第11話「“元”剣聖、王女を囲む影を嗤う」

 王都の朝は、いつもと変わらぬ喧騒から始まった。


 市場の喧噪、馬車の車輪音、遠くで響く鐘の音。

 それらすべてが、変わらない日常を装っている。


 だがその裏で、“何か”が静かに動き始めていた。


 第二騎士団本部の地下室――そこに設けられた簡素な作戦室には、数枚の地図と書類が並べられていた。

 

 その中央に立つのは、赤髪をなびかせた騎士団長・セリア。


 冷え切った空気の中、視線は鋭く資料を見つめている。


「……ローゼル家に続いて、アーヴェン侯、ブルガット男爵、そして……ノルツ公爵。いずれも第一王子派の貴族ばかり」


 壁に貼られた家紋の横に、赤い線が引かれていく。


 その数は、日に日に増していた。


「ははっ、どいつもこいつも真っ黒だ。終わってるね、この国」


 レイスが椅子にもたれながら、肩をすくめる。

 

 片手に持った紅茶を揺らしながら、その目は冗談とも本気ともつかない光を帯びていた。


「でも、陰謀の輪郭が、ようやく見えてきましたね」


 ユインが資料を手にしながら低く呟いた。

 

 今回の情報整理には、第二騎士団の内部協力者数名が動いており、その中にはセリア直属の古参騎士たちも含まれている。


「ただ、決定打にはまだ足りない。証拠としては、補助金の流れや偽装工作は十分だけど……王子本人の関与が明文化されたものは出てこない」


 セリアの言葉に、誰もが無言で頷くしかなかった。


 現在判明している不正は、資金洗浄・土地の転売・公共工事の名義偽装など多岐にわたる。

 

 どれも精巧で、法に触れてはいるが、関係者の名が“ぎりぎり”で伏せられているのが特徴だった。


 ――まるで、誰かが最初から“摘発される範囲”を計算して動いているかのように。


「それに……王女殿下の周りの動きも、少しおかしい」


 ユインが一枚の報告書を手に取る。

 

 そこには、レオノールの行動記録――王都内での移動時間、訪問先、同行した騎士団員の構成などが簡潔に記されていた。


「監視、ですか?」


「恐らくは。殿下が出歩くたびに、他の騎士団の“見知らぬ顔”が後をつけているという話も出ています。しかも、その中には……第一騎士団の紋章を付けていた者もいたと」


「……王都の中で、王女の護衛が別派閥に囲まれてるってわけか。大層モテるようで大変だね~」


 レイスは皮肉を呟きながら、足を組み直した。


「レイスとは正反対ですね」


「あ、やめて? 刺さるから、それ」


 ユインの返しに大ダメージを食らうレイス。

 それを見てセリアがクスッと笑い、少し場が和む。

 

 第二騎士団が王女を守っているとはいえ、他派閥の騎士団がじわじわと包囲を強めている現実は、見過ごせない。


「どうにか……王女殿下をこの包囲から解き放たなければなりません」


 セリアが声を落としながら言う。


 その目には焦りと苛立ち、そして何より、王女を守らねばならないという責任の色が滲んでいた。


 だが、焦って仕掛ければ相手の思う壺。


 先に動いた方が敗ける将棋のような局面――そう思った矢先、部屋の扉が軽くノックされた。


「失礼します。追加の報告を――」


 若い騎士が顔を出し、一枚の手紙をセリアに差し出した。

 

 中を確認したセリアの表情がわずかに曇る。


「……王女殿下が、“政務復帰”の申請を却下されたそうです」


「却下?」


 ユインが思わず声を漏らす。


「表向きの理由は“健康状態の懸念”。だが、殿下はすでに医師の診断も受けており、回復は確認されていたはず……」


「つまり、“復帰されたら困る側”が強引に封じたってことだな」


 レイスの声が静かに落ちる。

 皮肉げな笑みを浮かべながらも、その目は冴え冴えとしていた。


 王女の動きを封じ、不正の告発もできず、しかも包囲は着実に進んでいる。


 まるで――誰かがすべての駒を数手先まで読んで、先に手を打っているような。


 だが、その“誰か”の正体は未だに見えない。


 名前も、顔も、意図も。


「本当に……気持ち悪いほど静かですね、この王都は」


 ユインの言葉に、誰もが口をつぐんだ。


 静寂。それは安寧の証などではない。


 今この王都を覆っているのは、“嵐の直前の静けさ”そのものだ。



――――――――――――――――――――――

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


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――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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