第14話 山谷屋あかりは御主人様を上書きしたい(後編)
玄関を開けた瞬間、言葉を失った。
「ご主人様、おかえりなさいませ♡」
あかりがメイド服姿で立っていた。
胸元が大きく開いた衣装からは、柔らかな谷間がはっきりと見える。スカートはひらひらと短く、そこから伸びる白く眩しい足に思わず目を奪われた。
「さ、座ってください、ご主人様♪」
促されてダイニングへ行くと、テーブルの中央に堂々と置かれていたのは
――特製お子様ランチ。
ふんわり焼かれた卵で包まれたオムライスに、肉汁があふれるハンバーグ、カラッと揚がったエビフライ、星形ポテトや彩り豊かなサラダ。どこか懐かしいのに豪華で、思わず唾を飲み込む。
そのオムライスの表面には、赤いケチャップで大きなハートマークが描かれていた。
「ご主人様のために、心を込めて作ったんです♡」
嬉しそうに差し出すあかり。その胸元がふわりと揺れて、視線を逸らすのに必死だった。
さらに彼女は、自分の分のオムライスを運んできた。まだ文字も絵も描かれていない。
「ご主人様にも描いてほしいなぁ……」
無邪気にケチャップを渡してくるあかり。
俺は大きなハートを描こうと、意を決してノズルを握った。
「えいっ!」
――だが、緊張で手が震えた。にゅるっと歪んだ線が広がり、ハートどころか奇妙な形になってしまう。
「あっ……これ……」
あかりが目を丸くして覗き込み、首を傾げる。
「大きなお尻……? ご主人様のエッチ♡」
「ち、違う! ハートだって! 大きなハート!」
必死に弁解する俺を見て、あかりは頬を染めながらもクスクス笑った。
「ふふっ……でも、なんだか嬉しいです。ご主人様が描いてくれたオムライス、特別に見えます」
その笑顔に、胸がぎゅっと締めつけられた。
◇
夕食が始まると、あかりは「アーン」と言ってスプーンを差し出してきた。
オムライスの湯気とケチャップの甘酸っぱい香り。
彼女の顔がこんなに近いなんて――。
「はい、ご主人様。あーん♪」
頬を赤らめながら食べさせてくれるあかり。間近で見ると、今日はメイクまでしていて、アイドルのように可愛い。
その後は俺が「アーン」と食べさせる番になり、互いに顔を真っ赤にしては視線を逸らすばかりだった。
◇
食後はさらに「チェキ会」が始まった。
あかりがスマホを構え、距離が近すぎるくらいに並んで自撮りをする。ポーズを変えて10枚。頬が触れそうで、衣装のフリルや柔らかい感触が当たって――まともに心臓がもたなかった。
「はい、ご主人様、笑って♪」
「ちょ、ちょっと近いって!」
パシャッ、パシャッ、とシャッター音が部屋に響き、俺の動揺がそのまま記録されていく。
◇
限界を感じた俺は、クールダウンのためにシャワーを浴びた。
リビングに戻ると、壁のコルクボードにさっきのチェキがもう貼られていた。そこに映る俺の顔は、真っ赤で、完全にデレっとしている。
「……完全に、メイドに蕩けさせられたご主人様だな」
苦笑しながらも、心のどこかで温かさを覚えていた。
こうして――俺は、その後メイドカフェに通うことはなかったのだった。
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あかりのメイドコスプレを公開しました
https://kakuyomu.jp/users/guuguunet/news/822139836292760067
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