【短編】人類最も野蛮な日

お茶の間ぽんこ

人類最も野蛮な日

 今日の夕方、地球上にいる人類は滅びるらしい。ノストラダムスの大予言にそう記されていたとか、そういうオカルトな話じゃなくて、それ以上にかなり信憑性があるみたいだ。


 数か月前、人類の知能を遥かに凌駕するAIによって「シベリア一帯で大きな大噴火が起きる」と発表された。その大噴火は地球が誕生したときに起きたオントンジャワ海台の大噴火に匹敵するほどのレベルだと言う。


 ある科学者は、この周期で大きな破局噴火が起きるのを不思議に思っているようで「汚れきった大地を浄化するための、いわば地球のホメオスタシスだろう」と述べた。


 物知りなお父さんに「ロシアと日本は離れているから大丈夫だよね」と聞くと、「いや、多分俺たちも死ぬと思う」と呑気に答えた。


 ついには、総理大臣がお忍びで地球を出て、人類が生存可能な惑星へ飛び立つという話が公になった。総理大臣と重鎮たちを乗せた大きな宇宙船の前に国民たちがやじを飛ばしながら見送る始末。いよいよ本格的になってきた。


 そうして、大噴火が起きると言われる今日にいたるわけだ。


 もう電気もガスも水道も機能していない。インフラ会社が仕事をサボっているせいらしい。もちろん僕の通っている中学校もひらけていない。家で暇だからネットを使おうにも電気が通っていないので何もできない。つまり地球最後の日だっていうのに、やることはまるでない。


 両親とお昼ごはんを食べてから「最後の日だから、会いたい人に会ってくるね」と言った。


 お母さんは「これが最後かもしれないから、こっちへ来て」と泣きながら、僕をギュッと抱いた。お父さんは「外はやばい奴いるから、気をつけるんだぞ」と忠告した。



 外に出て街中を歩くといつも通り野蛮な景色が広がっていた。路上でセックスに明け暮れる男女たち。もしかしたら強姦されているかもしれないが、もうこの世界に法は存在しないので何でもありなのだろう。さらには、快楽殺人者に殺されたらしい死体が転がっていた。横に並ぶ店はすべて閉められているが、高価な品物を扱うお店や食品店などはショーウィンドウのガラスを無惨に割られて、見るに堪えない状態となっていた。


 このようになったのは、大体一ヶ月前くらいからだ。皆自己中心的な生き物と化して、やりたいように最後を生きているのだろう。


 僕はミツコちゃんの家のドアをノックした。


 しばらくするとミツコちゃんが僕を家に招き入れてくれた。


 彼女の部屋でベッドに座って話す。


「どうしたの? 今日、家族で過ごさなくていいの?」


「そういうミツコちゃんだって、こうやって僕を入れてくれたじゃないか」


「それは…外は危険だし」


「ずっと言いたかったことがあって」


 僕はいつものオドオドした雰囲気を見せず、きっぱり言った。


「…なに?」


「好きだ」


 ミツコちゃんの頬は赤く染まった。


 少し膝をもじもじさせる。


「もっと早く言ってくれればよかったのに…」


「えっ」


 僕はもしかしたら既に他の男子と付き合っているのではないかと不安になった。


 こんな最悪な最後の日なんて嫌だ。


「私も好きだよ」


 急に僕を押し倒してキスをしてきた。


 僕は嬉しい反面、少しだけ混乱していた。


「ねえ、セックスしよ?」


 ミツコちゃんは可愛らしく僕の顔を見た。


 僕はミツコちゃんを抱きしめて、彼女の口の中に舌を入れ込んだ。彼女も舌を絡ませてくる。


 僕たちは原始時代に戻ったかのように、野蛮で、本能に訴えかけるような熱い時間を過ごした。実際にエアコンが効いていないセックスは暑かった。




 行為のあと、僕たちは横の窓を眺めながら日が落ちていくのを見つめた。


「今日が最後だって信じられないわ」


「でも今日を二人で過ごせてよかった」


 僕はギュッと抱きしめる。


 正直実感がわかないし、きっと死ぬ実感すらも分からないまま死んでいくのだろう。


 僕たちは再び舌を絡ませる。


 この日生きていたことを実感するために。














 大噴火は翌日になっても起きなかった。

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