第21話 姉妹の再会とレオンの決意 -1

 瘴気の森をさらに奥へ進む一行。フィリアは、精霊魔法で瘴気を払いながら、無邪気にカイの隣を陣取った。


「お姉さまの言っていた『異世界人』さんですね!どうして異世界から来たのですか?故郷はどんなところですか?食べ物はおいしいですか?お祭りとかありますか?」


 フィリアは、まるで機関銃のように質問を浴びせかける。


 カイは、フィリアの純粋な好奇心に少し圧倒されながらも、嬉しそうに答えた。


「え、えーと、故郷は日本って言うんだ。食べ物なら寿司とかラーメンとか…お祭りも色々あるよ!夏には花火が上がったり…」


 そう言って、カイはリュックからスマホを取り出し、故郷の写真を見せびらかし始めた。現代の建造物や、色とりどりの料理、夜空を彩る花火の写真に、フィリアは目を輝かせた。


「わあ…!すごく綺麗です!これが『花火』なのですね…!聖なる光の一種なのですか?」


 フィリアの無邪気な質問に、セレナの聖女としてのプライドが刺激された。


(あ、あのフィリアさん…! カイさんにばかり話しかけて…! 聖女の私よりも、精霊使いの方が偉い、とでも言うつもりでしょうか…! いいえ、そうではありませんわ…! カイさんには、もっと神聖で美しいものを見ていただきたいのです…!)


 セレナは、内心でそう思いながら、フィリアに負けじとカイにアピールする。


「フィリアさん、カイさんは、このような危険な森を、清らかな心で進んでおられます。それは、私の聖なる力が、カイさんを清めているからなのですわ」


 セレナは、カイの肩にそっと手を置き、優しい笑顔を向けた。


 その様子を、ルナは不満そうに見ていた。


(なによ、あんな新参者に、そんなに楽しそうに…! それに、何よその光る板…!私の魔法よりすごいなんて、絶対認めない…!)


 ルナは、獣人の耳が不満そうにぴくぴくと動く。彼女はフィリアの無邪気な好奇心に嫉妬し、会話に割り込もうと試みる。


「カイ、そんな世間話をしている暇はないわ。私がどれだけ優れた魔法使いか、知らないの!?」


 ルナは、叫びながら、道を塞ぐ巨大な岩に攻撃魔法を放った。火の玉が岩に激突し、爆音と共に岩は粉砕される。その魔法は、感情が高ぶっているせいで、どこか不安定だった。


 セレナは、ルナの行動に負けじと、怪我をしていないカイに回復魔法をかけようとする。


「カイさん、もしよろしければ、私の回復魔法を試してみませんか?」


 カイは、二人の様子に、呑気な反応をする。


「え、二人ともどうしたんだ?なんだか今日は、一段とやる気があるみたいだね!」


 そんな三人の様子を横目に、システィナは満足そうに微笑む。


(…ふふん。どうやら、このドタバタラブコメ、新しいヒロインの登場で、さらに面白くなってきたようね…)


 システィナは、まるで舞台観劇でもするかのように、三人のやり取りを観察していた。彼女は、妹の登場によって、自身が「ラブコメの傍観者」から「当事者」になるかもしれないという予感に、胸が高鳴るのを感じていた。








 その日の夕方、一行は森の中の広場で野営をすることにした。


 カイが夕食の準備をしている間、ルナとセレナは少し離れた場所で、焚き火の番をしながら話し始めた。


「セレナ…あの、フィリアって子、すごく馴れ馴れしくない?」


 ルナが、小声でセレナに問いかける。


「そうですね…。私も少し、戸惑っておりますわ」


 セレナは、そう答えながらも、内心でルナを警戒していた。ルナの言葉は、フィリアに対する不満と同時に、自分への牽制でもあると見抜いていたのだ。


「あの子、カイにばかり話しかけて…!まるで、自分だけがカイの隣にいるのが当然、みたいに…!」


 ルナは、不満そうにぷい、と横を向く。


「ルナさんこそ、先ほどは急に大声を出して、とても驚きましたわ。まるで、子供みたいですわね」


 セレナは、笑顔のまま、ルナに鋭い一撃を放つ。ルナは、ぐっ、と言葉に詰まり、耳をぴくぴくと動かす。


「なっ…! 別に、子供じゃ…!」


「ふふっ、冗談ですわ。でも、カイさんには、もっと落ち着いた、知的な女性が似合うと思うのですけど…」


「なんですって!?」


 ルナは、セレナの挑発的な言葉に、思わず立ち上がった。


 そんな二人のやり取りを、フィリアは少し離れた場所から見ていた。


(……ふふふ、お姉さまのがこのパーティにいる理由がわかったわ。このドタバタラブコメ、本当に面白い…!私も、もっと積極的に参加しなくちゃ!)


 フィリアは、システィナから聞かされた「ラブコメ」という概念を、独自の解釈で楽しんでいた。彼女は、この状況を、姉の恋愛を成就させるための「イベント」だと捉えていたのだ。


 その時、フィリアはレオンに近づき、真剣な眼差しで語りかけた。


「レオンさん。お姉さまは、本当はとても優しい人なんです。でも、強がってしまうところがあって…。レオンさんなら、きっとお姉さまを大切にしてくれると信じています」


 フィリアの言葉に、レオンは驚きを隠せなかった。彼は、システィナの苦悩を知り、彼女を守ることを決意する。


 レオンは、フィリアに力強く答えた。


「ああ、任せてくれ!俺が、必ず彼女を守ってみせる!」


 レオンの真剣な言葉に、システィナは顔を真っ赤にする。


「な、何言ってるのよ…! レオンったら…! 私自身のラブコメは要らないのに…! もう、バカ…!」


 システィナは、可愛らしくぶつぶつとつぶやいた。

 しかし、その表情はどこか嬉しそうだ。


 そんなシスティナの様子に、レオンはハラハラする。


(…システィナがこんなに素直だなんて…! また、何か大きな企みがあるに違いない…! いや、待てよ…もしかして、これが本当に…!)


 レオンは、システィナの珍しくしおらしい態度に、かえって警戒心を強めた。彼の胸中には、システィナのいつもの悪巧みに対する警戒と、彼女の素直な感情を見抜けない焦りが入り混じっていた。

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