第41話「“元”剣聖、進化する化け物に焦燥する」
金属と金属がぶつかる音が、玉座の間に幾度も響き渡る。
斬撃と斬撃、風と衝撃が交差し、床石が砕け、壁が軋む。
一撃一撃が、まるで地を割らんばかりの威力を伴っていた。
互いに一歩も譲らぬ攻防。レイスとグラディス――二人の戦いは、まさに“死闘”と呼ぶに相応しいものだった。
剣が交差するたびに、空気が震える。
振るわれた刃が通り過ぎた場所は、微かに焦げたような匂いすら立ち込めていた。
レイスはふと眉をひそめる。
(……やっぱり、合わせてやったのは失敗だったか?)
レイスは本来の力を全開にしてはいなかった。
あくまで「抑えた状態」で、今のグラディスの“実力”を測ろうとしていた――のだが。
刃と刃が重なり、激しい火花が散る。
体重と腕力、筋力と技術、そして“意志”のぶつかり合い。
実力は互角――否、本来はレイスが上だった。
だが、“遊び”のつもりで抑えていた力が、今やじわじわと引きずり出され追い詰められている。
(こいつ……戦いの中で、成長してやがる)
その実感に、レイスは内心で舌打ちする。
グラディスの剣筋には、明確な“変化”が現れていた。
斬撃は鋭さを増し、間合いも正確。
無駄な動きが一切なくなり、まるで数十戦の実戦経験を経た老練な戦士のような風格すら漂わせている。
一手ごとの動きに、次の展開を読む“思考”が宿っている。
まるで、今この瞬間にも、戦場で生きる術を学んでいるかのようだった。
それが、“本能”ではなく“意識的な学習”であると理解したとき、レイスは初めて本気で危機感を覚えた。
「チッ……!」
レイスが一歩引いて態勢を立て直そうとした、その刹那。
ビュッ――と空気が裂けた。
「ッ!?」
背中に、鋭い痛み。
視線を後ろに向けると、風の刃がかすめていた。赤い筋が背中を走り、血が滲む。
何の前触れもない一撃。
詠唱も、魔力の膨れも、殺気すらなかった。
「いつの間に……!?」
魔法が放たれた形跡すら、レイスの感覚にはなかった。
だが、すぐにその意味を理解する。
「……無詠唱魔法、か」
「ご明察だ」
グラディスが、わずかに口角を上げる。
「魔法に対しても造詣が深いとは、さすがは勇者一行の“剣聖”殿だ」
「そりゃどーも。ま、今は落ちぶれ冒険者だけどね~」
痛みをこらえつつ、レイスは口では軽口を叩くが、視線は鋭く相手を射抜いていた。
(風の刃……狙いは背後、完全な死角。無詠唱で、詠唱遅延もなし。こいつ……戦闘中にこれを仕込んでくるとは……!)
しかも、あの精度。
戦闘に集中しながら魔力の繊細なコントロールを可能にする技術と、無詠唱でそれを完遂する集中力と精神力。
グラディスが、ただの“才ある王族”ではないことを、痛感させられる。
その後も、斬撃と魔法の連携が途切れることなく襲いかかってくる。
しかも、レイスの双剣の動きに、グラディスは一本の剣だけで応じてきていた。
決して剣を振り回しているだけではない。
その一振りすら、偶然じゃない。すべてが狙い澄まされている。
(バケモンか……! 反応速度も判断も、いちいち人間離れしてやがる)
それだけではない。
戦いながらも、グラディスの唇はかすかに吊り上がっていた。
命のやりとりを、どこかで楽しんでいる。――そんな狂気すら滲む笑みだった。
「もっとだ……剣聖、まだその奥にあるだろう……!」
グラディスの瞳が、獣のように光っていた。恐怖も怒りもない。ただ――“渇き”がある。強さを、闘争を、上を目指すための欲望。
剣を交わすたびにその動きは洗練され、恐ろしく静かに“精度”が上がっていく。
隙あらば無詠唱魔法を挟み、読みづらい攻撃を組み立ててくるその戦術は、もはや熟練の戦士と呼べる域に達していた。
彼の放つ一撃一撃は、今や“王子の剣”ではなく、“戦士の刃”となっていた。
それを見たレイスの内心に、焦りの色が滲む。
(こん、のやろー……! 能力だけでいったら“こっち側”になり得る潜在能力持ってんじゃねーかッ!)
そしてそれを、本人が無自覚のまま体得している――それこそが、最も恐ろしい要素だった。
口調とは裏腹に、その背筋には冷たい汗が流れていた。
これは、ただの戦闘ではない。
グラディスという“化け物”が、今この瞬間にも進化し続ける――“異常事態”だった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
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