幼なじみの優しい膝枕で俺のド田舎脱出計画は上書きされる

ちかあま理久

プロローグ

俺は、第1志望の私立大学の合格発表を、受験予備校の自習室で迎えていた。


スマホの画面に受験番号を打ち込み、指先で確定ボタンを押す。


一瞬の沈黙。

次の瞬間――


ーー【合格】ーー


「……っしゃあああああああああ!」


叫び声と同時に、胸の奥が熱くなった。

ようやく……ようやく、この瞬間を掴んだ。


これで――俺は、クソ田舎から脱出できる。



あの日のことは忘れられない。


高校2年の夏の朝。

いつものように制服に袖を通し、鞄を手にして家を出た。

蝉の鳴き声が響く通学路。


だが――突然、足が動かなくなった。

膝が震え、全身から冷たい汗が噴き出した。

胸が締め付けられるように苦しくて、呼吸がうまくできなかった。


「……なんで……?」


地面に座り込む俺を、通り過ぎる車が無情に追い越していく。

立ち上がろうとしても、体が鉛のように重くて動かなかった。


あれほど好きだった地元の高校に――俺は、もう通えなくなった。



退学。

高卒認定。

そして自分を変えるために、自ら“鬼”と呼ばれるスパルタ予備校の寮に飛び込んだ。


「浪人は一年だけ」――親から許された1回のみのチャンス。

最初の模試はE判定。

それでも、もう後がない。

一日十時間以上の勉強に食らいつき、孤独と不安を噛み殺しながら、ようやく掴み取った合格。



俺は誓う。

東京で青春を取り戻す。

自由で開放的なキャンパスで、俺は起業する。

彼女を作り、結婚し、幸せを掴む。


何より――

あの朝から止まってしまった自分の時間を、ここで取り戻す。


二度と戻らない。

もう振り返らない。


俺の「ド田舎脱出計画」は、今ここから始まるのだ。

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