02
結局、駅前のバスには間に合わなかった。
諦めて代古駅からタクシーを使って、祖父母の家に向かう。タクシーで移動だなんて、まるで大人になったような気分だが、お金は父から渡されたものなので、本当に大人なわけではない。
こっそりとバスで行って、差額をお小遣いにしてしまおうか、と思っていたのに、一日に三本しか運行していないようなので、さっきのを逃してしまった以上、後は夜の一本だけ。
祖父母宅から歩いて行ける場所にバス停が立っていた記憶があって、バスがあるんだからわざわざタクシーなんて使わなくても、と思ったけど、これはタクシーで行け、と、お金を渡してくるわけである。
祖父母の家に行くのは、一年ぶりだ。母親がいなくなったのがちょうど春休みのとき9だったので、その間だけ世話になったのだ。
今度は高校卒業までお世話になる予定だけど。
祖父母宅に着いて、タクシーで料金を精算。父からすでに合鍵を預かっていたけれど、いきなり使うのは少し気が引けて、わたしはインターホンを鳴らす。
「はいはぁい、どちら様?」
インターホンのボタンを押してから少しして、そんなことを言いながら祖母が戸を開ける。
「わたしだけど……。もう! ちゃんとインターホンで、誰が来たのか確認してから扉を開けないと危ないって言ってるでしょ」
わたしがそう注意しながら言うと、祖母は分かっているのか分かっていないのか、「はいはい」と軽くあしらうように言った。
そんな祖母の足の隙間から、ひょい、と茶トラ猫が抜け出てくる。そのまま、勢いよくわたしの体をよじ登ってくる。わたしは慌てて鞄を下に置きながら、彼を抱っこする。
「元気だねえ、むかご」
わたしが声をかけると、むかごは元気に「にゃあん」と鳴いた。
実家暮らしだった父が結婚を機に家を出て、そのタイミングで祖父母が飼い始めたというオスの茶トラ猫のむかごは、わたしの一つ下。猫の十六歳と言えば、シニア猫と言われるような年齢ではあるのに、老いはかけらも感じられない。毛並みもよく、動きも軽やか。流石に子供とは言えないような体の大きさではあるけれど。
むかごを抱きかかえたまま、わたしは鞄を持ち直し、玄関へと上がる。
「荷物、先に届いてるのは部屋に置いてあるからねえ。おじいちゃんに挨拶したら、確認しといで」
「うん、ありがとー」
言いながら、わたしは靴を脱ぎ――ふと、玄関に置いてあった靴箱の方から視線を感じた気がして、そちらを向く。
靴箱の上には、一年前にはなかった、結構大きな、猫のぬいぐるみが置かれていた。
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