第2話 久しぶりに会っても好き

歳を取ると、恋愛には終わり?

リアルなアラ還世代の、まだ心は揺れる物語。

主人公は57歳。


2人でいるだけで、ドキドキする。

好きだからのドキドキ。

知り合いに見つかったらどうする?のドキドキ。


周りの視線を気にするだけで、こんなになドキドキするとは。

やってみる気も、試したいとも、考えたことも無い、不倫と言う物。


ただ会っているだけだから、正確には不倫とは呼べない。

知り合いの男友達と会うのが、不倫なら世の中はだらけになる。


が、彼の顔を見て好きだと感じた、自分の気持ちは、不貞なのかもしれない。

そして、こんなドキドキ感は、もう何十年も感じたことはなかった。


この「誰かに見つかるかも?」

「見つかったら、マズいかも?」の気持ちが、不倫を繰り返したり、またつい会ってしまう理由なのかもしれない。


彼氏の時でも、浮気はしたことは無い。

面倒なことが嫌いだから、さっさと別れて、次へ行く主義だったから、被らないから浮気は無い。


でも、今好きと感じる気持ちは、気持ちはもう裏切りだとは思った。


夕飯を食べて、お酒を呑んで、それぞれのホテルに戻った。

翌日も、一緒に出かけた。

美術館へ。


一緒にいて楽しかった。

話して、隣を歩くだけで。

途中までは、電車も一緒に乗った。

離れがたいからと。


一気に大学時代に戻った気分。

若かった2人に戻った気がした。


付き合わずにいたから、付き合いは初めて。

2人が気が合うこと、一緒にいると楽しいことは、やっぱりなと確認した。


30年以上前に好きだったし、結婚式前に泣かされたから、辛い思いももちろん覚えている。

好きな気持ちは、ずっとあったのか?


心のどこかには、隅っこのほうには少しは残っていたかもしれない。

が、日々の中でまた会いたいとか、考えたことはなかった。


実際に連絡が来た。

LINEやDMとかは、内容は全部が本音かは、わからないツール。

でも文字にされたら、信じたくなる。

その上実際に近い電話で、声を聞いてしまうと、好きだった気持ちが蘇る。


普通に連絡を取り合うだけなら、他の人なら、DMが来ようが特に気持ちが揺れることは無い。

他の人は、「会おうか」とかになるけど、「好き」は言わないし、「会いたいな」はにも、心は動かない。


好きでも、多分結婚式の前の日に、好きと言われてなかったら、そこまで特別でも、心が動くこともなかったのかもしれない。


結婚式の話は辛すぎて、何でも話した親友の朋子にも、全く彼の話はしなかったし、今もしていない。

他の内緒の彼氏の話も知っている。

子育て中に辛かったことで、私は夜中泣いて、何時間も電話で話したこともある。


彼女は多分、唯一本気で泣いた私を知っている。

ちょっとした辛さでは泣かないし、特に人前では、ほぼ泣かないから、泣いた私を知る少ない人。


でも、朋子にも言えなかった。

お互い好きだったのに、違う人と結婚した、あの日の話は自分には、それだけ重かったんだろうと。


朋子は私の話の直後あたりに、辛い目にあった。

別れてからだけど、彼女は話してくれた。

結婚しても連絡してくるから、嫌いになれたから、言いやすかったのかもしれない。


私の話は結婚前に「好き」って言うなら、もっと早く言えよ!だ。

結婚をやめるほど、好きではなかった。

美代子と自分なら、傷つけても何とかなりそうなのは、祐希のほうだと思ったから?


大学時代に、彼女と別れて祐希を取る気が、なかった奴と言えばそう。

朋子もそうだけど、私たちは多分男子からは、振られたり、付き合え無くても、自分で立って前に進める強さがあると、考えられていた?


実際は?

私たちは、男の前では泣かないけど、1人で泣いてる。

誰も知らない、見ないところで。

相手の男の前で泣ける子は、実は強いのかも?とも。


私はあなたのために、こんなに苦しんでるよを、相手に伝えられてるから。

目の前で泣くか、泣きそうに感じさせられる女子は、さらけ出す勇気があるから実は強い。


新幹線での帰り道、会ったら楽しかったこと、もうまた会いたい気持ちを、ずっとやり取りした。


長年の信頼?

無関心?

今さら妻には、他の人は出来ないって安心感?

だから私たちの友達の夫婦は、若い子たちのように、お互いのスマホなんか、全く見ない。


昔なら人の手紙を、盗み見しない感覚に近いのか?

夫婦でお互いのスマホなんか、見ないし、興味が無い人か殆ど。


会うとまた会いたくなる。

仕事もあるし、土日は休みだけど、さすがにしょっちゅうは、帰る口実は作れない。


最初に会うまでが、2ヶ月ぐらい。

母親も90歳近いから、ちょくちょく様子を見たいのはあった。

段々といなくなる日が近いことを、会うたびに実感もする。


そこから2、3ヶ月に1度ぐらい、母と彼に会いに行った。

2度目からは、「会えるなら一緒にいたいから、ホテルは俺が予約する。一緒に泊まろう」と言う話になった。


2人でご飯を食べに行ったり、スポーツ観戦したり、映画へ行ったり、美術館やあちこち2人で出かけた。

まずは、母に会ってからだけど。


5、6回会って、約1年が経った。

眠れなくなった。

罪悪感と「離婚するから、俺と一緒にいよう」と言われて、どうしたら良いのか、考えると眠れなくなった。


精神科で睡眠薬を貰い、眠れるようにはなって、3ヶ月ぐらい。

彼に会う前に、朋子に会って話すことにした。


彼女はLINEのやり取りで、私が母に会いに戻っていることは、知っていた。

でも彼女は、私が連絡しなければ、他に会う人がいるなら、「私は知らんぶり?会いたいのに」とかは、言わない。

他に会う人?友達がいるか、お母さんが退院した時期は夜も一緒?とか考えて。


「久しぶり。最近帰って来ても忙しそうだし。お母さんどう?」とひとしきり、お互いの家族の話はした。

夫の病気も知ってるし、子供のことも。


「なんか、かなり痩せた?大変か?大丈夫?」と彼女は、気遣ってくれたし、異変は察知された。


祐希は苦しかったから、やっぱり朋子に話そうと決めた。

昼間の、静かな喫茶店だけど。

昔からあって、のんびりゆっくり出来る場所。


「実は昔好きだった人と、帰ったら会ってて。今は好き。

でも苦しくなって、寝られなくなったから、朋子には話そうと思った。毎回朋ちゃんと会ってることにしてたのも、心苦しかったし」


彼女は私の話を、とりあえず全部聞いてくれた。

「何かあるとは思ってたよ」

「結婚式の前の夜に、好きとか言うのは、ソイツはズルい奴」とも。


話を色々整理はしてくれた。

彼女は、整理してどうするべき?を相手に考えさせるのは上手い。


朋子自身は、

「ダンナはもうどうでも良い」とか、

「諦めてる」とか言ってるから

「そうか。それは大変かもしれないけど、好きな人がいて、楽しいのは羨ましくもある」とも。


朋子は自分の友達の話をし始めた。

離婚した女友達の話。

50歳過ぎて、ダンナが昔良いなぁって思ってた女の子とSNSで繋がって、その相手に本気になって、勝手に家を出て行って、息子の学費も払わなくて、困ったとか。


離婚は裁判になり。

ダンナは財産もある人。

彼女の弁護士さんは、探偵を付けてこれまでの素行を少し聞いて歩いたら、ずっとあちこちで浮気して歩いてたことも、わかった。


あまりに堂々とやってるから、周りにいた人は「奥さんも公認かと思ってた」とか聞いて、彼女は深く深く傷ついた話とか。


他にも、50歳過ぎて、揉めてる人がいる話とか。

朋子は「なんか、わかる気もする。結婚直後の浮気もヤバい感じはする。でもこの年齢になってから、本気で好きになるのは、真面目だからこそ難しい」


「離婚した友達のダンナは、私も大学時代の友達でよく知ってる。大学時代は気になってた癖に、その時の彼女と別れるのが面倒で、付き合わなかった。

かなりのイケメンで、お金もあるお坊ちゃま。相手はいくらでもいそうだったけど。笑うと笑顔も悪くないしね。

5年ぐらい彼は東京。

離れた時期は全く連絡もせず。

でも戻って来たら、いきなり結婚前提で付き合ってって言ってたから、やっぱり気になる人を、ずっと好きなままでいるタイプの人かも?あの人は」

人間色々なタイプはいる。


朋子は「昔好き?良いな?って感じても、付き合わなかった人、かなり好意のある人は、実は1番マズいのかも?」


「元彼は女子は終わったら、わりと気持ちは切り替えてる。意外に元彼と再びは、聞かないな。

好意はあるけど、付き合えなかった人は、会うと私もちょっとドキドキする、感じはわかる」とか。


「確かに。元彼とは何人か皆んなで会っても、何?って感じで、特に何とも思わないわ」


「付き合ってなくても、自分の中ではこの人とは、付き合うは無いなって判定した人だと、1回はジャッジしてるから、何も思わない。

3年ぐらい前に、私が仲良かったあの先輩と会ったら、向こうは俺らは何故付き合わなかったのか?とか言ってた。

でも全くドキドキは無いし、そりゃアナタが元彼女=今の奥さんと連絡し合ってるの聞いて、面倒そうだからやめたって、本音は言わなかったけど」朋子は笑った。


彼女は非難も、やめろとも言わない。

「ダンナさんは今、どんな調子?」は聞いた。

あと「長くダンナさんにも会ってないし、私の連絡先は知らない?もしも連絡来たら、話は合わせとくから」と。


「離婚するからは、結婚してる男がよく言う言葉だけど、本当に離婚する気はありそうなの?」祐希が聞いた。


「別居は長いけど、今さら行くところが無いから、離婚しても同じ敷地のあの家から出て行かないかも?追い出すのは、気がひける」とか

「収入も無いし、田舎で働くところも無いから、離婚したらどうやって生活する?は心配とかは言う」


私たちの世代は、60歳からだった年金が、65歳に引き上げられる頭の年代。65歳までは、離婚しても元嫁の面倒みるの?

年金が足りないなら、ずっと面倒みるのか?


嫁とも知り合い。

彼は地方だと、名士扱いだから周りにもすぐに知れそう。

嫁と元嫁が同じ敷地に住むとか、田舎だと理解されにくそう。

朋子は、そんな指摘もした。

祐希も考えたけど。


「離婚するから付き合ってとか、結婚したいとか、男は簡単に口にし過ぎる気はするから、信用はならないな。もう1年経っても、何もして無いんでしょう?」

祐希は、笑って言った。

確かに。


相談出来る人が誰もいないことが、こんなに苦しくなるとは、思ってなかったけど、朋子に話したら、少しだけ気が楽になった。


勝手かもしれないけど、困った時に相談出来る人がいると、わかっているだけで違う。

朋子は事実の整理もしてくれるけど、感情の整理が上手いのかも?


「今正直、その人とダンナとどっちが好き?」祐希はズバリ聞いた。

悩んだけど、「やっぱり今の人?」

「今そっちが好きなら、会いたくなるのは仕方ないな。ダンナにバレたらどうするの?」


痛いところを突かれた。

病気もあるし、ダンナは知ったら悪化しそうだから、バレないようにするしか無いと考えたけど、バレる可能性はゼロでは無い。


LINEでも普通に「ずっと考えてるよ」とか、「次はいつ会える?」とか、電話の履歴も残っている。

わざわざ消したりはして無い。


「バレたらどうするかは、考えておいたほうが良いんでは?今答えは出てなくても、どう説明するのかは。子供たちにもね。バレたらどう説明するかは、考えないと」


「子供らはもう皆んな大人だから、好きにすれば?って言いそう。ダンナのことで苦労して来たことも知ってるから、あーそう?って感じかなぁ」


一般論だと、ウチの子らはそんな感じだけど、いざ実際の話だと怒るのかもしれない。

考える必要があるのは、わかった。


「お金も無いと新幹線代も出せないし、仕事もやめられない。身体はキツいけど。週末帰ってると」

「キツいのに、帰って来て会うのは何故?」

「好きだから」


朋子は、「なら仕方ないな」と。

「祐希が幸せなら、私はどっちでも良い。無理して会って幸せじゃ無いなら、止めるけど」


ついでに、「恋したら綺麗になるって、それなりに本当かも?を久しぶりに実感した。キレイになったし、なんか私はヤバい、アカンかも?って思った」と朋子は笑った。


「私はどっちが良いとか、好きとかはわからない。だから祐希が良いと思うことをしたら?私はそれを応援する。

でも眠れなくなってるのは、よく無い。苦しくない、後悔しないことを考えたら?」と。


確かに離婚するは、私が離婚を考えると言わない限り、彼は何も動きそうには無い感じはある。

まだ奥さんに、好きな人がいるとも話しては、無いようだし。


今、今日好きと思えるのは、野村君。

でも、ダンナが嫌では無い。

ダンナの調子が良くなると、また違うことを感じるのか?


金銭面では、ダンナには実家の資産もあるし、年金額も多い。

先の安定を取るなら、ダンナではある。

が、彼の病気が今よりもっと悪化したら?


野村君は、「離婚する」は何回も言うけど、朋子の言う通りで、何も動こうとはしていない。

別居してる嫁にも話してないから、離婚なんて多分遠い先か、あり得ないのかも?と。


好きだから会いたい。

が、ダンナも嫌いじゃないから、気持ちは辛い。

疑っても無い様子も。


ある意味、ダンナにとっては、私はお母さんな部分、安心して信頼出来る人なのかもは、感じる。

子供への愛情は薄めだけど、私には向けてくれているから、苦しくなる。


いつまで、この状況を続けるのか、先はわからない。

朋子と分かれて彼に会いに行くと、気持ちは好きに傾く。


そんな状態が会い始めて3年は続いた。

朋子に話してからは、戻るとほぼ彼女には会って、その話はする。

向こうから、必ず「どうなってる?」は聞いた。


ちょうどその頃、1人で温泉でも行こうかと思い立った。

有休を消化しろとも言わていたし。

が、やっぱり朋子を誘ってみようかと。


彼女は体調が良くないから、色々彼女が無理の無いように、新幹線の駅まで迎えに行き、2泊3日だけど、ノンビリした旅にした。


夜の宿では、夜中まで昔の会社時代の男性陣の話で、盛り上がった。

同期で顔だけだと、イケメン1番は誰だったか?とか。


朋子にも話して無かった、同期で密かに付き纏われてた男子の話とか。

朋子は「良いなぁ、モテモテやん」とか言っていた。

彼女は仕事柄もあり、男子たちには声をかけにくい存在ではあった。


朋子を誘うなら、真剣で結婚を考えるぐらいで無いと、自分が飛ばされたりすると考えたのか?


彼女はモテ無い訳では無いけど、誘われてもその気が無い人とは、ご飯やお茶すら行かない。

遊んでそうに見えて、やっぱり堅い子だったから、なおさら。


「私なんか、2人でご飯も行ったのは、1人とか?たまたま2人になった既婚者の部長は、紳士だから仕事の話をしただけ。めちゃくちゃ美味しいお寿司は、食べさせて貰ったけど」

と、ブーたれていた。


祐希は食事だけなら、彼女の知らないところで、何人行ったか?

忘れた人もいるぐらい。


「あの頃、真面目過ぎて面白く無いから、相手にはしなかったけど、あんな人と結婚してたら、今も大事にされてたかも?」とか。


「めちゃくちゃ良い人で、頭も良いのはわかってたけど、毎日顔見るとなると、あの顔は見たくは無いかも?」とか。


彼女は面食いとか、そんなのでは無い。

確かに彼氏とか、デートした人はイケメンは多かったみたいだけど。

イケメンでも毎日見たくない、何だか生理的に好きでは無い顔はあるらしい。


それは何となくわかる。

先輩たちでも良い人だけど、この人とずっと一緒で顔を見ていたいか?と言われると、ノーな人はたくさんいる。


お互いに気に入った見た目で、人柄も合う人同士が、彼女や彼氏のいない良いタイミングで、出会うのは奇跡ではある。

タイミングが悪くて、付き合えなかったり。


祐希と野村君もそう。

でも本気で好きなら、途中で彼女と別れれば良いだけ。

大学時代だけでも、3年はあった。


「この子は俺が守ってあげないと…的に思わせるのが、上手い女の子はいるよね。あんなのに騙される男は馬鹿」と、今さらながら、2人で男子に文句を垂れた。


そんな感じで、引っ掛けられたような、男性陣が、結婚後直ぐに離婚してるのも知ってるから、コレはリアル。

女子同士ならすぐわかるような、ヤバい女の子。


「人のために、譲れないような子は結婚なんか上手くいかないのにね」とも。

言ってる2人は、かたや不倫中、もう1人もダンナを諦めてるけど。


不倫中の私は、ダンナと上手くいってない訳じゃない。

体調が良くなってきて、最近は仕事が先に終わったら、たいてい夕飯を作って待っていてくれる。


掃除も洗濯も全部してくれるし、夕飯は自分で全部買い物からして、家に帰るとお風呂も沸いてる。

真面目に独身時代欲しかった、奥さんのような感じで。


散々男への文句を言って、朋子はジュースを買いに出た。


朋子を誘ったのも、場所はそう近くは無いけど、旅行に出たら彼に会いたくなって、「来て」とか「行く」とかしてしまいそうだったから。


まだ、心のバランスは半々ぐらいで。

ジュースを買ってる間に、海が見えるベランダからつい会いたくなって、彼に電話した。


朋子は察して、部屋で大人しくジュースを飲んでいた。

戻ると「誰?」と確認した。

「あの人」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る