幼なじみの優しい膝枕で俺のド田舎脱出計画は上書きされる
ちかあま理久
プロローグ
俺は、第1志望の私立大学の合格発表を、受験予備校の自習室で迎えていた。
スマホの画面に受験番号を打ち込み、指先で確定ボタンを押す。
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
ーー【合格】ーー
「……っしゃあああああああああ!」
叫び声と同時に、胸の奥が熱くなった。
ようやく……ようやく、この瞬間を掴んだ。
これで――俺は、クソ田舎から脱出できる。
◇
あの日のことは忘れられない。
高校2年の夏の朝。
いつものように制服に袖を通し、鞄を手にして家を出た。
蝉の鳴き声が響く通学路。
だが――突然、足が動かなくなった。
膝が震え、全身から冷たい汗が噴き出した。
胸が締め付けられるように苦しくて、呼吸がうまくできなかった。
「……なんで……?」
地面に座り込む俺を、通り過ぎる車が無情に追い越していく。
立ち上がろうとしても、体が鉛のように重くて動かなかった。
あれほど好きだった地元の高校に――俺は、もう通えなくなった。
◇
退学。
高卒認定。
そして自分を変えるために、自ら“鬼”と呼ばれるスパルタ予備校の寮に飛び込んだ。
「浪人は一年だけ」――親から許された1回のみのチャンス。
最初の模試はE判定。
それでも、もう後がない。
一日十時間以上の勉強に食らいつき、孤独と不安を噛み殺しながら、ようやく掴み取った合格。
◇
俺は誓う。
東京で青春を取り戻す。
自由で開放的なキャンパスで、俺は起業する。
彼女を作り、結婚し、幸せを掴む。
何より――
あの朝から止まってしまった自分の時間を、ここで取り戻す。
二度と戻らない。
もう振り返らない。
俺の「ド田舎脱出計画」は、今ここから始まるのだ。
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