お姉様と呼ばないで

 今日も疲れた。

 私達は、早めに夕食と入浴を済ませて、寝床に入った。


 どんどんどん! がこがこがっこん! ひひぃーん!


「敵襲か!?」


 そろそろ朝も明けようかという時間帯。あまりの騒々しさに目が覚める。

 飛び起きた私は、パンイチのまま窓まで走り、カーテンを開ける。


「火の手はあがってないわね?」


 ふぅ。考えてみれば、ここは戦国の世ではない。

 夜襲を受ける事など、あるまい。 … そうかしら? 昨日も変なのに襲われたような気がするし … 。

 でも、騒音は上から聞こえる。これは、集合住宅の騒音被害というやつなのでは?

 この寮には、淑女しか居ないはずなのに。困ったものだ。

 朝になったら、寮長に相談の上、打ち首だ。


 子分達も目が覚めたのだろう、ふたりして枕を抱えて私の部屋へやって来た。


「おやぶーん、怪奇現象なんよー、ユニコーンの呪いじゃろかー」

「こわいから、一緒に寝る」

「もうすぐ夜が明けるし、諦めたら? 上の住人が騒いでるんでしょ? 」

「ここ最上階の角部屋なんじゃけどー」


 なるほど?

 これが、ポルターガイストってやつかしら?

 呪われる覚えなら数えきれない程あるし? 前世のだけどね。

 ふむ? 討伐に行きましょうか。

 騒ぐなら 殺してしまおう 上のバカ。


「馬が居るわね? 生きてるみたいよ?」

「なんで寮の屋上に馬が!? ある意味、お化けより怖いんじゃがー」


 最上階だからと言って、その上に人の居る空間が無いわけではない。

 私達は、非常階段を使って、屋上の様子を見に来た。

 そこに居たのは、馬だった … 。どこかで見たような、真っ白な馬が、屋上で暴れている。


「うーん、人なら突き落とせばいいかと思ってたんだけど、馬じゃなあ」

「親分の情緒が、どうなっちょるのか分からんのじゃけど … 」


 よし、捕獲しよう!

 もっとも、馬の飼育は、手間もお金もかかるから、フリマアプリってやつで売るか。


「親分。フリマアプリで生き物売るのは禁止だよ」

「あんたも、私の考えが分かるようになってきたじゃないの」

「ワシ分からん … 。子分、失格じゃろか」

「こんな時間に付き合ってくれるのだから、どっちも最高の子分に決まってるでしょ」

「お、親分 … 。ワシ、心の準備が出来たんよ」


 どうするかは、捕獲してから考えよう。

 しかし、どうしたものかしら? 馬って案外繊細な生き物だからね。下手な事は出来ない。


「お姉様! こんなところで何をしてらっしゃるの?」


 なんか来た。

 そういえば、ここは伯爵以上の貴族と王族専用の寮だったわー。こいつ、王族だったわー。もう釈放されちゃったのー?


「あんたこそ、何しに来たの?」

「ペガサスの朝の散歩ですわ!」


 やはりというか、こいつの馬かー。

 なんで夜明け前に朝の散歩に行くの? とか、なんで屋上で馬飼ってんの? とか、聞きたい事は、沢山あったけど。相手にしたくないので、黙っておいた。


「お姉様も、ご一緒にいかがです?」

「いや、私は漆黒の馬派だから」

「残念ですわ!」


 ペガサスというくらいだから、もしかして屋上から飛び立つかも? と期待したのだけど、普通に非常階段を降りて行った。鉄製の階段だから、カツンカツンうるせえ。

 やっぱり、アイツは打ち首かしらね。


「なんで、私がお姉様なの … ? どういう情動で、あんなにとち狂ってんの? 兄の仇は何処行ったの?」

「さあ … ? そもそも、あいつゲーム内におらんのじゃけど」

「設定資料集にも載ってないよ」


 あんな妹はいらないなあ … 。

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