本編

第19話 森での出会いと三つ巴の始まり -1

 ゴーレム・キングとの激闘を終え、一行は森の中を歩いていた。前日までの高揚感はどこへやら、彼らの足取りは重く、空気が張り詰めている。


 森の入り口までは、木漏れ日が差し込む美しい道だった。


 しかし、一歩足を踏み入れた途端、木々は黒ずみ、草花は枯れ、不穏な空気が肌を刺すように感じられる。


「この森、嫌な感じがする…」


 ルナは、ぴくぴくと動く獣人の耳を押さえながら、不安そうに呟いた。


「ええ、精霊様の声が聞こえませんわ…」


 聖女であるセレナもまた、顔を曇らせる。彼女は、幼い頃から精霊の声を聞くことができた。しかし、この森では、どんなに耳を澄ましても、精霊の声は聞こえてこなかった。


「勇者殿、この先は危険だ。警戒を怠るな」


 レオンは、腰に下げた剣に手をかけ、あたりを警戒する。


 そんな仲間たちの様子に、カイは首を傾げた。


「え、そうなの?俺には、ただの森にしか見えないんだけど…」


 カイの言葉に、ルナとセレナは呆れたような表情を浮かべる。


「鈍感にもほどがあるわよ!この空気に、なにも感じないの!?」


「カイさん…!この森は、魔王の瘴気に侵されているのですわ…」


 カイは、二人の言葉に、キョトンとした表情を浮かべる。


「え、魔王の瘴気?そんなのがあるんだ…」


 現代日本から転生したカイには、「魔王の瘴気」という概念は理解できなかった。彼はただ、目の前にある、少し薄暗い森を、不思議そうに眺めているだけだった。


「はっは〜ん、おやおや…勇者様は、この世界の常識に疎いようね。でも、それがまた、面白いわね」


 システィナは、ニヤニヤと笑いながら、カイに近づく。


「この森は、精霊たちの力が弱まって、魔王の瘴気に侵食されているの。だから、精霊の声が聞こえなくなったり、動物たちが凶暴になったりするわ」


 システィナの説明に、カイは納得したような表情を浮かべた。


「なるほど!じゃあ、この森を元に戻してあげないと、だね!」


 カイは、元気な声でそう言い放つ。その言葉に、ルナとセレナは、思わず顔を合わせた。


「…あんたって、本当に呑気なのね…」


 ルナは、呆れながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべる。


「でも、カイさんのおかげで、少し気が楽になりましたわ」


 セレナもまた、微笑みながらそう言った。


 その時、森の奥から、優しい歌声が聞こえてきた。


「…何の歌だろう…?」


 カイは、不思議そうに首を傾げる。ルナとセレナは、その歌声に、ハッとした表情を浮かべた。


「…この歌声…精霊の歌だわ…!」


「でも、どうして…?精霊の声は、聞こえないはずなのに…」


 二人が困惑していると、歌声はさらに近づいてきた。そして、木々の間から、一人の少女が姿を現した。


 銀色の髪と、エメラルド色の瞳を持つ可憐な少女。彼女は、精霊たちと共に歌を歌いながら、森の中を歩いていた。


「……あの子は…」


 ルナとセレナは、その少女の姿を見て、息をのんだ。少女の容姿は、システィナに瓜二つだったのだ。


 少女は、カイたち一行の姿を見つけると、歌をピタリと止めた。そして、その視線は、システィナに注がれた。


「…お姉さま…?」


 少女は、震える声で呟いた。


「……フィリア…」


 システィナは、驚きと動揺が入り混じった表情で、少女の名を呼んだ。


 その言葉を聞いた瞬間、少女は満面の笑みを浮かべ、システィナに駆け寄った。


「お姉さま!やっぱり、お姉さまだったんですね!」


 少女は、システィナに抱きつき、システィナは戸惑いながらも、少女の頭を優しく撫でた。


 その様子を、カイたち一行は、呆然と見つめていた。


「え、システィナ様に、妹さんが…?」


 カイは、信じられないという表情で呟く。


「嘘だろ…!あんなに可愛らしい子が、あのシスティナ様の妹だなんて…!」


 レオンは、絶句していた。


「……どういう意味よ…」


 システィナが、冷たい声でレオンに問いかける。


「い、いや!その…なんでもありません!システィナ様は、いつもお美しいですが、その…妹さんも、また違った美しさが…!その…」


 レオンは、焦って言葉を詰まらせた。


 ルナとセレナは、そんなレオンの言葉に、思わず頷いた。


「フィリア、どうしてここに?まさか、この森の瘴気を浄化しに来たの?」


 システィナは、フィリアに問いかける。フィリアは、システィナの言葉に、悲しそうな表情を浮かべた。


「はい…。この森の精霊さんが苦しんでいるんです。でも、私の力だけでは、どうにもならなくて…」


 フィリアは、そう言いながら、システィナの顔を見つめた。


「お姉さまこそ…!どうして、あの時、何も言わずに故郷を出て行ったのですか?…私は、ずっとお姉さまを探していました」


 フィリアの言葉に、システィナは一瞬だけ、表情を曇らせた。


「……私はただ、外の世界を見たかっただけよ」


 システィナは、そう曖昧に答えた。


「本当ですか…?お姉さまがここにいる理由、もしかして、魔王を…?」


 フィリアは、システィナに問い詰める。


「まさか。私はただの賢者よ。魔王を倒すなんて柄じゃないわ」


 システィナは、言葉を濁した。


「それより、あなたの用件は?この森を救うこと、でしたよね?」


 システィナは、話を元に戻す。フィリアは、頷き、真剣な表情でカイたちを見つめた。


「この森の瘴気の源は、奥にある『呪われた泉』です。精霊の力が弱まり、泉の力が暴走しているんです。これを浄化するには、精霊の力と、聖なる力…そして、強い絆を持った心が必要です」


 フィリアは、そう言って、カイとルナ、そしてセレナを見つめた。


「俺たちの絆なら、どんな問題も解決できるさ!よし、行こう、みんな!」


 カイは、フィリアの言葉に、力強く宣言する。その言葉に、フィリアは安心したように微笑んだ。


「ありがとうございます…!やはり、あなたたちは特別な方なのですね…!」

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