ユニコーンに乗った王子様
学園の正門まで帰って来たところで、ずどん! と大気が震えた。
このゲーム世界の主人公であるキョウコの部屋に仕掛けた爆弾が爆発したのだ。
「設定した時間より、早くないかしら?」
爆弾は1時間後に爆発するようにセットしたはずなのに、まだ10分程度しか経っていない。
ここに帰って来る途中で転んだりしていたら、私達も爆発に巻き込まれたんじゃないの?
「タイマーに欠陥があったのかも」
爆弾を作ったハーが、しれっとそんな事を言う。
もしかしたら、ハー爆弾を盗んで学園の食堂を爆破したキョウコは、自爆テロのつもりは無かったのかも知れない。タイマーの欠陥のせいで、不本意に爆発に巻き込まれたのかも。
他人の爆弾を盗んで爆破テロする様なヤツに同情するつもりも無いし、過ぎた事だから、知ったこっちゃないけど。
「かも、じゃないけえ! へたしたらワシらも死ぬとこじゃったよ!?」
ミーの言う事は、もっともだけど、あまり騒がないで欲しい。
野次馬が、わらわらと集まって来ているのだ。
しかし、こいつら懲りないな。昨日の食堂の爆発は、二発目があったというのに。
今回はそれが無い事を、実行犯である私は知っているのだけど。
この学園は、王子や王女が通う程のエリート校なんじゃないの?
危機管理能力の欠如した生徒ばかりで大丈夫?
この国の未来が、失敗になってくるな。
「まあ、おそろしい。早く寮に帰りましょう」
「の、のじゃー!」
私達は、ひ弱な子羊のフリをしながら、その場を立ち去ろうとした。
ここで平然としていたら、怪しまれるかも知れないからね。
そこに、ずどーん! と二発目の爆発が起きた。
きっと、ガスにでも引火したのだろう。
狙ったワケじゃないけど、昨日の事件との類似性が出来た。
同一犯の犯行って線で、警察の捜査が進む事だろう。
これで、ひとまず目先の危機は去った、と思う。
昨日の爆発騒ぎで中断していた、情報の入手を再開するため図書館へと向かう。
ミーとハーは、引っ越しの荷物を片付けているけど、僅かばかりしか無かったので、すぐに合流する事だろう。私だけ先にひとりで行く。
「ラノベコーナーはどこかしら?」
図書館の司書に確認する。
司書は、おさげに眼鏡という、まるで図書館の妖精のような少女だ。まさに、司書って感じ。生まれつき司書なんじゃないだろうか。
見た感じ、私と同年代くらいだから、司書ではなく図書委員なのかも。
もしかして、この子はゲームの攻略対象なのかも?
あ、違うか。攻略対象は男だったわ。
そういえば、それっぽい男をまだ見てないわね。
まあ、どうでもいい。
それよりも情報の入手だ。
ラノベを読めば、この世界の文化や風俗が分かる事だろう。
文化や風俗を知れば、この世界での成り上がり方を検討出来る。
政治や経済については、授業で教わればいい。爆弾テロのせいで、しばらく休校みたいだけど。
「何かおススメはある?」
案内されたコーナーには大量のラノベがあった。
どれを読んだものか迷ったので、図書館の妖精に聞いてみる。
「どういったのが好みですか?」
「そうねー、学園が舞台で、没落貴族の令嬢が成り上がる展開のやつとか?」
「随分、具体的ですね ?」
私自身が、そういう境遇だからね。
おススメして貰ったラノベを手に、窓際の陽当りのいい席につく。
午前中の陽差しの中、読書をする。なかなかに優雅じゃないの。
『両親の仇をとるために超エリート校に入学した私は、ユニコーンに乗った王子様と出会い恋に堕ちたのです』
なんで、こんなにタイトルが長いの?
それに、ユニコーンに乗れるのって、純潔の乙女だけじゃなかった? なんで王子様が乗ってんの?
いろいろと気になるところがあったけども、目的は物語を楽しむ事ではないので、とにかく読んでみる。
「王子様は、オトコの娘? ミスターレディーみたいなもんかしらね? どうりでユニコーンに乗ってるはずだわー。いや、乗れるか?」
ユニコーンに乗った王子様に出会った主人公は、ユニコーンごと王子様を斬り捨てようとする。王子が両親の仇って事? 恋に堕ちてないし、国家反逆罪で、島流しになってんだけど。学園じゃなくて監獄が舞台だし。堕ちるって何だ、と思ったら、社会の底辺に堕ちてるわね。
「今知りたいのは、斬新な脱獄手順じゃないんだけどなあ」
それでも、おもしろい。
中世フランスにも戦国時代にも、小説はごくわずかしか無かったもんなあ。娯楽に飢えていたところに、荒唐無稽なストーリーが染みる。
「親分てえへんだー!」
ミーとハーがやって来た。
悪役令嬢の子分というより、時代劇の岡っ引きみたいな事言ってるけど。
「どうしたのよ。図書館なんだから静かにしなさい」
何があったのかしら?
住んでたアパートが爆弾で吹き飛んでも、まったく動じなかったハーまで、ちょっと焦ってない? 表情が乏しいから分かりづらいけども。
「寮の食堂が閉鎖された」
衝撃の事実を、ハーが静かに告げた。
没落貴族である私は、現金の所持もほぼ無いので、寮の食堂で出される食事が生命線。寮の食事は、既に払ってある寮費に含まれているからね。出費無しでいただけるのだ。
確かに、てえへんだわ。一大事だわ。
一難去ってまた一難、このの危機は致命的だわー。ご飯が食べれられないと死んじゃう。その辺の草を食べる時が来ちゃった!?
先程の爆発で、都市ガスの配管が吹き飛んだらしく、学園全体でガスが使えないのだとか。
うーん。自業自得!
「お金なら、ウチもない」
「ワシもないんよ」
なんで子分まで貧しいのか。
親分の甲斐性が無いからね。
こうなったら、やむを得ない。
「ゲームの攻略対象に、金持ちは居ないの?」
このゲーム世界では、主人公と悪役令嬢である私が、男を奪い合う、という設定だ。
うまくすれば、金持ちの攻略対象をたらし込む事が出来るんじゃないだろうか。
ライバルである主人公は、もう死んでるし、勝算は高いんじゃないの?
「金持ちなら、ユニコーンに乗った王子様がおるんよ」
なんか、妙なところでシンクロしてるなあ。
その王子様、オトコの娘ってやつじゃないの?
「よし! じゃあ、そいつを斬り捨てて金品を奪おう」
「のじゃー! って、違ーう! なんでじゃ!」
おお、今のがノリ突っ込みってやつね?
たった今、ラノベでその知識は仕入れたわよ。
「あれ? 王子は爆弾テロに巻き込まれたんじゃないの?」
「食堂に居たのは影武者だったみたい」
「さっき、中庭でユニコーンに乗った王子様を見たんよ」
さあ、不本意ながら、この世界の本来の目的である王子攻略を始めるわよ!
ダメだった時は、前世で宣言した通りに、その辺の草でも食べよう。
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