのプーさん」は、黄色い体に、はちみつが好きという特徴を持ち、多くの人々がそのイメージを共有している。こうした共通認識を、現実の人形ドールに投影することで、空想の存在が現実の場に顕現する。


この手法は、単なるキャラクターの再現にとどまらず、空想の力を現実の戦力として活用することを可能にする。


不滅のヒーローとアメリカ人全員が信じているであろうBADなマンを人形ドールに乗せる。最強の駒としてそれを運用する。それが今回の僕の作戦であった。



そして使い慣れていたほうがいいと、かなり前から接続して試運転をしていた。

2か月前、偶像戦争ドールズファイトに参加できるとわかったときから。

それが原因ではないか。


BADなマンはただのヒーロではない。ダークヒーローと認知されている。そして汚いことでもやり、泥臭く勝利をもぎ取る。大事な何かを犠牲にしてでも。


接続は精神にまで影響している。そこに気づくことが出来たがもう既に遅すぎる。

ファミリーは死に絶え、自身も虫の息である。


ならばもう後は願うしかない。彼が勝者となり、僕らが目指した世界を叶えると。


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かくして、ドクは日本へ向かう。

仲間ファミリーを殺して、仲間ファミリーのために。


そして日本では、主人公もまた彼と同じく仲間を失っていた。

一人の襲撃者によって......

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