爆弾がなければ、作ればいいじゃない

「えー? 爆弾テロなんてシナリオ、このゲームにあったかなあ?」


 子分Aによると、このゲーム世界では、爆弾テロは起きないらしい。

 しかし、実際に起きてしまった。

 それも、ゲーム開始直後のタイミングである、入学式の日の午後にいきなり。

 最初の爆発は、子分BがAにチャットで伝えた通りに、ガス爆発だったらしい。

 きっと、それも工作なのだろうけど、2発目は明らかに爆弾による破壊だった。

 多数の生徒や教師達が、巻き込まれて被害にあった。

 食堂棟に居た子分Bも例外ではなかったのだけど。


「わざわざ来て頂いてすみません。軽傷なので、帰っても大丈夫だそうです」


 子分Bは、片目に眼帯、頭と片腕を包帯でぐるぐる巻きにしていて、見た目には軽傷には見えないのだけど。


「あー、これは様式美ってやつじゃけ。大丈夫じゃろ」


 子分Aによると、様式美なんだとか。

 まあ、確かに眼帯と包帯の少女は、特定の性癖に刺さりそうではある。


「これ自分で巻いたんで、大げさになってるだけですから」


 子分Bによると、トリアージで治療を後回しにされたので、眼帯と包帯を貰って自前でやったらしい。

 トリアージなんて日本では定着しないと思っていたのだけど。確かに、ここは未来に作られたゲームの中らしいわね。


「様式美なので」


 子分Aと同じ事を言うBは、名前が無い事が示す通りモブキャラなので、これといった特徴は無い。

 上級学校の新入生なのだから、15歳のはずなのに、幼女にしか見えない、というのもAと同じ。

 性格は、活発そうなAと違って、大人しい感じだろうか。

 髪型は、Aがポニーテールで、Bはショートカット。

 Bの方は、異世界転生者ではないのだろうか? 設定通りに、私の子分といった振る舞いをしているように見受けられる。

 Aの方は、私も自身と同じ異世界転生者だと分かってからは、かなり気安い感じで接して来るけど。

 もっとも、地元の言葉使いは、友達に対するのと、目上の人に対するのとで、あまり変化が無いので、一概には言えないけども。


「ほいじゃあ、寮に帰ってお風呂にでも入ろうか」

「うん。爆発の煙で汚れたし、私もお風呂入りたい」

「お風呂? いいわね!」


 子分Aが入浴を提案し、Bが同意、私はテンションが上がる。

 寮には、きっと共同浴場があるのだろう。

 いつでもお風呂に入れる環境なんて、いつぶりだろうか。

 戦国時代にも温泉はあったけど、どれも山奥なんかにある隠し湯で、いつでも気軽に入れないし、何よりも命がけだったからなあ。だって、全裸で居るところを、敵に襲われたら、応戦するのが大変だもの。


 寮は、学園の敷地内にあった。

 通学が楽でいいわね、などと思いながら中に入る。

 1階に、食堂や売店、共同浴場などがある。

 2階以上が、生徒の暮らす部屋。

 私の部屋は、最上階の角部屋で、個室だった。

 隣が子分達の部屋で、二人は相部屋。

 まずは、着替えをとりに子分達を引き連れて、自分の部屋に向かった。


「没落したとはいえ貴族だから、優遇されているのかしら?」


 自分自身の事なのに、転生直後である私には事情が分からないので、子分Aに聞いてみる。

 最上階の角部屋の個室、きっといい部屋なのよね?

 登り降りするのが面倒だけども。古い建物だからか、エレベーターなんて無いし。


「親分の家が破産する前に、入学の手続きは済んじょったけ。公爵令嬢待遇なんよ。学費と寮費も入金済みじゃからして」

「寮費には、食費も含まれているのかしら?」

「日替わり定食だけなら」


 ふむ。少なくとも、学園に居る5年の間は、餓死する心配はなさそうだ。

 とはいえ、おやつだって食べたいし、コーヒーだって飲みたい。

 部屋にある着替えは、明日のパンツしか無いし。

 どうにかして、お金を作る必要がある。

 そのためには、この世界の事を、もっと知らなければ。

 でも、まあ。まずはお風呂よね!


「明日のパンツと小銭さえあれば、きっと何とかなるわね!」

「昭和の女なのに、何故平成ライダーの名セリフを」


 どうやら、偶然にも何かの名セリフと同じ事を言ってしまったらしい。

 知らなかったのだから、パクリじゃないわよ?

 

 さっきから、不自然な会話を子分Aと私はしているはずなのだけど、Bの方はじっと黙っている。

 どう受けてめているのか、大人しいのでよく分からない。

 でも、転生してしばらくは周囲の反応がおかしいのは、いつもの事なので、気にしない。


「ほいじゃあ、ワシらも自分の部屋に行ってくるんで、親分は、ちょっと待っちょって」

「私は、パンツとタオルを売店で買うから、先に親分と一緒に行くよ」


 子分Aが、自分の部屋に行っている間に、私と子分Bだけで、先に行く事にした。

 Bの方は、まだ引っ越しが済んでないので、寮の部屋には何も無いのだそうだ。


「明日、引っ越しを手伝って欲しい」

「いいわよ」


 一緒にお風呂へ向かう途中、ふたりきりになってからは、Bも少し話してくれた。

 爆弾テロの影響で、明日から1週間は休校になるそうで、その間に引っ越しを済ませたいのだとか。

 子分が困っていれば、手助けをする。前世の失敗を繰り返さないためだ。

 だから、「それは主従が逆なんじゃないの?」などと言わずに、Bに頼まれた引っ越しの手伝いを、快く引き受けた。


「はえ? 引っ越しがまだ? 実家は遠いんじゃなかったっけ?」

「実家は遠いけど、近くにアパートを借りてる」


 お風呂で合流した子分Aは、子分Bに違和感を感じているようだ。

 

「あれー? そんな設定、ワシ知らんのじゃけどー」


 と、ぶつぶつと言っている。


「爆弾テロもそうだけど、あんたが知らないルートのシナリオって事なんじゃないの?」

「ほうじゃろうかー? それはあり得るんじゃけどー」


 子分Aの背中を洗ってやりながら、そんな会話をする。

 子分Bの方は、さっさと自分で洗って、湯舟に行ってしまった。

 眼帯と包帯をとった跡には、かすり傷程度しか無かった。

 様式美だか何だか知らないけど、さすがに大げさ過ぎでしょ。

 まあ、大事無くて良かったけども。


 しかしー。


 幼女体型の子分達はともかく。

 私も、すっとんつるりんなんだけど。

 15歳なら、こんなもんかしら?

 何度も転生しても、この体型は変わる事が無い。

 何かの呪い? いや、大きな胸とかあっても、邪魔なだけだしね? 特に、戦闘にはね?

 顔は、国を傾ける程の、美少女ヅラなのだし、十分過ぎる。

 いざとなれば、美少女を武器にお金を稼ぐ事だって可能だろう。

 やらないけどね。


「明日は、何が起こるのかしらね?」

「さあー? 子分Bの引っ越しイベントなんて知らんけえ、分からんっちゃ」


 子分Aが知っているゲームとは、違う展開になっているようだ。

 子分A曰く、「攻略本片手にゲームする様なもんじゃけ、楽勝なんよ」との事だったのだけども。


 そして、風呂から上がり、食堂で日替わり定食を食べている時に、驚愕の事実を知る。

 ゲームの主人公が、爆弾テロに巻き込まれて死んでいたのだ。

 隣の席に居たのが、ゲームの主人公とは地元が同じなんだそうで、そんな事を話していた。

 もっとも、私にはその話がゲームの主人公の事だとは、分からなかったけども。

 子分Aは、主人公の名前なども知っていて理解出来たので、驚いて茫然としている。


「ゲームが始まる前に、もう終わってるじゃん」


 これから、どうなるのかしら?

 シナリオが違うどころじゃない展開になってしまっている。

 子分Aのゲーム知識が、役に立たないかも知れない。

 やはり、異世界転生は、攻略本通りにどうにか出来る程に甘くはないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る