トマト
nyao2
第1話
ダダダダッと階段を駆け上がる声が聞こえる。桃太郎が上層に近づくにつれて上や下から現れる敵が増えてゆく。彼らは容赦なくトマトを投げつけて来るが桃太郎は避け、迎撃し、怯むことなく最上階を目指す。
あともう少しのところで何といっぱいにトマトを詰めたバケツを持った男が現れた。
「はっはっは。これは避けられんだろ。そのまま流されな。」
彼はそのミニトマトのでいっぱいのバケツを傾けた。
まるで滝のように階段を流れてゆくトマトは赤や黄色が混じり何も知らない人が見れば見とれてしまう光景だろう。
しかしその実、その一つ一つが当たれば致命傷になり得るもの。
桃太郎のそばへその流れが届く前に彼は何かを取り出した。
それはトマト。先ほど使っていたものよりも大ぶりで、真っ赤に、非常に熟したトマトだ。
それを腕を大きく振るい、階段へ投げつけた。
その大ぶりのトマトは地面に落ちると同時に大きく弾ける。
ひと玉。
たったそれだけで階段を流れるミニトマトは一つ残らずはじけ飛んだ。
「なっ!!」
男は驚くがその隙に桃太郎は散った果肉を踏み、階段を駆け上る。
そして男の目の前にトマトを投げつけた。
男は言葉を発する余裕もなくそのトマトの爆発を身に受けた。
爆風により吹き飛んだ男はビルの窓を割り、そのまま下に落ちていゆく。
桃太郎はそれを意に介さず最上階の大きな両開きの扉を見据える。
その扉は。まるで招き入れるかのようにゆっくりと、ひとりげに開いた。
桃太郎はそのなかに歩いて入っていく。その目は何か、硬い意志が宿っている。
その部屋は社長室だった。部屋の中には様々なトマトをモチーフにした豪華な調度品。そして大きな机と椅子。
その椅子に座る者は桃太郎の来訪を察し、椅子を回し、彼の方を見た。
「初めまして桃太郎君。私はシリリアンルージュ。よくここまでたどり着くことが出来た。」
「挨拶はいい。お前が持っているんだろ。トマトの栽培独占権を。」
「いかにも。あれは私たちにとって大切なものだ。それがどうしたのかな。」
「よこせ、栽培権は一企業が独占していいものではない。世界中の人が自由に、トマトを栽培できるようにすべきだ。」
「栽培権を渡すことはできない。我々のような厳格なものがきちんとした衛生基準で極上の味となるように育てるべきものなのだよ、トマトは。」
「そんなこと言ったってお前たちが実際にやっているのはトマトの値段を釣り上げて民衆から金を奪う悪行だ。それはトマトに対する冒涜だ。」
「最近の子は聞き分けが悪いくて嫌になるよ。」
「いいからよこせ。断るなら、倒す。」
シリリアンルージュはため息をついて杖を持ち立ち上がる。
「どうやら相容れないものだね」
それが開戦の合図だった。
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