異世界サッカー無双~俺のスキルは全部サッカー由来らしい~
旅する書斎(☆ほしい)
第1話
どこまでも、どこまでも続く緑。
視界の果てまで広がる、完璧に刈りそろえられた天然芝。空は突き抜けるように青く、白い雲がゆっくりと流れていく。まるで、世界で一番大きなサッカースタジアムの、そのど真ん中に立っているかのようだった。
「最高のピッチだな……」
俺、青山翔(あおやまかける)は、思わずそう呟いていた。
ついさっきまで、近所の河川敷でリフティングの練習をしていたはずだ。それがどうして、こんな場所にいるのか。普通なら混乱するところだろう。だが、俺の心は不思議なくらい穏やかだった。むしろ、この完璧な環境に胸が高鳴っていた。足元には、長年使い込んだ相棒のサッカーボール。服装も、お気に入りの青いサッカーユニフォームとスパイクのままだ。
状況は全く分からない。だが、これだけは分かる。
――ここは、最高のサッカーができる場所だ。
俺は笑みを浮かべ、足元のボールを軽く蹴り上げた。トントン、と小気味よい音が響く。ボールはまるで磁石のように足に吸い付き、意のままに弾む。うん、体の調子も最高だ。
「よーっし、まずはウォーミングアップからだな!」
誰に言うでもなく気合を入れ、ドリブルを始めたその時だった。
「きゃあああああっ!」
甲高い悲鳴が聞こえた。
声がした方へ視線を向けると、緑のフィールドの向こうから、何かが猛スピードでこちらへ走ってくるのが見えた。長い耳……ウサギ? いや、ウサギの耳を生やした女の子だ。小さな体に似合わない大きな籠を抱え、必死の形相でこちらへ向かってくる。
そして、その後ろからは、緑色の肌をした奇妙な小人たちが、棍棒を振り回しながら追いかけてきていた。数は5匹。背丈は女の子の半分くらいしかないが、その形相は明らかに敵意に満ちている。
「ゴブ! ゴブゴブ!」
「ソレ、ヨコセ! ウマソウナ、リンゴ!」
どうやら、女の子が持っている籠の中身が目当てらしい。籠からは、太陽のように真っ赤な果物がいくつもこぼれ落ちている。
女の子はついに足がもつれて転んでしまい、籠の中身が芝生の上に散らばった。それを見て、緑の小人――ゴブリン、というやつだろうか――たちはゲラゲラと下品な笑い声を上げる。
「ゴブ! モラッタ!」
リーダー格らしい一匹が、落ちた果物に手を伸ばす。女の子は涙目でそれを見ていることしかできない。
俺は、その光景を冷静に見ていた。
なるほど。状況は理解した。
あれは、5対1の変則マッチ。相手チームは、明らかにラフプレーでボール(果物)を奪おうとしている。そして、泣いているあの子は、俺と同じチームの「サポーター」だ。
サポーターが悲しんでいる。チームの危機だ。
ならば、俺がやるべきことは一つしかない。
「――そこまでだ」
俺は、ゴブリンたちの前にゆっくりと歩み出た。
「ゴブ? ナンダ、オマエ?」
ゴブリンたちが怪訝な顔で俺を見る。俺はにっこりと笑いかけ、人差し指を立ててみせた。
「君たちのプレーはいただけないな。フェアプレーの精神に反する。それに、俺たちのチームのボールに勝手に触るのはルール違反だ」
「ナニイッテル、コイツ?」
「ニンゲン、コロス!」
ゴ_ブリンたちが一斉に棍棒を振りかぶり、襲いかかってきた。ウサギ耳の女の子が「危ない!」と叫ぶ。
だが、俺の目は冷静に敵の動きを捉えていた。
まるでスローモーションのように、ゴブリンたちの動きが見える。右のやつは単純な振り下ろし。左は薙ぎ払い。中央の3匹は同時に突っ込んでくる。完璧な布陣だ。だが、甘い。
「甘いよ。そんな単調なプレスじゃ、俺は止められない」
俺は足元のボールを軽く蹴り出すと、一気にトップスピードに乗った。
$$
俺の体が、すぅっと左右にブレる。
ゴブリンたちの棍棒が空を切った。彼らが殴りつけたのは、俺がたった今通り過ぎた場所に残る、陽炎のような残像だった。
「ゴブッ!?」
「ドコイッタ!?」
混乱するゴブリンたちを尻目に、俺はピッチに散らばったリンゴを一つずつ、足で優しくコントロールしていく。まるでボールが複数あるかのような、繊細なボールタッチ。一つ、また一つと、リンゴが俺の周りに集まってくる。
「な……なに、あれ……」
ウサギ耳の女の子が、呆然と呟くのが聞こえた。
全てのリンゴを回収し終えた俺は、ゴブリンたちの正面でぴたりと止まる。
「さて、と。カウンターの時間だ」
俺はニヤリと笑うと、足元に集めたリンゴではなく、何もない空間を思いっきり蹴り抜いた。
$$
ドンッ! という鈍い衝撃音と共に、俺のスパイクから圧縮された空気の塊が撃ち出された。それは目に見えないボールとなり、不規則に揺れながらゴブリンたちへと突き進む。
「「「ゴブッ!?」」」
ゴブリンたちは見えない砲弾に何が起きたか理解できず、為す術もなく吹き飛ばされた。まるでボーリングのピンのように、一列に並んでいた5匹が綺麗に弾け飛ぶ。彼らは芝生の上をゴロゴロと転がり、目を回して立ち上がると、恐怖に顔を引きつらせて一目散に逃げていった。
一滴の血も流れていない。リンゴも一つも傷ついていない。完璧なカウンターだった。
「……ふぅ。ナイスゲーム」
俺は満足げに息をつき、散らばっていたリンゴを足技だけで女の子の籠の中へと綺麗に戻してやった。
「あ、あの……」
女の子が、大きな瞳をぱちくりさせながら俺を見上げてくる。長い耳がぴこぴこと動いていた。
「大丈夫だったかい? サポーターさん」
「さぽーたー……? あの、助けてくれて、ありがとうございます! 私、フィフィって言います。あなたは?」
「俺は青山翔。カケルって呼んでくれ」
俺が笑顔で自己紹介すると、フィフィちゃんはぺこりとお辞儀をした。
「カケルさん……あの、さっきの、すごかったです! 魔法……ですか? でも、詠唱も魔法陣もなかったし……」
「魔法? いや、これはサッカーだよ」
「さっかー……?」
フィフィちゃんは首を傾げている。どうやらこの世界にはサッカーという概念がないらしい。それは少し残念だが、まあいい。これから広めていけばいいだけのことだ。
「それより、ここはどこなんだ? 見渡す限り芝生だけど」
「え? ここは『ミッドフィールド平原』ですよ? アストリアの世界の、ちょうど真ん中あたりです」
「アストリア……」
聞いたことのない地名だ。どうやら俺は、本当に知らない場所に来てしまったらしい。
だが、不思議と不安はなかった。
こんなに素晴らしいピッチがあるんだ。きっと楽しい場所に違いない。
「そっか。なあ、フィフィちゃん。この近くに、街とかあるのか? できれば、サッカーゴールがある場所がいいんだけど」
「ま、街なら、あっちの方角に『キックスガルド』っていう大きな街がありますけど……さっかーごーる? は、分かりません……」
「そっか。じゃあ、とりあえずその街に行ってみるか。案内してくれるかい?」
「は、はい! もちろんです! 命の恩人ですもの!」
フィフィちゃんは元気よく頷くと、籠を大事そうに抱え直して立ち上がった。
こうして、俺の異世界での生活は始まった。
目的はただ一つ。
この広大なピッチで、最高のサッカーをすること。
そのためなら、どんな相手だろうと、俺のキックで道を切り開いてみせる。
これは、俺がこの世界で「伝説のストライカー」と呼ばれることになる、物語の序章に過ぎない。
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