第22話 目標

 葬儀はつつがなく行われた。師匠は火葬されて共同墓地へと入れられ石碑にフォレストの名が小さく刻まれた。


 私には工房と思い出だけが残った。


 師匠との五年間が詰まった工房。独りだとガランとしているな。まぁ元々は師匠が一人で使っていたので広さ的には充分なんだけど。


 そうやって感傷に浸っていると師匠の「バカモン」と言う言葉が聞こえた気がしたので、思わず笑ってしまった。


「もう!」


 ちょっとは感傷に浸らせてよね!


「とは言っても、そんなことは師匠が望んでないよね」


 これからどうしようか。


 気分転換に冒険者をするのもよし。工房に籠もって作業するのも良し。師匠から受け継いだのは手順だけだ。


 そう。このままでは駄目だ。


「師匠の名を歴史に刻みたい」


 私の名とともに。


 うん。目標は、それでいいだろう。そのためには私だ。私が功績を上げないといけない。


「でも、どうやって?」


 普通のことをやっていたんじゃ駄目だ。何か人が出来ないことをやらないと。そしてやるなら魔法陣に関してだ。


「マジックスクロールと魔導書のことを知る必要があるな」


 師匠から習ったのは技術と一部の知識のみ。完全なる詰め込み教育なので、知識や技に偏りがある。師匠自身もその事は分かっていた。それでもそういう教え方しか出来ない時間のなさに落ち込んだりもしていた。


「よし。明日にでも魔法具ギルドへ行って相談してみよう」


 こういう時は独りで悩んでいてもしょうがないもんね。


 今後のことを考えていたら夕食時になっていたので、絶対に閉まらない食堂で夕飯にした。食堂でに居ると師匠のことを知っている職人さんたちが声を掛けてきて、私の知らない師匠のことを話してくれた。


「よく出来た弟子だって言ってたな」

「手を出したら殺すぞと脅された」

「儂が死んだ後にリサが困っていたら相談に乗ってやってくれとも言っていたぞ」

「弟子を取ってからこっち。弟子の自慢話ばかりしていたな」


 師匠……


 そんな会話の流れで、とある職人から言われた。


「リサちゃんは、今度どうするんだ? もし結婚とかを考えているなら紹介するぞ?」


 私は首を左右に振って、はっきりと告げる。


「私。師匠の名を歴史に刻みたい」

「ほ?」

「フォレストと言う男が居て、凄かったんぞって。そう皆に思ってもらえるように、私自身が凄い職人になりたいです。それが結果的に師匠の名を歴史に刻むことに繋がるかなって思いました」


 食堂が静まり返った。力を込めて答えたのものだから思わず声が大きくなっていたようだ。すると隣りにいた人に「本気かい?」と聞かれた。


 真剣な目だ。問われた私は力強く頷く。するとその職人さん。


「一生を賭けても到達できないかもしれないよ?」

「それでも……挑戦する価値はあると思っています」


 すると誰かが「いいね」と言った。何処か別の場所からも声がした。


「良い弟子を持ったなフォレストの野郎」


 皆の賛同が大きくなっていく。


「リサちゃん。もしこっちで……ルートン木工工房に出来る何かがあったら言ってくれ。出来うる限り協力しよう」

「鍛冶職人のウィルだ。工房長をやっている。俺もその話に乗った!」

「こっちの木工工房もだ。何かあったら言ってくれ。ルートンの工房より安くするぜ!」

「おい! 横から掻っ攫うなよ!」


 それからも次々に腕が上がって収集がつかなくなっていく。でも皆の歓喜と興奮が伝わってくる。私はそんな皆の言葉が嬉しくてお礼を言うべく椅子に登った。


「ありがとうございます!」


 やってやろう。これが私に出来る師匠への恩返しだ。

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