第44話「“元”剣聖、神域に至る剣を抜く」

 レイスは足元に転がっていた双剣のもう一振りに、そっと手をかざした。


 次の瞬間、風もなく剣が浮かび上がり、意思を持つかのようにレイスの掌へと吸い寄せられてくる。


 そのまま、自然に指が柄を握る。


「……なんなのかと聞いたな」


 視線は、グラディスに向けられていた。


「グラディス。何故、"俺たち"が大層な肩書を持ち、英雄とされているのか――わかるか?」


 静かに、しかし確かな重みをもって投げかけられた言葉に、グラディスはゆっくりと上体を起こした。


「……類まれなる才を発揮し、魔王を討ったからであろう」


「遠からずも、近からずだな」


 レイスは右手の剣を軽く空へ放り投げ、それを掴む。そしてまた放る。繰り返しながら言葉を紡いだ。


「確かにそれぞれが、突出した才を持っていたのは間違いない。だけど――根本的に、他の奴らとは決定的に違う部分がある」


 しばしの沈黙。だがその空白は、重く鋭く場を支配していく。


「俺たちは、それぞれが“特殊”な”権能”を持っていて、特定の条件下でそれを行使することが出来る。他のやつらとは、強さの“質”が違うんだ。……それこそ、人間の領域を踏み外すほどにな」


「……固有天賦か」


「”ご明察だ”」


 睨みつけるグラディスに、レイスは余裕を滲ませる笑みを浮かべながら皮肉で応じた。


「おおよそ、その精霊を召喚し使役することがお前の“権能”ということであろう。ならば――」


 言葉の途中で、グラディスの姿が消えた。


「きゃっ!? お兄様っ……!」


「殿下ッ!」


 瞬間、彼はレオノールの背後を取り、首元に剣を突きつけていた。あまりの速さに、ユインですら反応できなかった。


 鋭く当てられた刃先が、彼女の肌をわずかに裂き、血を滲ませる。


 それを見たレイスの瞳が、すうっと静かに冷えていく。


「おい、今すぐレオノールを放せ。これ以上――俺を怒らせるな」


「怒らせる? あっははははは!!」


 勝ち誇ったように、グラディスは黒く歪んだ笑みを浮かべる。


「こうしてしまえば、貴様はもう俺を攻撃できまい。少しでも動けば、この首を――斬り落とすぞ?」


 しかし、レイスはまるで意に介した様子もなく、ただ――冷たい目を向け続ける。


「……だから、わかってねぇんだよなぁ」


 ぽつりと呟き、レイスは剣を構える。


「――《精霊武装》」


『さぁ、始めよっか――』


 アーサーの声が響いたその瞬間。


 レイスを抱いていたアーサーの姿が、無数の光となって砕け、レイスの身体を包み込んでいく。


 すると、彼の髪は金色に染まり、長く流れるように伸びていく。瞳もまた、蒼く染まり澄んでいく――その姿は、まるでアーサーがそのまま地上に降りたかのようだった。

 

 手にした双剣は輝きを纏い、刃が一回り長く、重厚に変化する。


 次の瞬間――


「……っ!?」


 音すら追いつかない速さで、レイスは剣を振り抜いた。


 グラディスが何かに気付いて、視線を横に向けた。


 ――そこには、斬られていた壁があった。


 いや、壁だけではない。玉座の間の外壁、柱、石畳、そのすべてが、真横に音もなく斬り裂かれていた。


エクスカリバーこいつに斬られたものは、“根源”を絶たれる。この意味がわかるな?」


 その言葉に、グラディスの喉がひくりと鳴った。


 “根源を絶つ”――それは、ただの死ではない。輪廻も再生もなく、魂が完全に“無”へと還ることを意味する。


「もう一度言うぞ。さっさとレオノールを放せ」


 静かに、確実に、死の宣告のような声音で告げる。


「ッ……ふッざけるなァアアア!!」


 グラディスは焦りを隠せないまま、より強く剣をレオノールに押し当てた。


 同時に、無詠唱で複数の魔法を展開する。火、雷、氷、斬撃――


 多重魔法が放たれ、レイスを包囲するように襲いかかる。


 だが。


 そのすべてが、彼に届く前に霧のようにかき消えた。


「……残念だ。さようなら、――愚王」


 レイスが、静かに剣を振る。


 その瞬間、玉座の間が光に包まれた――。



――――――――――――――――――――――

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


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――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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